17話 昔の出来事
翌日。学院は休みで、アルベールは朝から早く伯爵家を訪れようと、準備をしているところ、ディランが起きた。
「どこへ行く気?」
「どこって、ヘルツァンバイン伯爵家だ」
「どうして?君が怒るようなことはしていないじゃないか」
「確かにそうだ。だけど、無性にイラつくんだよ。あいつを見ていると」
「そうか。なら、僕も行くよ」
「あー、そう。って、え?」
ディランの言っている事が、理解できなかった。
「一緒に、行くって事?」
「明らかにそういう意味でしょ?」
そう言いながら、制服に着替えていた。
「まぁ、別にどっちでもいいんだけどさ」
ディランが制服に着替え終わったあと、部屋から出て、男子寮の玄関には、エイダン、ライアンが居た。
「どしたの?こんな朝早く」
「それは、俺たちのセリフでもあるんだけど?」
威圧感を感じさせるような、物言いで言ってきた。
「どうせ、伯爵家に行くとか言い出すんだろ?」
「なんでそれを………」
二人には見破られていた。おそらく、先回りのために、ここに居たんだろう。
「お前とは短い付き合いだが、他の奴よりは、知っていると思う。どうせ、伯爵に殴り込みの行く途中で、クローヴィスのやつを助け出す。とか言い出すんだろ?」
「………………!」
図星だった。的確に言い当てられ、もう覚悟を決めた。
「分かった。エイダンの言う通りだ。もし仮に、昨日言っていたことが本当なら、クローヴィスを助ける」
「だと言うと思った。なら、俺たちもついていくぜ」
「いいのかい?二人とも」
「あぁ、もちろんだ。俺たちだって、その理屈が本当なら、見過ごすわけにはいかないからな。リータ伯爵の息子として」
「それなら、俺もだ。俺もダールベルク伯爵家の息子だ。その誇りとプライドは持っていると、思っている」
「なら、行こう」
男子寮を出ると、そこにはクロードとイネス、リナが居た。
「もしかして………」
「うん。そのもしかして。私たちも行くよ」
「私の妹を、昨日こんな目に合わせたんだもん!許せない!」
「私だって力になりたい」
「リナさんに関しては、足の怪我は?」
「うん。もう大丈夫。先生に治癒魔法をかけてもらったから」
もう大丈夫。って思わせるように、足を見せつける。
「もし、また痛みが走ったら言って。昨日にみたいにするから」
「………うん」
今度は7人で伯爵家に向かって行った。
「ここがそうなのか?」
「うん。ここの道は入り組みまくって、ややこしいから、離れずついてきて」
(俺がしっかりしないと。もしもの事があったら、この身を投げる)
それほどまで、アルベールは今回のことに関して、怒り狂っていた。
「もうすぐだよ」
(もうすぐで、伯爵家が見える……。ん?あれは)
「あれは、クローヴィスか?なんであんな所に」
ここからでも見えた。どこの部屋かはわからないが、いくつも並ぶ窓の一つに背中を見せているクローヴィスの姿が。
「ともかく、行ってみるぞ。アルベール」
「あぁ」
ライアンの一言で、再び足を進めるアルベール一行だった。
クローヴィスは一人で部屋に閉じ込められている。それは、リナと同じような状態であった。虚しさと空虚さに埋もれ、目は屍のようになっていた。
(俺が、男で生まれたから………)
黒髪が日の光にあたり、瞳には光が宿っていなかった。
「そうか、ユスフリカ王女もこんな思いだったのか………。こんな所に閉じ込められる………気持ちが」
低い声で、そう言い、ぶっ倒れてしまった。
「ごめん。ごめん………。俺が………生まれてきたから………。ユスフリカ王女が………こんな目に」
床に耳をつけていたため、物音がよく聞こえる。足音が二つ、クローヴィスのいる部屋までやってくる。
(………足音?)
そんな時、扉のカチャカチャ音が鳴り、警戒しながら、その扉の方向を見る。そこから、声が漏れていた。
「くそっ、鎖かよ!」
「どうする?アルベール」
「あっ、ちょっと待って!」
扉の外側がやけに騒がしく、そしてクローヴィスには聞き覚えのある声だった。
(アルベールって、もしかしてアルベール・デイヴィスか?それに、アルベールの名を呼ぶ声は………)
考えるのも束の間。鎖の切れる音が鳴り、そこから顔見知りの二人がいた。
「ハァ…ハァ…、大丈夫か?」
「お前らは………」
「おい、アルベール!今は誰もいないみたいだぞ!」
「使用人もか?」
「あぁ、もぬけの殻だ」
後ろから次々とアルベールの友人達がやってきた。
「それなら、大丈夫。お父様に言ったもの。今回だけは、私も耐えられなかったからね」
クローヴィスの攫ったリナの姉、イネスがクローヴィスを睨みつける。
「なんの事情があってかは知らないけど、リナを巻き込まないで!」
微笑んだ表情が、宝石のように煌びやかだった、イネスの顔は、仏頂面となっていた。
「………………ごめんなさい」
誠心誠意謝ったクローヴィスの姿を見て、イネスはため息をつき、彼の方に手を伸ばし、ほっぺたを叩いた。
バチン!
と言う音が鳴り響き、そこにいた者たち全員、目が点になる。
「え……」
叩かれた本人も、なぜ。と言う顔をし、イネスを見ていた。
「確かにあんたのやったことは、ダメだと思う。だけど、どうしてそこで父親のせいにしないのよ!」
「え……?」
「アルベールから、予想程度だけど、話は聞いた。父親の命令に従わなければならなかった」
その言葉を聞いた時、クローヴィスは顔を俯かせた。
「本当なの………?」
「………………あぁ。俺は、父さんの言うことに従わなければならなかった。俺が、男で生まれたから。ヘルツァンバイン家が代々受け継いできた、力を持っていなかったから。だから———!」
「なら、尚更。あんたは逆らうことのできなかった。そんな相手の生き人形となってるしかなかった。だけど、どうして庇うの?」
「え?庇ってなんか………」
「庇ってるようにしか見えないの。だから、包み隠さず話して!」
イネスは形相の顔でクローヴィスに、問いかける。それに観念したクローヴィスは淡々と話し始め、それを聞いた全員は、何も言えなかった。
彼には一人の姉がいた。だけど、姉がユスフリカ王国に行く途中、何者かに殺された。クローヴィスとその姉はだいぶ歳が離れており、クローヴィスが0歳。姉が15歳。ちょうど、クローヴィスと同い年に殺されてしまった。理由は定かではない。王国の使者に殺されたなんて噂も立っていた。それを聞いてしまったヘルツァンバイン家の伯爵はユスフリカを許さずにいた。
大事な跡取り娘。大事な最初の子供。クローヴィスがまだ生まれたてだっため、姉がいることを伯爵は隠蔽した。記されているヘルツァンバイン家で、最初から無かったことにしようとし、彼の姉の名前を消し去り、姉が使っていた私物、全部燃やした。そこから人が変わってしまった。と、彼の母親が言っていたそうだ。
もし、あの時彼の姉が死ななければ、今や30。だいぶ前から嫁に行っている人間だった。彼の姉は言っていた。「必ず孫の姿を見せに行くからね」と。それは伯爵の夢でもあった。それがどこの誰かと知らない相手に殺され、それをやったのが、王家の使者だとしたら、徐々に怒りが込み上げで来る。
そう話を聞き、後ろに伯爵がいることを、アルベール達は気づいていなかった。剣を振り下ろそうとしている、伯爵の姿が———。




