4話 初授業
入学式の翌日。アルベールはレーイルダ魔術学院にある寮から、学院に向かった。
(そういえば、寮生活になったんだった)
レーイルダ魔術学院の制服を身に纏い、鞄を背負い、学院の校門を潜る。
「やっぱすげぇ」
見た目は豪華となり、アルベールが知っている建物じゃなかった為、何かと新鮮だった。そんな時、後ろを誰かから叩かれる。
「よぉ!アルベール」
「おはよう。アルベール」
「ん?ああ、おはよう。エイダン、ライアン」
昨日仲良くなった赤髪である、エイダン・リータと青髪のライアン・ダールベルクの二人だ。結果的友達となった。
「なぁ、今日から授業だよな?何があるんだろうな」
「さぁ、そういえばアルベールはさ。寮での相部屋って誰だった?」
「俺?俺は〜………」
昨日の事を思い出した。
『もしかして君が僕と相部屋の子?』
アルベールより大人びた少年で、艶のある黒髪で穏やかそうな目、高貴な紫色の瞳。同級生とは思えないほどの、落ち着いた態度。高嶺の花———みたいな雰囲気だった。
(それにあの紋章………)
「多分だけど、アヴェリーノ侯爵家の人じゃないかな」
「へぇー、よく分かったな」
「え?」
エイダンの言葉を聞き、目を見開いた。何故知っているのか?と。アルベールは思った。
「確か、ディラン・アヴェリーノだろ?」
「あぁ、あの優等生の」
「知ってるの?」
何やら顔見知りみたいな言い方をした為、そう聞くと二人は頷いた。
「あぁ、あいつとは中等部の頃一緒でよ。だから俺たちはディランのこと知ってるんだよ」
「へぇ〜…」
(中等部?つまりは初等部の方から、成り上がってきたんだな)
顎に手を当て歩きながら、そう考えていると、エイダンから聞かれた。
「ていうか、昨日もそうだけど、なんで俺たちがどこどこの貴族の息子、ってわかるんだ?」
「胸元に紋章があるでしょ?貴族の証としての。一緒なものがないから、ここに来る前に覚えたんだよ」
「へぇー、すげぇな」
貴族にはそれぞれ紋章が刻まれている。それは古き時代から受け継がれてきた紋章で、由緒正しく、その紋章があれば、すぐさまどこどこの貴族だって、分かるようになっているのが、レーイルダ魔導帝国の掟のようなものである。
(マジで前日に全部覚えといて、よかった〜………)
と、内心では安堵していた。
「ん?あ」
歩いている途中、ロイアス男爵の息子がいた。
「ロイアス男爵の息子くんじゃん。行って来なよ」
「「あぁ」」
真剣な顔で、少し緊張しながらも二人はロイアス男爵の息子に近づいていった。
「やぁ」
後ろから中性的な声が聞こえて来た。その為、後ろを振り返ると、アルベールの相部屋であるアヴェリーノ侯爵の息子だった。
「…………!ディラン・アヴェリーノ………くん」
「あれ、僕のこと知ってたの?」
「ま、まぁ………ね」
「へぇー、庶民のくせにすげぇじゃん」
艶のある黒髪、高貴な紫色の瞳、アルベールより大人びた雰囲気、中性的な声、中性的な顔立ち、“美男子”という言葉がよく似合う少年であった。
「あ、ありがとう」
(だけど、言い方がムカつく)
ディラン・アヴェリーノの言い方は、鼻につく。アルベールは内心イライラしていた。
「名前なに?」
「え?」
「いや、庶民のくせにここに入れたんだからさ。相当すげぇんだろ?」
「………まぁね」
(庶民のくせにって、なんだよ。失礼な)
ディラン・アヴェリーノの言い方は一々棘がついていた。
「アルベール・デイヴィス」
「ふーん、ま、今日から相部屋同士なんだから仲良くしようぜ。アルベール・デイヴィス」
ディラン・アヴェリーノはアルベールに手を差し出す。
「あ、うん」
アルベールもその手を握り、とりあえずしよう。と内心は思っているが。
「ん、君の指長いね」
「そう?」
(え、初めて褒められた)
少し気恥ずかしかったが、内心は嬉しく、もし女子であれば、惚れていただろうなぁ。と、思っている節がアルベールにはある。
「ん?君のご友人が来たみたいだね」
「え?」
アルベールの背後からは、ロイアス男爵の息子に謝りに行ったエイダンとライアンがやってきた。
「げ、ディラン」
「なにかな?リータ伯爵ご令息」
「いや、なんでもない」
(普通に昨日と反応ちげぇな)
昨日の二人はあんなに威勢が良かったのに、今はそんな欠片もなかった。
(普通に自分たちより地位の高いからだろうな)
と予測はすぐにつく。
「あ、そういや、二人とも。ちゃんとロイアス男爵の息子くんに謝った?」
「「あぁ、もちろん」」
コクっと頷いた。そして、校舎の中に入り、初授業を受けていた。
(ヤベェ、すげぇ楽しい!)
