5話 幻獣
入学から一ヶ月。五月。レーイルダ魔術学院の生活に慣れたアルベール・デイヴィス。
「なぁ、知ってるか?」
「なにを?」
寮にある食堂で食べていると、エイダン・リータが言ってきた。
「実はな、この学院に騎士の一人がいるらしいんだ」
「騎士の一人?」
首を傾げるアルベールとライアン・ダールベルク。エイダンとライアンは入学式が終わった後から、常に行動するようになり、食堂までも一緒に食べていた。
「あぁ、騎士団の中でも最強と誇られるらしく、剣豪の称号を持ってるらしい」
「あー、あの剣豪か」
「知ってるの?」
アルベールは二人に聞くと、頷きその説明をしてくれた。
「そんなに詳しくはないがな。だけど、すげぇ腕らしい。それにそいつの性別が女性とも聞いた」
「確かあれだよな?騎士団で初めて女性が入って、その称号を得たって話題になってたな」
「あぁー、あったあった。アルベールも聞いたことあると思うぞ?」
(マジ?そう言うの聞いたことないんだけど………)
アルベールは興味ないことに関しては、頭に入らない方だ。だが、今のこの時代、女性が男性より優秀になる。と言うのは、今まで無かった事とされているらしい。
「へ、へぇー、で。それがどうかしたの?」
「あぁ。確か、そいつの出身は侯爵家の出達って言ってたな」
「侯爵家?どこの?」
「帝国のある貴族だ。どこかまでは覚えてないけどな」
(ふーん………。今じゃ、騎士団ってやつがあるんだな)
大魔導師のいた時代では、騎士団は愚か。国すらあまりなく、発展当初とされているのが、レーイルダ魔導帝国になる。
「よし、食べ終わったしそろそろいくか」
「あぁ」
「そだね」
3人で同じ注文、肉料理を頼み食べ終わると、すぐさま部屋に向かった。
「やぁ、遅かったね」
「そ、そうだね。アヴェリーノくん」
アルベールの相部屋にはアヴェリーノ侯爵家のディラン・アヴェリーノが着替えていた。
「君も早く着替えないと、授業に遅れちゃうよ?」
「わ、わかってる」
(確かに、ディラン・アヴェリーノとクロード・アヴェリーノは似ている………)
アルベールは部屋から出ていくディランを目で追い、同じクラスであるクロード・アヴェリーノを思い出す。
(だけど、違うとしたら華奢な体型か?あれは、男子では細い……。骨格が違うのか?)
双子だからと言って、体型までも同じ……、とは限らない為、あまり考えないでおくことにした。
「俺も着替えないと」
アルベールも急いで制服に着替え、鞄を持ち、部屋を出る。
校舎内に入り、アルベールは自身のクラスに入って、授業を受ける時間になると、羽ペンと羊皮紙で内容を書いていた。
(色々と、無駄なところが省かれてるんだなぁ)
アルベールは授業を聞いてる最中、そう感じた。大魔導師が生きていた時代では、魔法に関してもそこまで多くなく、今となっては“古代魔法”と言われており、原理がややこしかった。
(今じゃ頭に情報量が多くなくて済むな)
そう思いながら、羊皮紙に羽ペンで再び内容を写す。
授業が終わり、アルベールはエイダン、ライアンと共に、レーイルダ魔術学院の敷地内を歩いていた。
「ん?トラブルか?」
「あ、ほんとだ」
「何があったんだ?」
よく見ると、剣を持った奴と、同じクラスであるクロード・アヴェリーノがいた。その二人の周りには人だかりができていた。
「俺たちもちょっと行ってみようぜ」
「「うん」」
エイダンにそう言われ、ライアン、アルベールは頷く。
「早くその子を降ろして」
「嫌だね」
よく見ると、迷い込んだ幻獣が青髪のやつに捕まえられていた。
(幻獣……?)
「おい、どうするんだよ」
「そうだぜ」
「え?」
二人はアルベールに助けを求めていた。
(俺がどうにかすんの!?)
