61話 狂愛に満ちた婚約者
「ぐっ!」
仮面を被り、顔を解らなくさせるやつが。両手に大剣を持ち、それを余裕よく振りかぶってくる。
(くそっ!黒椿持ってこなかったな。それに、魔銃も)
刀も銃も置いて来たため、武器を一つも持っていなかった俺は、咄嗟に唯一の武器である杖を召喚する。
「あれは………!」
「確か、古代式魔法……だっけ?」
今じゃ存在しない、この杖の魔法使い。“手動式魔法”ではなく、“古代式魔法”。それを示すのは、魔石のついた杖、杖から魔法を放つもの。
「ほぉ、“古代式魔法”……か。貴様のような奴がいるのは、予想外だった」
(………!だれだ………。一体)
仮面を被ったそいつの声を聞いた、ヴィンケルは顔色を変える。
「あの、声って……」
明らかに顔見知りのような口ぶりだ。そのため、俺はブロッドの方に視線を動かす。
ブロッドもブロッドで、顔色が悪い。おそらく、ブロッドも顔見知りなんだろう。
この状況は場が悪い。どうするべきか。そんな事考えてる暇なんてなかった。だが、状況は一変する。
「まぁ、良い。おい、エヴィ。覚悟してろよ。
EwigerSchlaf。味合わせてやるよ。楽しみにしとけよ」
(………どういう意味だ?)
さっき言った言葉が何なのかは、分からないが先程、“エヴィ”と言った。つまりは、ヴィンケルの知り合いと言うのは、確定だ。
そう言いながら、去った謎の男の後ろ姿を見ることしか、出来なかった。
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場所を移した。先程の男は、誰なのか。知るために。その男のことを聞くと、ヴィンケルは唇を噛み締めた。私服であろうスカートをぎゅっと握り込んで、下を俯いたまま。
それを見たブロッドは、淡々と話し始める。それに戸惑ったヴィンケルは、止める事なく、そのまま続けさせた。
「先程のあいつは、ヴィンケル………その、婚約者。なんだ」
「………婚約者?さっきのやつが?」
まさかの、婚約者。そんな人がどうして自分の結婚相手を殺そうとしたのか。さらに謎は深まるばかりだ。ブロッドが話した為、隠す事なくヴィンケルが話し始める。
「名前は、ディアーク・ラングトン。私の婚約者……。だけど、政略結婚なの」
「政略………結婚」
よくある結婚だが、ヴィンケルの顔は嬉しそうな顔じゃなかった。
「私は、あの人のこと嫌いなの。心の底から。だけど、言いなりのようなものだった。そのことを誰にも言えず。ただ、従うのみ。一回でも楯突くと、なかった事にされるの。爵位をあげることを」
(爵位をあげる?どう言うことだ)
ヴィンケルはヴィンケル男爵の娘。おそらく、そのディアーク・ラングトンはヴィンケル男爵より上の爵位。子爵から公爵家のどれか、なのだろう。
「ディアークはエヴィが欲しいんだ。心の底から」
「え?どう言うことだ」
「ディアークはエヴィを殺したいんだよ」
ブロッドの声色は低くなり、背筋がゾッとする。殺す?ヴィンケルを欲しいのに?それとも、ヴィンケル家の遺産?解らないことだらけだ。
「ちなみ、そのディアークって誰なんだ?」
「公爵家だ。ラングトン公爵家の息子。表の顔は“人当たりのいい”とされているが、裏の顔は“狂愛に満ちた”人物だ。欲しいものは必ず手に入れる。それが人であろうと…。つまりは、エヴィを殺して、自分のものにするつもりなんだ。きっと」
早口言葉のように、早い口調で言うブロッドは非常に焦っている。ヴィンケルがそのディアーク・ラングトンに染まるのを。
「あいつとは、同じ学校だからな。だから、逃げる事ができないんだ」
「だから、二人で行動している……」
「あぁ、俺たちはいとこ同士だから、怪しまれない。兄弟のように………って思われているからな」
納得してしまう。確かに、そう思いつくだろう。俺だってそうするかもしれない。ヴィンケルも冷や汗をかいている。いつ殺されるか解らない、その現状に。
(殺す…。あの、集落みたいに)
いつの頃かわからないが、集落を訪れた際、集落にいた人々が死んでいた。その光景は悍ましいものだった。
「あなたもこんな事に巻き込んでごめんなさい。あなたは、関係ないのに………」
「………………いや、そんな事ないよ。自ら俺が絡みに行ってるんだ。だから、最後まで付き合う。どうするか、考えよう。な?」
「………………アルベール」
「え?」
「あ、いや!名前呼びはダメだよな」
「ううん、俺こそライリー……って言うから」
「そうか。なら、俺もアルベールって言うからな」
「私のこともエヴィ…で良いよ」
ライリーに関しては、少しは仲良くなれた気がしたが、エヴィとの壁は少しずつ無くなっていってるのは、確かであった。それが何より、少し嬉しかったのは事実だ。
魔獣騒動の前に、大変な事になった。だけど、友達を助ける為なら、どんなことも惜しまない。死なせないさ。誰一人。




