2話 レーイルダ魔術学院
四月となった。桜が満開に咲き、入学時期にはとてもいい季節だった。
(ま、狙い通りに特待生席貰えたから、よかったけど)
試験の結果ではそれほどの力は出さない。なぜなら、試験会場が崩壊するほどの力を出してしまったら、特待生席から外されると思ったからだ。
レーイルダ魔術学院の制服を見に纏い、革製の鞄を後ろに背負い、レーイルダ魔術学院の校門を通る。
「おぉ…!」
(まぁ、予想通りだな)
まぁ知っていた。
1万年経った建物が今も当時のまま残ってるはずがないと。
だが、今も残り続けると当事者としては嬉しいものである。校門を通り抜け、校舎に向かって歩いていると、何やら誰かが絡まれていた。
(うわっ、貴族同士でも虐めみたいなのあるんだな)
俺は生まれ変わってから、臨機応変に対応し、1万年後の住人として色々なことを変えた。
今の考えと大昔の考えは一緒でない。その為、“いじめ”なんて言葉は知らなかったが、今は理解した。つまり、強いものが弱いものを虐める。これを今ではいじめと言うことを理解するのは、時間は掛からなかった。
それはそうと、絡まれていたのは男子であった。
(うーん、あの子大丈夫か?)
眼鏡をかけており、最初の印象を受けたのは、“気が弱そう”だった。
(ん?あの紋章は〜………、あぁ!ロイアス男爵の息子か!あー、なるほど。で、その子をいじめているのは)
その光景を見つめていると、視線で分かったのか、俺の方を向いてきた。二人揃って血相を変え、歩幅を気にせず、確実に距離を詰めてくる。
(あれ、こっちきた。なんで?あ、もしかして見てのバレた?)
逃げようなんて考えにも至らず、その場に立ち止まったまま。たとえ思ったとしても、逃げる気にならなかっただろう。
(だけど、なんでその子まで連れてくるんだ?)
赤髪のやつが眼鏡っ子の男の子の首根っこを掴み、一緒に連れてきていることに、少し疑問を思った。
普通、二人でくればいいのに、なぜ彼も連れてくるんだ?と。
「なぁ、あんた。こいつの知り合いか?」
「ううん」
「じゃあなんでさっきマジマジと見てたんだ?」
「視界に入ったから?」
その時、胸元に紋章がついているのを確認した。
リータ伯爵家を表す、大鷲。
ダールベルク伯爵家を表す、鴉。
(リータ伯爵の息子と、ダールベルク伯爵の息子か)
つまりは、男爵より上の貴族階級であると言うこと。
「なぁ、なんでお前紋章もなんもついてないんだ?」
「だって貴族じゃないし」
「は?」
目を見開いたと思ったら、ケタケタと笑い始めた。それに戸惑うこともなく、ただその二人を見ているだけだ。
なぜだろう。なぜかムカつかない。
「お腹いてぇ〜!はぁ?ここは貴族が通う名門校だぞ?こんなところに庶民が通うわけないだろ!庶民が通える学費じゃないんだからな!」
「そうだぜ!ぷっははは!じゃあなんで入学できたんだ?裏入学なんてできねぇだろ!」
(………………なるほど。今の若者はこう言う奴らってわけ?)
最近の若者に、呆れを覚えてしまうほどだった。赤髪のやつと、青髪のやつは笑い死なないかと思わせるほど、大声でバカにしたような笑い声だった。
「だけどさ、奨学金制度があるんだぜ?なら、実力さえあれば、入学できるんだよ。庶民でもな?」
「はぁ?ならテメェが俺たちより優秀ってわけか?」
「もちろん」
「舐めやがって!」
貴族としてのプライドだろう。それをズダボロにされた2人は、殴ろうとし、俺の胸ぐらを掴んだ。
だが、驚きもしない。俺は一応、目の前にいる二人とは少しだけ長生きをしているから。
(いいや。ここはもうムカつかせることをたくさん言ってやる)
「ね、いいの?暴力沙汰起こしたら、退学になるかもよ?」
「あぁ?何言ってんだこいつ。そんなの揉み消されるに決まってんだろ」
(え、まじで?)
この時だけ、
貴族が羨ましい、
と感じた俺だが、そんなことしても意味無いと思う節もあると感じた。
(だけどこんな場所で、問題起こしたら、下手したら母さんが殺されかねない…。そんなのごめんだね)
「ならさ、勝負しようぜ?」
「勝負?」
「あぁ、お前が勝ったら、もうこいつをいじめない。だけど、俺たちが勝ったら、お前にはここから出てってもらう」
(え、追い出されるの?まだ校舎にすら入ってないのに?)
だけど、条件を飲まざる終えない状況だ。最悪なことにその条件を飲んだ。そして了承する。
「い、いいぜ?やってやる」
「ブハハッ!こいつビビってるぜ!」
(一ミリもビビってないんだけど、泳がせるのが楽しいって思ってしまった)
何を考えているのか、分からない二人に関してみれば、俺の言ってる一言一言、そして言動が本心だと思うだろう。だが、多少だけ目の前にいる奴らを泳がせていた。
「なら、ロイアス男爵の息子くんはもう行っていいよ」
「え、いやでも」
「いいから。ここは俺に任せとけって」
(ヤベ、今の俺ちょっといいこと言った?)
危機管理能力はないし、緊張感もなし、数々の修羅場を乗り越えてきた俺もとい、大魔導師であったアーベルは、多少の優越感に浸っているものの、自己満でやってるようなもんだった。
「あ、ありがとう!」
「いい度胸じゃねぇか。その度胸は褒めてやる」
「そりゃあどーも!」
「じゃあ行くぞ」
「あぁ」
「「魔法競技場へ」」
魔法競技場というのは、学院内にある施設で、魔法で勝ち負けを決める競技でもある。そこは、森の奥にあるとされており、今からじゃ間に合わない。その為、お互い馬鹿じゃない。
「もちろん、今からじゃ間に合わない。だから、放課後だ。待ってろよ」
「もちろん」
「よし、行くぞ」
「あぁ!」
(………やべ、自ら馬鹿なことやったんじゃ………)
とも思ったが、逃げたりはしない。大魔導師の意地として。