そう思ったが、彼の性格上見て見ぬ振りはできなかった。
(大魔導師の意地として)
そう。彼は大魔導師。歴史上に存在していた初代の魔法使い。そして、レーイルダ魔導帝国とレーイルダ魔術学院を作った本人。
(………………?それに、あの幻獣…どこか悪そうだな)
アルベールはアルベールとして生まれ変わった時、前世の記憶を引き継いでいる。その為、幼い頃から動物人間関係なく、顔色を判断していた。
「ちょっと助けに行ってくる」
アルベールは二人にそう言い、青髪の少年とクロードの間に入る。
「ね、ちょっと良い?」
「あぁ?なんだこいつ」
「………!デイヴィスくん」
青髪の少年は威嚇をし、クロードは目を見開く。
「何やってたの?」
「あぁ?そんなの教えっかよ」
「そいつがその子を痛めつけてたの」
「はぁ!?ちげぇーよ!こいつは俺の幻獣だ!」
「「え?」」
間抜けな声を出し、状況を整理する暇がなかった。
「えぇっと、ドユコト?」
「そこにいるそいつが、何やら俺がこいつを痛めつけてるって、思ってたらしいんだよ。でも俺はそんなのやってない。こいつ、怪我してんだよ。だから、近くの病院に連れて行こうとしたんだけどよ」
「つまりは———…………勘違い?」
アルベールはクロードの方を見ると、明らかに真っ赤にしているクロードがいた。
(あ、勘違いしてたのね)
「え、っと、ごめんなさい」
クロードは剣をしまい、謝った。
「俺の方こそ、勘違いさせるようなこと言ってごめん」
(平和的解決)
あっという間に解決し、誰も怪我人が出ることはなかった為、良かった。と、アルベールは思っていた。
「そういや、怪我って言ってたっけ?」
「え?あぁ。俺じゃ治せなくて」
「治癒魔法は?」
「まだ習ってねぇじゃん」
(あ、そっか。うーん、でもこの子辛そうだな……)
アルベールは幻獣の顔を見た。汗を流していて、顔色が悪かった。
「じゃ、ちょっと貸して」
「は?」
「良いから良いから」
青髪の少年から、幻獣を貸してもらった。
「………………………」
アルベールは幻獣の体をマジマジと見る。
(なるほど〜?つまりは、羽の部分が傷ついていたから、ってことか。特に大きな病気も無さそうだし。大丈夫そうだな)
幻獣の子の容態を確認すると、特に大きな傷は目立ってなかった。
「大丈夫、羽が少し傷ついていたみたいだけだから」
「そ、そうなのか?」
「うん。包帯を巻けば治ると思う。治癒魔法に関しては〜………、大丈夫かと思うけど、一応やっておくね」
「え?」
「『水の加護よ。可の者よ癒せ。水の癒し』」
水の球体ができ、幻獣を包み込む。そうすると神々しい光が放たれ、幻獣の顔色は良くなった。
(おぉ!手動魔法ができた!練習した甲斐があったな〜!でも、古代式魔法の方がやりやすいから、そっちでいっか)
手から治癒魔法を出し、喜ぶも今のままでいいと考えた。その方が、魔力の出を抑えられるため。
「あ、ありがとよ!マジで助かった!!」
「いやいや、良いよ。俺が自己満でやったんだし」
と謙虚で言ってるが、内心は少し照れくさかった。
「てか、その子どんな鳥の種類なの?」
「不死鳥の鳥って知ってるだろ?その子供だよ」
「ヘェ〜、フェニックスの」
感心していた。フェニックスは不死鳥の鳥と呼ばれ、ペットにする人は多かったが、世話するのが大変だと言うことで、あまり飼う人はいなかった。
「てか、珍しいね?青だって」
「あぁ、何か知らねぇけどこうなってた」
(自然現象?それとも遺伝子によって?)
そう考えても、アルベール自身そっち側の専門家じゃない為、ただの予想で言ったまでだ。
「と、とにかく助かった!」
「あ、うん」
「そういえば、お前名前は?新入生だろ?」
(と言うと、先輩か?)
新入生だろ。その言葉でアルベール自身より一つ年上だと直感した。
「アルベール・デイヴィスです。えと、あなたは?」
「デイヴィス………、貴族の人間じゃないってことか………。あ、俺はユーリアン・ディヘスだ。リアンって呼んでくれ」
「リアン………先輩?」
「あぁ。じゃあ、俺はもういくからな」
「あ、うん」
青髪の人はユーリアン・ディヘスと言うらしい。
(ディヘスって………、ディヘス公爵の第二息子じゃん)
ディヘス公爵は上位貴族で、第一息子は帝国内では実力の魔法使いで、名の知れた由緒正しい魔法使いの一族である。そして、ユーリアン・ディヘスも名の知れた人物である。魔法剣士の名で知れ渡っている。
「はぁ、あの人には悪いことにしちゃったな」
「ま、勘違いは誰にでもあるから………」
クロードは顔をまだ真っ赤にさせながら、頭を掻いていた。アルベールは苦笑いをしながら、クロードを宥めた。