31話 魔杯の邪気
「マジですか?」
学院長から言われ、呆気に取られる。だが、覚悟はしていた事だった。
「あぁ、勿論だ」
学院長はレーイルダ帝国の皇帝の息子。エタン・レーイルダ。この人は皇帝の息子の五男。21歳と言う年齢で、学院長の座に着いた強者だ。
「日にちに関しては、まだ先だが、先に言っておこうと思ってな。準備に関しては、俺がなんとかする。その日までは準備をしておけ。いいな?」
「わ、わかりました」
謎の威圧を感じたものの、学院長室から出る。
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そしてそれからまた時間は流れ、二ヶ月。今度は夜にエイダン達と共に森に向かった。
「なぁ、アルベール。森に何かあるのか?」
「あぁ、そうだ」
先輩から聞くと、石の壁に近い場所で魔杯が置いてあると言っていた。
・魔杯とは魔道具の一種である。形は聖杯に似ており、その中には魔力が溜まると言われている。それを先輩が持ってこいと言っていたため、戦力を多めにし、挑んだ。
「魔杯…と言うのを知ってるか?魔道具の一種なんだが」
「あー、言い伝えであるやつか。え、もしかして森にそんなのがあるのか!?」
「あぁ、今じゃその魔杯が軽い暴走状態になってる。だから、それを鎮めなきゃ行けないんだ」
「なるほどな。わかった」
森の奥へと進み、魔杯があるとされている場所までいく。そこには禍々しい魔杯が置かれていた。
「あれ……か」
「すごそうだな………」
「で、どうするんだい?」
「もちろん、魔法で鎮める。そのためには、戦力が多い方がいいんだ」
杖を召喚し、エイダン達の方を見る。息を呑み、体制を整え、気を引き締める。
「よし、じゃあ触るぞ」
ゴクリ、と唾を飲んだ。緊張の朝を額に浮かばせ、魔杯に手を伸ばす。もちろん、後ろにいるエイダン達も戦闘の準備をしていた。手を前に出したり、剣を鞘から抜いたり。
魔杯に触れた瞬間、邪気が瞬く間に広まる。
「ぐぅっ!」
邪気が広がると、森は枯れつつあった。
「よし、戦うぞ!」
「「「「あぁ!/うん!」」」」
その邪気から人型に変形され、人間の姿となった。
「こいつが………」
見た目は髪の長い女の人で、目は死んでいた。俺たちがいるのを確認した後、手を前に出し波動を出す。
「うわぁ!?………………ぐっ!」
吹き飛ばされ、木にぶつかってしまい、敵に押されていた。
「ぐっ、波動を出せるのかよ」
「なんなんだよ、こいつは」
「波動って………、近づく事もできないじゃん」
「ぐっ、アルベール、どうするの?」
「とにかく、あの波動をどうにかしない限り………」
考え込むが、いい案は出なかった。そんな時、ライアンが口にする。
「障壁魔法は?」
「あっ!それだ!!」
作戦はこうだ。
エイダン達が囮となり、波動を出すタイミングで、障壁魔法を張り詰める。吸収したところを見て、一気に叩く。
作戦を開始し、エイダン達は魔法を放ち、それに釣られた人型の敵は波動を放つ。
「『障壁魔法』」
杖の先端が光、見えない障壁が張り詰める。人型の敵の放った波動を吸収し、隙ができたため、エイダン達が一気に攻める。クロードとディランは剣で叩き、エイダンとライアンは得意な属性魔法を放った。そして、俺も魔法で風魔法を放つ。
「『風の魔法よ。邪気を切り刻め!!風刃』!!!』」
風の刃が人型の敵を切り刻み、邪気が取り払われる。
「倒せた……みたいだな」
魔杯から邪気が消え、元通りの魔杯となった。それを取った。
「よし、これを渡せば………」
「誰に?」
「え!?いや、なんでも!」
正直、あまり俺が大魔導師である事を、知らせちゃいけないと、直感でそう感じた。なぜなら、混乱を起こす可能性があると見たから。
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それから、エイダン達と別れ、考古学の教室まで行く。扉をガララっと開け中に入ると、すでに先輩がいた。
「こんな時間までいたんですか?」
「それを言うのなら、アルベールだってそうだろ?」
「まぁ、そうですけど。あ、それより魔杯を手に入れて来ました」
魔杯を先輩に見せつけ、興味深そうな顔つきとなった。
「なるほどな。わかった。ありがとう」
魔杯を受け取り、虫眼鏡でマジマジと見る。
「そういやさ、アルベール」
「なんですか?」
「そろそろ、準備とかしてるの?」
準備……と言うのは、旅に出る準備のことだ。二ヶ月前に学院長から、言われ了承を得たため、旅に出る準備をしなければならなかった。
「まぁ、ぼちぼちです」
「なるほどな。今、世界各地で何が起こってあるのか、見当もつかない。それを鎮めることが出来るのは、今でも『大魔導師』として崇められているアルベールしかいない。いや、アーベルって言った方がいいか?」
「………ううん、アルベールで平気」
魔杯を見ながら、横で話しかけてくる先輩だったが、名残惜しい気分でもあった。だが、世界各地で起こってる魔獣の異常現象。おそらく、学院長が俺の魔法の力と魔力量を、考慮した上でそう判断したと、俺は感じている。
仮に、世界が破滅まで向かうほど、魔獣が増え、死人が出れば元も子もない。誰かがやるしかない状況に、陥ってるのは目に見えていた。
「必ず帰ってくると、信じてるぞ」
「…………はい」
先輩の言葉を胸に、教室から出て、男子寮へと向かう。
(旅に出ること、エイダン達に言わなきゃだな)
行く道中で思い当たり、夜の学院の敷地内を歩く。その日は曇りだった。




