3話 魔法競技場
今の時刻は夕日。16時だ。あの後、校舎を見て回ったりしてるとそのくらい時間が経った。
(さてと、魔法競技場へ行くか)
鞄を背負い、魔法競技場がある森の奥まで足を運ばせる。
「おい、おせーぞ!」
「そうだ!何やってた」
魔法競技場にやってくると、赤髪であるリータ伯爵の息子と、青髪のダールベルク伯爵の息子が、イラつかんと言わんばかりに、突かかっていた。
「校舎見て回ってた」
「はぁ?呑気な野郎だぜ。ともかく、いいな?やるぞ」
「あぁ、もちろん」
腰を少し低くし、アルベールは杖を召喚した。木で作られたと思われる、長い杖、先端には宝石のような形をしたのが埋め込まれていた。
「あ?なんだそれ」
「手動魔法じゃないのかよ」
「あぁ、俺は杖がないと無理なんだ」
アルベールは一度も手から魔法を出したことがない。ただ、“出したことがない”というだけで、もしかしたら出来る。という可能性もあるが、正直複雑で、何か慣れるのに時間がかかる。それよりも杖の方がやりやすい。という決断に至った。
「ふん!吠え面かくんじゃねぇぞ!!」
(あれは………!へぇ、結構攻め所はいいな)
「そっちばっかりに集中してるんじゃねぇ!!」
(後ろからも?つまりは、挟み撃ち)
リータ伯爵の息子の方から、炎。
ダールベルク伯爵の息子からは、水。
「『障壁魔法』」
「「なっ!?」」
二人からの攻撃魔法を、受けないよう障壁魔法を出し、魔法を吸収した。
「さて、次はこっちからだ」
杖を持っている手に集中し、体内にある魔力を制御し、杖を上に掲げ、目を瞑り詠唱を唱える。
「よし、今だ!」
「あぁ!」
アルベールが詠唱していることを良いことに、一斉に距離を詰め、背後をとる。が、一歩遅かった。
「『雷の幻影!!』」
雷の轟音が瞬き、伯爵家の2人は感電した。
「「ウギャアアアアアア!!」」
「幻の雷だとしても、攻撃は当たるからね」
「な、なんだ………あれは」
「くそっ………、俺たちが庶民に負けただと?」
庶民に負けた。二人のプライドはズタボロになっていた。
「大丈夫?」
だけど、アルベールは二人に治癒魔法をかけた。
「は?なんでだ?」
「いや、加減したつもりだったんだけど、失敗しちゃって………」
頭をかきながら、そう伝え、杖を片手に持ち、治癒魔法の詠唱を唱える。
「『水の加護よ、可の者よ癒せ。水の癒し』」
アルベールがそう唱えると、水の玉ができ、二人を包み込む。
「………………あ、あぁ」
「………痛みが………消えて?」
「これでどう?」
「あ、あぁ、平気だ」
「なんで………なんだ?」
「何が?」
ダールベルク伯爵の息子からはそう言われ、キョトン顔をした。
「いや、なんで俺たちに治癒魔法を掛けたんだ」
「え、だって結果的に俺がそうさせたんだもん。なら、ちゃんとそこまでするのは責務を果たすのと同じじゃない?」
「は?」
「つまりは、いくら最初のきっかけはどうであれ、怪我させたりしたのなら、それを最後まで責任持って傷を癒すのが、良いんじゃないか。っていう、俺の勝手な思考。ただそれだけ」
「は、意味わかんねぇよ…」
「だけど、さんきゅ。俺らも………悪かった」
「……………」
二人が誠心誠意謝った。
(悪い奴らじゃ………ないのか?)
最初は虐めていた為、悪い奴らかと思ったアルベールだが、謝ったことでもしかしたら、悪い奴らじゃないのか?という思考に至った。彼はお人好しである。
「なぁ、名前………その………」
「ん?」
「………教えてくんねぇか?」
「………………………!」
口角が上に上がり、目を細めた。
「うん。良いよ。俺の名前はアルベール・デイヴィス。よろしく」
「アルベール………か。よろしくな。俺は、エイダン・リータだ」
「俺は、ライアン・ダールベルク。よろしく。アルベール。それと、さっきはごめん」
「………なら、ロイアス男爵の息子くんに謝ることが先だね。悪いことしたのは、その子になんだから」
「だけど、あいつもう帰ってしまったみたいだし」
「明日があるじゃん」
「え…?」
「だって今日入学式だよ?明日だって学校なんだし。明日謝れば良いよ」
「そうか………。アドバイスありがとな」
「それほどの事はしてないよ」
エイダンとライアンとは、その後打ち解けた。その日は夕日がとても綺麗で、良いスタートの始まりじゃないかって思った。