62話 報われない恋心
エヴィの婚約者……ディアーク・ラングトン。狂愛に満ちた人物。
あの後、ディアーク・ラングトンの事を調べたら、ぼろぼろと出て来た。アイツのやらかした数々の出来事。
最初に、彼に目をつけられた女性たちが、殺された事。
次に、目をつけられた婚約者たちの家は、爆発し、家族もろとも死んだ事。
(やばい事ばっかだな……。待てよ?あの、言葉って……)
俺が気になったのは、今日の昼の出来事。ディアーク・ラングトンが言っていた“Ewiger Schlaf”の言葉。
本で調べた後、あの意味を理解した。それは度肝を抜かれるような、そんな言葉。
(アイツ…………、どんだけヤバいやつなんだよ)
時刻は16時。夕日が顔を出している時間帯だ。予想的には、今日の夜。魔獣騒動が行われるはずだ。
リルメスに来てから、一回も行われていない。そう予想つくもの、必然だと思う。
(………ともかく、夜になるのを待とう)
王宮内に入り、客室で夜になるのを待つ。その間にエイダンたちにも話をする。戦力をなるべく多くする為。
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「何?今夜あるかもなのか?」
「あぁ、俺の予想だけどな」
エイダンたちを呼び、そう伝える。その時間帯は20時。後四時間で今日が終わる。それまでにある可能性がある。
そして、三時間後。23時。みんなが寝静まった頃に俺の首につけている魔石が、光り輝く。俺自身も驚いたが、この国でも魔獣騒動が起こった。
俺は急いでエイダンたちを起こしに行き、急いで見晴らしがいいところに行く。そこは、学園にある時計塔。
あそこは、学園にある高さとそこからの時計塔の高さを合わせれば、ある程度の景色は見える。
(………くそっ、まだ遠いせいか、全然見えねぇ!連絡手段があれば、エイダンたちに連絡を取れれば………)
連絡手段もなく、そのまま俺は学園から出て、リルメス王国の外に出る為、王都を走ってゆく。
「………アルベール?」
「………………!?二人とも………。一緒に来い!!」
「え!?おい!」
王都の途中にいたライリーとエヴィがいた。おそらく、外が騒がしいからだろう。火が纏い、空まで伸びそうな炎の柱。老若男女の悲痛な叫び。
徐々に光を増していく、炎の晶石の赤く光る輝き。
(くそっ!まだわからない事だらけなのに………!!)
エヴィの婚約者の事、そしてマーティナ・ヘルグビュイの事。それら全て頭の整理ができない。
そして、王国の外に出る。外にはもうエイダンたちが居た。
「おい、アルベール。あれを見てみろ」
指差された先には、何やら魔獣たちを率いている巨大な魔獣が。その格好は、黒い体をし、燃えるような赤い目。その見た目は黒い犬だ。黒妖犬だ。
(マジかよ……)
「って言うか、そいつらだれだ?」
「あぁ、ブロッド男爵の息子くんとヴィンケル男爵の娘さんだ」
茶髪のライリー・ブロッドと黒髪のエヴィ・ヴィンケル。オルテーリオ魔法学園の生徒たちだ。エイダンたちは初対面だろう。
「ともかく、どうするか考えよう」
そんな時、後ろから騎士団がやってくる。それを率いているのは、アストリさんの二番目の兄。リアムさんだ。
「魔獣が来るなんて。お前ら、やるぞ!!」
「「「おーー!!」」」
リアムさんの叫びで、騎士団たちの活気は上がる。魔獣の大群に突っ込んでいった。
(何があるのか、わからないのに………)
魔獣も武器を使い、知性があるように見えた。そんな時、暗くて見えなかったが、黒妖犬の上には人が乗っていた。
仮面を被り、俺たちを襲った人物。
「………………!?うそ………なんで、あの人が」
手を前に出し、空に巨大な魔法陣を浮かばせ、そこから炎の槍を出す。
「ぐわぁ!」
「ぐっ!」
「くそっ!何が起こってるだ!?」
おそらく、顔を見られたくないんだろう。邪魔な騎士団たちを亡き者にし、戦力を削る。それを良い事に、こちらの戦力はだいぶ削がれた。
(最悪だ。しかもアイツ……)
仮面の被った正体、ディアーク・ラングトンだろう。エヴィの婚約者。狂愛に満ちたとんでもない奴。
「ライリーはエヴィを頼んだ」
「言われなくたって分かってるさ!」
「………ふっ、だろうな」
なんせ、ライリーはエヴィにいとこ以上の感情を持っているから。
「俺たちは、あいつらを倒そう。やれるのは、それだけだ」
武器を手に持ち、魔獣たちに突っ込む。だが、黒妖犬は、ライリー達の方へ行った。
(………………!?まさか………!!)
「悪い!!そっちは頼んだ!!」
「え!?おい!?」
心がざわざわし始める。嫌な予感がする。脳裏に、最悪なことが思い浮かぶ。
「ライリー!!急いで障壁魔法を張れ!!!」
俺は喉が掠れそうなほど、叫び散らかす。それに気づいた二人は、恐怖な顔をし、黒妖犬の猛撃な炎の攻撃が吐かれる。
「………!?まずい!!」
「キャー!!」
エヴィは絶叫をあげ、ライリーはエヴィを庇うように、地面に転がる。
「ぐっ!」
「よぉ、エヴィ。言ったよな?“Ewiger Schlaf”この意味だって分かるだろ?」
「………………!永遠の………眠り」
そう。“Ewiger Schlaf”は永遠の眠り。つまりは“死”。殺すことだ。でも一つだけ、不可解なことがある。
(魔獣を率いているのは、アイツ………なのか?)
