55話 人型魔獣の悪魔
ユスフリカに着いたあと、一日だけ、その場で体を休めた。
完全に休めたわけではないが、ある程度はマシだ。早速レーイルダ帝国の方へ行き、二日かけて、帝国に着く。
帝国では門に入らず、そのまま西方面にあるリルメス王国の方へ出発させた。帝国からリルメス王国まで、約十二日。結構な距離を馬車で走る。
徒歩よりはマシだが、馬車でも限界はある。その為、ユスフリカにつくまで同様に、休憩を間に挟みながら、馬車で走行。つまりは普段通りである。
そして、帝国から出発させ、六日が経つ。あと半分の日にちを跨げば、着く距離までたどり着いた。もちろん、そこまででも体力と気力が底をつきそうだった。
だが、アストリさんが居るんだ。この人を王国の方へ連れ返し、リルメスでもきっと魔獣騒動は起こるはずだ。
そう見越した俺たちは、魔法の力を使い馬車の速度を速める。そのおかげで予定としては着く前日である、小さな牧場がある場所までたどり着く。結構な距離を走行しても、馬車は傷一つ付かず、万全の状態だ。
「もうすぐでたどり着けそうだな」
本来ならあと半分の日にちが必要だ。だが、魔法の力のおかげでその距離を縮め、やっとの目前まで着く。それでも、時間はかかり、外は暗くなりかけていた。
「今日はここ辺りでやめるか」
馬車を止め、ここあたりで焚き火を焚く。食材を焼き、臭みをなくし、美味しそうな焼き色になったら、香辛料で作ったソースをかけ、口に運ぶ。それだけでも美味な味付けだった。
「ハァ〜………、美味しかった!」
満腹状態となり、癒しを求める体はすぐさま寝転がりたかった。が、今回は俺が見張りのため、まだまだ眠れない。
先に睡眠を取るエイダン、ライアン、クロード、ディラン、リナさん、アストリさんと仮眠を取るイネスさんに分かれる。
今日の見張りは俺と、イネスさんだ。俺は3時まで見張りをし、イネスさんと交代したあと、俺も睡眠を取る。
今から3時まで結構長い。しかも、体も万全じゃないため、今日は長い夜になりそうだった。
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———俺の予感は的中。長い夜になりそうだ。まさかの、人型魔獣が姿を表したから。牧場の方からのっそりと出てきたその姿は、まるで幽霊のようであった。
時間的に夜中の1時。その状態で、このような状況に陥るとは、本当に運が悪い。その姿は幽霊のように不気味悪く、顔は無表情だった。
(怖っ!)
その光景を目にした俺は、トラウマになりそうな程、ビビりまくっていた。だが、魔獣なのだ。人型の魔獣。なら、早めに倒しておくことに尽きる。
銃と刀は馬車に乗せているため、杖で戦うことになる。正確には、“古代式魔法”で、だか。
「くそっ、なんて奴に出くわしたんだよ」
今日の担当が俺だったことが、一番の最悪な出来事だ。だが、こちとら1万年前に存在した大魔導師。
アーベル・ジャルディノの生まれ変わり。アルベール・デイヴィスだ。そう簡単に、遅れは取らない。
「ふっ、やってやるぜ。俺の目の前に現れたこと、後悔させてやる」
杖を召喚し、強く握りしめる。馬車のそばから離れ、みんなの方へと近づかせないように、工夫した。俺の方へ見向きをしているその魔獣は、俺の方へとのっそりと近づく。それを良いことに俺は、
「『野原を焼き尽くし、炎の風を参らん。我の熱を浴び、業火に焼かれろ。炎刃!!』」
炎の刃風を切り裂き、人型魔獣の方へと勢いよく突撃していく。が、それを跳ね返し、俺の方へと向かわせてきた。
「まじかよ!?」
突然の出来事により、驚愕していたが、体がしっかりと動いたため、焼かれずに済んだ。先程の炎魔法は温度7500℃。人間が当たれば黒焦げになる程だ。もちろん、魔獣もだが。
跳ね返された炎魔法は地面へと落ち、急いで水で消化した。これこそ予想外の展開……なのだろう。だが、この状況を楽しんでる自分がいる。
「へぇー、手加減しないからな」
人型魔獣は女性の体だ。しかも裸体を晒している。女性の形をした魔獣だろうと、俺は容赦なんてしない。先程全力で放った技を、跳ね返した。そして、それを打ったのは俺。そんな俺が手加減すれば、舐められたと思うのも必然な状態だ。
女型の魔獣は高速移動で後ろに回り込み、拳で殴ってくる。気配を察知し、杖でその攻撃を防ぐも、一撃が重かった。
怯みそうになるも、力一杯注ぎ、その拳を跳ね返す。
「ハァ…ハァ…、はっ、これで終わりじゃねぇぞ」
人型魔獣との距離を一気に詰め、覆い被さった。殴られないように、拳を片手で抑え、もう片手で杖を持つ。それを人型魔獣に向け、至近距離まで近づかせた。
抵抗するも、俺だって鍛え上げている。そう易々と弾かれるほどではない。そして、雷魔法の詠唱を唱える。
「『我の元へと宿れ、雷よ。我が真紅の元に集まれ、悪魔の所業。真紅雷』」
地面に大きな魔法陣が描かれ、血のように真っ赤な紅色の光が放ち、真っ赤に染まれた雷が人型魔獣を包む。
俺は巻き込まれないように、すぐさま退避をし、人型魔獣の悲痛な叫びを聞きがながら、その光景を見ていた。心地よいものでない。だが、悪魔は去った。
最初に見た時が、まるで悪魔のように見えたから。そして、俺の長い夜は幕を閉じる。
もちろん、次の日は寝不足だ。そして変な疲労も現れてくる。だが、だいぶ加速したおかげでリルメス王国まですぐ目前だ。




