64話 リルメス王国
ライリーの葬式が終わり、俺たちの間での空気は重苦しい。
ディアーク・ラングトンはと言うと、家族と共に、遠い地へ引っ越して行った。まさか、牢に入れ込む前に逃げられるとは、正直言って思っても見ない。追いかけようにも、どこへ行ったか分からないやつの追跡など、骨が折れる作業だ。
(くそっ、今度会った時、ぜってぇ牢にぶち入れてやる)
怒りの印を露とするも、一旦心を落ち着かせる。息を吸い、吐く。それだけでも怒りは収まってくるものだ。
そろそろ、出発しなければならない。馬車を用意し、俺は馬の方へと乗る。出発する前に、アストラさんがやって来た。それを確認した俺は、馬から降り、地面に降り立つ。
「これをどうぞ。皆さんに」
宝石で出来たアクセサリーだった。俺はブレスレット、エイダンはペンダント、ライアンはピンキーリング、クロードはブローチ、ディランはアンクレット、イネスさんはイヤリング、リナさんは髪飾りだ。
それぞれ色が違い、エイダンは赤。ライアンは青。クロードは白で、ディランは黒。イネスさんは黄緑色、リナさんは紫色。そして俺は黄色だ。
全員、髪の色と同じだった。
「ありがとう。でも、なんでアクセサリー?」
「特に深い意味はございません。ただ、皆さんに合うものを作りました」
「そっか。大切にするよ」
それをそっと受け取り、みんなに渡す。出発しようとしたところ、誰かに声をかけられた。
手を止め、後ろを振り返ると、黒色の髪が風へと靡かれ、透き通るような声色をし、透き通るような白い肌。クールな雰囲気を纏う少女。
その子は、二日前のライリーの葬式に来て、ライリーのいとこで、ライリーの想い人であった。
「エヴィ」
エヴィ・ヴィンケル。一番の被害者だ。婚約者に殺されそうになり、大事な家族を失った少女。きっと、ここ数日泣いていたんだろう。目が腫れていた。
「ハァ…ハァ…ハァ…っ、よかった……まだ…ッ、出発してなかった」
走って来たのか、息が上がっていた。額にも汗をかき、息が荒い。
「どうしたの?」
そう聞くと、エヴィはポケットから一つの花のついたバッチを取り出した。紫色のその花は、ライリーの墓でも見た花。
“紫苑”だ。
「これ、受け取って。ライリーの好きだった花なの」
「え、でも…。それは、エヴィのじゃない?」
「私はちゃんと持ってるよ。だから、あなたに貰って欲しいの。短い時間だとしても、仲良くしてくれたから。はい」
俺の手におく紫苑の花がついたブローチ。造花の花だろうか。本物の花をブローチに付けるはずないだろう。
ともかくとして、ブローチを受け取る。装飾が施されたブローチは、とても綺麗だった。
「ありがとう。大事にするよ」
「うん。頑張って」
「………………もちろん」
最初の頃よりも、だいぶ仲良くなれた気がする。いよいよ出発の時間だ。馬の上に乗り、リルメス王国のみんなから、お見送りをされる。
まだ王国内は、ボロボロだ。壁も崩れ去り、そんな状況なのに、俺たちをお見送りしてくれる。本当は手伝いたい。だけど、それはアストリさんに止められた。
“自分たちの国は、自分たちで直す”と。
躊躇いはしたが、その言葉に甘えてしまった。次こそ、リルメス王国を出て、門を潜る。
リルメス王国は、本当にいい国だ。そんな中にあいつのような奴が居たなんて、思いもしない。そして、誰もディアークの性格は知らないだろう。あの場にいたもの達以外は。
だが、もうあいつはリルメス王国には居ない。きっと、エヴィも大丈夫なはずだ。俺たちは、そう信じることだけをした。
(ありがとう。エヴィ、ライリー)
———また来るよ。きっと。
心中の中で呟き、俺たちは次の国へと向かう。
———南の国へと向かう道へ。




