10話 魔獣の大群
アルベールは学院につき、教室まで行こうとすると、明らかに教師たちが落ち着かない様子をしていた。気になったアルベールはその中の一人に話しかけた。
「あの、どうかしたんですか?」
「え?!あ、あぁ、いや、なんでもないよ」
(明らかにそう言う顔じゃないだろ)
時期は六月であった。この時期は、あいつらが活発化している時期。それをアルベールは知らなかった。
(一体なんだ…?)
心がモヤモヤしている中で、アルベールは教室に向かった。
「あれ、どうかしたの?エイダン」
「おい、大変なんだ!」
「大変?何が?」
「帝国の外に魔獣達が活発化してるんだ。その大群が今、帝国に来ようとしている」
「魔獣が!?」
「あぁ、春から夏にかけて何だ」
(それ、今まで聞いたこともないぞ!?だからか。だから教師達が落ち着かない様子であったんだ………)
先程のモヤモヤが、晴れるも、新たな心配まで出てくる。
「誰が討伐するの?」
「先輩達だ。先輩たちか、教師、もしくは騎士たちだ」
「なるほど。で、もう動き始めてるのか?」
「いや、それがさ………」
ライアンが目を逸らし、答えられない様子であった。そこで、補足としてクロードが後ろからやってくる。
「新たな魔獣の報告があるらしいよ」
「え?」
「………!アヴェリーノ」
「新たな魔獣って?」
「巨大な魔獣が現れたらしいの。その為、そこに騎士兵たちが行ってるらしい」
「じゃあ、そっちの方に騎士団が全員……?」
「そうみたい」
クロードから説明されたが、腑に落ちない部分がある。
(騎士団全員がその巨大な魔獣に?全員?
そんなわけないだろ。帝国の騎士団は、沢山いるはずだ。
第一騎士団、第二騎士団、第三騎士団って。なのに、それら全員が魔獣退治に?
そう考えると、その魔獣が3、4体、もしくは雑魚どもに遅れをとっているってことか?
どっちにしろ、帝国に押し寄せてきてる魔獣たちをなんとかしないとだ)
アルベールはそう考えた。まさに危険な状況だ。
「それって、俺たちは行っちゃいけないのか?」
「ハァ?俺たちでその魔獣の大群を相手にするのは、無理だ!」
「流石に数が足りない」
「うん。あまりにも危険すぎるよ」
(くそっ、それじゃあ、ただ見てるだけなのか?)
アルベールはただ、焦っているだけだった。どうすればいいのか。と。だが、アルベールは大魔導師と今じゃ呼ばれている。魔力が少なくなっていたとしても、
(見ているだけ?俺は元は大魔導師だぞ。力は衰えていたとしても、魔獣を倒すことはできる……。なら、やるっきゃないのは確かだ)
そう考えたアルベールは、急ぎ教室を出て行った。それは颯爽と。それを見たエイダン達は、アルベールを止める暇もないほどに。
「おい!」
エイダン達の声を振り切り、アルベールは校舎を飛び出した。不確かな足元で校舎の外に出て、門を出る。
「ハァ…ハァ…ハァ…っ」
走ったため、息遣いが荒くなり、汗が滴り落ちる。それを手で拭った。
(騎士団達が不在なら、誰かがやるしかない)
アルベールの意思はかなり固かった。それは大魔導師の意地のようなもの。彼はそうだ。大魔導師としても。魔法の力を手に入れた時だって、誰かのために力を振るい、国を作り、学院を作り、1万年後の世界でも、英雄として讃えられ、大魔導師だと讃えられ、若い者の中では、彼のようになりたいと願う者まで現れる。それは、彼の性格だ。
「くそっ、どっちから来るかは聞いてなかったな」
(とりあえず、外まで行ってみるか)
そんな時、後ろから走ってくる音が聞こえてきた。
「………ん、なんだ?」
「やぁ、デイヴィスくん」
「………!アヴェリーノくん」
ディランだった。なぜ彼がやってきたのか、アルベールは不思議で仕方がなかった。
「君も、魔獣を倒しにいくのかい?」
「………あぁ、そうだ。………ん?君“も”?」
「あぁ、そうさ。僕も、倒しに行こうと思ってね」
ディランは、朝早くから校舎に来て、教室に上がっていた。彼のクラスメイトが次々とやってくるときに、耳に入ったらしい。
『魔獣の大群が、今こっちに来てるって!』
聞いた彼は、いつもの彼じゃなく、落ち着かない様子だった。そんな時、アルベールが走り去って行った光景を見た時、「自分も」と思い立ち、アルベールの後ろを追いかけて行った。そして、今現在に至る。
「どっちから来たか、聞いてないか!?」
「おそらくだが、東から来ると思う」
「え、なんで?」
「帝国より東側に、森があるだろ?そこは魔獣の住処と言われているんだ」
