65話 後悔
リルメス王国を出て、約五日が経過した。西の国であるリルメス王国から、南の国までは相当な時間がかかる。
そして、そこまで行くのにだって結構大変だ。なぜなら、地形がでこぼこで、馬車で通るには限界がある場所が存在する。
そこは、危険も多く渓谷も存在するほどだ。
「南の国まではどのくらい掛かる?」
ディランにそう聞くと、小さく唸っていた。
「ここからなら、約二ヶ月は掛かるかな」
リルメス王国にいたのが、九月……だった気がする。だが、秋だったのは間違いない。ならば、着くとしたら十一月から十二月あたり。
「結構、時間かかるなぁ」
「あぁ、だいぶかかる。気力も体力も結構減るぞ。それに、南の国では雪はあまり降らないが、道中で降らないとも限らない。防寒対策はしてた方がいいだろうな」
ディランの助言もいただきつつ、頷く。南の国では、実際行ったことはないが、冬の季節でも暖かいそうだ。だが、裏腹として夏は猛暑だそう。
「あ、そうだ。南の国から北の国までって、どのくらい時間かかるんだろうな」
「さぁな。馬車で行けば二ヶ月半はかかる。つまり、十一月から十二月あたりで着いたとしたら、そこから二ヶ月半後、一月から二月あたりに着くだろうな」
腕を組みながら、そう言うディランを見ながら、俺は驚愕する。
なぜなら、北は極寒の地域。平均気温で−50℃がある地域なんてあるほどだ。そのため、防寒対策は欠かせない。と言う噂らしい。
(凍え死ぬって……)
馬車に揺られながら、自然の道を走る。まだその日は天気は晴れ。曇りはあるもいい天気だ。風もなく、雨雲もない。
そんな時、不意にブローチが目に入る。
(………!………………大丈夫)
ブローチを強く握り、自分に言い聞かせた。
“大丈夫、大丈夫”と。
♦︎
月の光が雲に隠れる。薄月だ。俺はみんなが寝静まった頃、馬車を降り、地べたに座っていた。
ただうっすらと見える、その月をただ見ているだけ。まだどこかで立ち直れていないんだ。人の死を間近で見た事。
(忘れたいのに………いや、忘れないって、決めたんだもんな。一番辛いのは………きっとエヴィだ)
心の底では分かってた。一番辛いのは彼女だって事。だけど、やっぱり胸が苦しむ。あの時、どうすればよかったのかって。
———止めればよかったのか?
———気絶させてでも?
———なんで見ているだけしか出来なかったんだ?
———ただ綺麗事しか思ってなかったんじゃ?
———何か、方法があったんじゃなかったのか?
それらの言葉が、頭を埋め尽くす。何かが俺の心に入り込もうと。俺は、後悔しているんじゃないのか?
きっとそうだ。だから、悪夢を見るんだ。
あの出来事が頭にこびりつき、離れない。村での出来事と同じだ。
人の死を見るのなんて、ごめんだって思った。だけど———。だけど、どうしても、思い出してしまう。
拭いても拭いても取れない、そんな汚れのように。
しつこいそんな汚れが、頭から離れない。記憶から抹消したいほど。
「どうすれば………っ………よかったんだよ………っ」
みんなに弱い部分なんて、見せたくなかった。だから、こんな夜遅くまで起きてるんだろう。
目頭が熱くなる。涙が出てくるのが分かる。拭いでもどんどん出てくる。
夜って不思議なものだ。月を見ると落ち着いて、夜になると気分が沈む。
起こった出来事が、まるで昨日のように、思い出してしまうほど。
「くそっ………っ………くそっ………」
涙がどんどん溢れ出してくる。友人が死んだこと。
いくら短い時間だったとしても、“友人”と言う言葉が重みをかける。赤の他人だったら、ここまで悲しむことは出来なかったはずだ。
「どうしたらさ………っ………よかったんだろうな………っ………わかんねぇよ………っ」
俺の目線から、水が見え、当たりはうるうるしている。これは、俺の涙のせいだ。
涙を流すと、体が熱くなる。体全体が力んでしまう。あの時、エヴィがライリーの墓に、縋り寄ろうとしたあの行動、今なら分かる。
信じたくない。受け入れられない。
“本当は生きてんだろ?”って思いたくなってしまう。
♦︎
彼が密かに泣いている時、気づかなかった。誰かに見られているなんて。
「………………アルベール」
彼女は、アルベールの泣いてる表情を初めて見たのか、少し驚きの顔を見せた。泣いてる場面が想像できないほど、いつもの表情からして。
馬車の影から、アルベールの涙声を聞く。それを聞くと、彼女も心が痛んだのか、胸をギュッと握りしめた。
友人を失ってしまった、その痛みが。だから、脳裏に現れる。もしかしたら、このまま進んでいけば、魔獣との戦いで、仲間が死んでしまうかもしれない。友人が死んでしまうかもしれない。
———あるいは、なんらかの戦いで、死者が出るかもしれない。
そんなの、彼女達は知らない。知る術もなく、知る良さもない。
マーティナの言った言葉を理解することさえ、アルベールは出来ない。
“未来は予測できない”。
だから、先が見えず、ワクワクするし、ドキドキもする。そして、不安を感じることも———。