色んな人と授業を受けるという楽しさを感じ、黙々と聞いていると、
(あれ、なんて読むんだろ)
ということに気づいた。校舎の中は宮殿みたいに豪華で、アルベールたちが受けている教室は、学年制だ。入学してきた新たな生徒は、約1000人。他国の方の家族も入学してきた為、多くの貴族が沢山いた。
(あれは〜………、あぁ、東の国の貴族か………)
そうとしか確認出来なかったが、どこの貴族までかは分からない。
三時限目『属性制御』の授業。
「では、次は属性制御のやり方を説明する。しっかり聞いておくように」
属性制御担当のティチェイナー教師が、説明していた。高身長で、顔の整った為、女生徒からの人気が高いとのこと。
(実際、俺のクラスの女子たちも見惚れているみたいだし)
あたりを見渡すと、明らかにティチェイナー教師に熱い視線を送っている女生徒が何人かいた。
(ん?………すげぇ、字が綺麗だな〜………)
アルベールの隣席には、雪のような銀髪、横顔がとても綺麗な男子生徒がいた。
「………ん?なに」
「え、あ、いや、なんでもない」
瞳がディラン・アヴェリーノと同じ高貴な紫色の瞳をしていた。アルベールは自分の手記に集中してると、隣の男子生徒からの視線がすごかった。
「………………」
(なんだ、すごい見てくるな)
なぜかすごい見てくるその人のせいで、集中ができなかった。
「ねぇ、なに?」
「ううん。君の胸元に紋章ついてなかったから、気になっただけ」
「あ、そーゆう」
声質は高くもなく、低くもないほどだった。つまりは中性的な声。
「では、魔法競技場に行くぞ。実践練習を行う。すぐに移動するように」
ティチェイナー教師の後ろを1年A組が続いていく。
ーーーーーーー
『魔法競技場』にやってきた。
「それでは、まず俺が手本を見せる。その後に実践練習を行う」
ティチェイナー教師がそういうと、手を前に出し、的に当たるよう操作した。
「よし、じゃあ順番にやっていくぞ」
1から10番までが一斉に並び、ティチェイナー教師と同様にやる。
「よし、次」
(次は俺か…)
人形の形をした的に当てるため、狙いを定める。その間に他の人たちからの視線がアルベールの杖に向かれていた。
「なぁ、なんだあれ?」
「手動じゃないのか?」
“手動魔法”というのは、今現代の魔法の出し方の呼称である。大魔導師の時は杖から魔法を放つ“古代式魔法”と呼ばれている。
「古代式魔法じゃないか?」
「あぁ、実際にいるんだなぁ〜」
(手動魔法じゃ中々慣れないからな………)
杖を持っている手に意識を集中させ、体内にある魔力を杖の方までいき、それが感覚的に確認されると、詠唱を唱える。詠唱を唱えていくと、杖の先端が光、詠唱を終了させる。
「『炎の弾丸』」
杖の先端から炎の玉が放たれる。勢いよく的に当たり、燃え広がる。
「よし、いい出来だ。炎に関しては水をかけろよ」
「あ、はい」
点数は良かったものの、炎が広がり大変なこととなった為、炎を消火した。
ーーーーーーー
その日はあっという間に終わり、隣の席の男子生徒から話しかけられた。
「やっほ、デイヴィスくん」
「あ、えーと、誰だっけ?」
「………えぇ、覚えてないの?」
銀髪の華奢な体型をした彼は、しょんぼりしたような顔をしていたが、「まぁいいや」とため息をつき、
「名前はクロード・アヴェリーノって言うんだ」
「へぇ〜………。ん?」
(アヴェリーノ……?)
聞き覚えのある苗字だった為、もう一度確認する。と言うより、まさか。と思っているため、もう一度、だった。
「もしかして………アヴェリーノ侯爵家の………?」
「うん。そうだよ。同じ学年にディランっているでしょ?」
「うん…そうだね。あ、まさか」
予想……いや、明白だ。アルベールは確実ともあろう事実を聞いた。
「そう。そのまさかだよ。僕はディラン・アヴェリーノの双子の“弟”だよ」
「ヘ、ヘぇ〜…」
(全然似てない!)
ディランは黒髪で紫色の瞳。目の前にいるクロードは銀髪で紫色の瞳だった。瞳の色に関しては同じであったが、髪の色が違った。
「あー、髪の色に関しては、ディランの方はお母様似、僕はお父様似なんだ」
「あー、そう言う」
「うん。で、瞳だけは一緒になったんだよね」
と、微笑みながら言った。その後は、男子寮と女子寮分かれる道に着くまで話し込んでいた。
(なんか、いい事ばっかり起きてるな)
その時、アルベールは内心不安でいっぱいだった。なぜなら、良いことが起きた後は、悪いことが起きる。そう直感で感じたから———。