「なるほどな」
ディランの説明に、頷けた。
「とにかく、急いだほうが良さそうだな。行こう」
「あぁ」
二人は、帝国の門がある場所まで走り抜けて行った。
ーーーーーーー
帝国の門がある場所まで、辿り着き、その門をくぐり抜けると、壮大な草原が広がっている。まさに絶景という言葉が、似合うほど。
「ハァ…ハァ…ハァ…、まだ、魔獣達はやってきてないみたいだな」
「あぁ………、そうみたいだな」
まだ魔獣の姿が見えないことに、安心を覚える。
「なぁ、アルベール」
「………アヴェリーノくん?」
「無謀だと思う。こんなの自殺行為だ」
「………………そうだね。アヴェリーノくんの言う通りだ。俺たち二人だけで、魔獣の大群に立ち向かおうだなんて、無謀で、無茶で、自殺行為だ。だけど、予め作戦を立てていれば?予定と違っていたとしても、少なからずの勝算はある」
「………そうだね。君の言う通りだ。作戦はどうする」
眉間に皺を寄せる。だが、アルベールは杖を召喚した。少しの勝算をもとに。
「俺が広範囲魔法を放つ。それである程度の魔獣が倒されるはずだ。そうなれば、アヴェリーノくんの得意魔法を放って」
横にいたディランに顔を向け、そう伝えると、ディランは目を見開く。
(出来ることなら、クロード達も来て欲しかったけど………)
でも実際いない人物の名前を言ったとしても、意味ないことくらい、彼はわかっていた。そんな時、彼らの目の前から、大量の魔獣がやってくる。
「………………!来る!構えて!」
「あぁ!」
アルベールの掛け声で、ディランは手を前に出した。
「あの見た目は………」
「………………!黒い狼!」
「え!?」
黒い狼と言うのは、普段は夜にしか出現しない狼で、昼に出現するのは、愚か。目撃例も出ていない。
「そんなわけ無いだろ!黒い狼だぞ!?夜にしか出ないはずだ!」
「確かにそうだ。じゃあ、他になんて………」
黒い狼は、夜の狼とも言われているほど、昼間には出ない。
「………………!思い出した!黒い狼じゃない!あれは、毒の狼だ!」
「………………!?」
毒の狼と呼ばれている、毒の狼は黒い狼と色が非常に似ている為、間違えられやすいのが、特徴。爪で掻かれると、毒が体内に侵入し、最悪の場合、命を落とす。もちろん、噛まれても一緒だ。
「そんな奴らが………」
「勝てるのか………?」
「………………っ」
アルベールは唇を噛み締めた。それはもう、唇に歯形がつくほど。
「やるしかない。行こう!作戦通りに!」
「分かった!」
アルベールがディランより前に出て、杖を上に掲げ、目を瞑り、詠唱を唱える。
「『我が真紅の炎よ、我、聖域を汚さんものには神罰を。業火の賜物』!!」
空に大きな魔法陣が生成され、そこから火の刃が空から降る。魔獣達に直撃し、代替の数は減らすことに成功し、そこから追い討ちとして、ディランが水の魔法を放つ。
「『水の刃よ、可のものを切り刻め!
水の断罪!!』」
ディランがそう唱えると、ディランが前に出していた手に小さな魔法陣、そして彼の背中にも魔法陣が生成され、そこから水の刃が勢いよく、沢山の魔獣を切り刻む。
(よし、これでなんとかなりそうだ。だけど、呆気なかったな………)
「………!?アルベール!!」
ディランの声に、アルベールは横を振り向く。そこには、魔獣が覆い被さろうとしてきた。
(くそっ!避けきれない!)
この時、切られると思い、思わず地面にお尻がついてしまった。その刹那、カキン!と音が鳴り、前を向くと、ディランが剣でアルベールを守っていた。
「………………!あ、あぁ」
(今そんなことしてる場合じゃない!)
我に帰ったアルベールは、そこから魔獣の後ろに回り込み、間近で水の刃を作り、切り裂いた。
「ハァ…ハァ…ハァ…、助かった。ありがとう。アヴェリーノくん」
「マジで助かって良かった〜………」
ディランは安心で、思わず地面に座った。そして、さっきアルベールに襲い掛かろうとしてた魔獣で、最後だったみたいだ。
「え、あぁ。どういたしまして。それでも油断しちゃいけないよ」
「ごめん」
今回は、なんとも言えなかった。ディランにアルベールは命を助けてもらったのも同義。
「ま、無事なら構わないさ」
ディランはアルベールに手を差し伸べた。それに気づき、アルベールはその手を取る。
「よっと、さんきゅ。とにかく、呆気なく終わったな」
「そうだな」
二人は安心しているが、まだ終わったわけじゃなかった。まだ続く。魔獣との戦いは———。