そうでなければ、魔獣達がディアーク・ラングトンに敵意と本能的な、脅威を感じられない。
「はっ!俺はお前が欲しい。エヴィ・ヴィンケル。お前の体から、心まで。やっと見つけたんだよ。俺の、運命の相手……!赤い糸で繋がっている運命の相手……。エヴィを殺してから、俺も死ぬ。そうすれば、俺たちは一緒になれる……!!」
狂言を言い、狂ったような笑い声を上げる。それを聞いたこの場にいた俺たちは、ただ恐怖を感じるのみだった。背筋がゾッとするほど。
「………………は、あぁ………ッ」
恐怖を感じたエヴィは、崩れ落ちるだけだった。恐怖に満ちた絶望した顔で。
「くそっ、アルベール……。エヴィを………頼んだぞ」
「………………!?何するつもりだ!?」
「死なせたりしねぇよ……。最期まで守ってみせるさ。叶うことの無い、この想いを胸にな。俺は、守るんだよ…。エヴィを死なせたりなんてさせねぇ!!俺が守ってみせるさ!!あんたと言う心の呪縛からな!!!」
その悲痛な叫びが、心に響いた。ライリーのエヴィを想うその気持ちが。俺はどうすれば良いのか…。
ライリーは黒妖犬に突っ込み、エヴィから逃すために。
「おい!待てよ!!」
(あんなの、自殺行為だ……)
ライリーは、電気系魔法を放ち、あたりはビリビリとしていた。黒妖犬との距離は数センチ。ライリー自身だって、攻撃を喰らう距離だ。
そうなれば、電気が直接心臓まで届き、死に至る。感電死と同じだ。黒妖犬をエヴィに近づけさせないように、必死に抵抗し、抗い、好きな人を守る。
俺は、その光景をただ見てるだけしかできなかった。最期に響く、ライリーの悲痛な叫びと、大切な人を守るための熱意。
(………こんなの、エヴィだって望んで無いぞ…………)
黒焦げになった黒妖犬とその上に乗っていたディアーク・ラングトンは………。
(………いない!?)
黒妖犬の上に乗っていたであろう、ディアーク・ラングトンの姿が見えなかった。そんな時、後ろから悲鳴が聞こえた。その声は、エヴィの声。
「………しまった!!」
「ふふふっ、あはははっ!あーあぁ、自分で自分の命を投げ出したか。はっ!愚かだなぁ。まぁ、良い。これでライバルは居なくなった。エヴィは俺のモノとなる。永遠にな!!」
「………………ッ!」
(後のことを………全部俺に任せやがって………。こんなんじゃ、意味ねぇだろ。好きな人を守りたいんなら、最後まで守れよ。全部俺に任せんなよ………!ライリー………!!だから、死ぬんじゃねぇよ。死んじゃ、意味ねぇだろうが……)
ライリーのことは、すごいやつだと思う。だが、馬鹿なやつだ。残された人の気持ちを考えず、自己満で。そもそも、そうしなくたって、エヴィを死なせずに済んだはずだ。
「ふざけんなよ………」
「あ?」
「ふざけんなって言ってんだよ!!あんたはエヴィが好きなんだろ!!なら、なんで殺そうと思う!!好きなら、そんなことしなくたって良いだろ!!」
「はっ、分かってねぇな?好きだからこそだ。好きだからこそ、自分のものにする。誰にも見られないように、見せないように、ただ俺だけを…。俺だけを見て、感じてくれなきゃ、意味がねぇんだよ」
「そんなの………好きでもなんでも無い!!」
「何?」
自然と、俺の心から怒りが湧いてくる。なんで、ライリーが死ななきゃ行けないのか。そう思うと、自然とだった。だから、口走れるんだと思う。
「好きなら、相手の嫌がることをしないのが当たり前じゃ無いのか!?何が運命の赤い糸で結ばれてるだ!!何が自分のものにしたいだ!!そんなの全部、自分の欲望を満たしたいだけだろ!!」
「なんだと………?」
「だってそうだろ!!ライリーだってな………ライリーだって、エヴィのことが好きだったんだよ」
「え……?」
言うべきことでは無いとは、分かっている。だけど、こんな狂愛なやつに、好き勝手されてたまるか。俺は、杖を召喚し、ディアークの前に差し出す。
「いとこ同士だから、叶うことの出来ない恋心を、そっとしまって……。だから、守ったんだ。命を張って。愚かなのは、お前の方だ。公爵家という立場を利用し、婚約者相手を殺したり、家を燃やしたり……。そんな事が許されると思ってんのか?許されると思ってんのなら、お前の頭は異常者だ」
「何をいうかと思えば………。揉み消す事ができるんだよ」
不敵な笑みを浮かべ、煽るような声色で言う。もちろん、腹が立つ。だが、腹が立つだけでどうすることも出来ない。
魔法を放とうにも、前にはエヴィが人質に囚われている。このままじゃ、エヴィ自身にも当たってしまう。だから、俺は決めた。一つの希望に託して———。




