042 「外伝・終幕『私の十五年戦争』」
「はい、お受け取りになって」
「幸子大叔母様、これは?」
品の良い老婦人が、彼女の若い頃によく似た少女に、机の上に置かれたかなりの冊数の古びた本のようなものを示す。
見た目はどれも同じだが表紙の柄は古く、レトロと表現できる趣があった。もっとも、背表紙共々、題名らしきものは何も書かれていない。
ただ表紙の右下に、数字と『鳳玲子』とだけ書かれていた。
「あなたの曾祖母、私のお母様の日記になりますわ」
「ひいおばあちゃんの? けど、鳳の人間や許された人だけが見られる物の中に、これ無かったよね?」
「ええ。これは歴代の『鳳玲子』だけが見て良いもの。わたくしが預かっていましてよ」
「けれど、ひいおばあちゃんが亡くなられたのに、私が見ても?」
少し様子を伺うように見返す少女に対して、老女は笑いかける。
「見て笑っておあげなさいな。それが供養にもなるでしょう」
「う〜ん。どうかなぁ。ひいおばあちゃん、絶対恥ずかしがるよ」
「毎度笑われていましたわ。こんなもの残した自業自得ですわね。……そういえば、わたくしがあなたくらいの頃に見せていただいた時、『黒歴史』とか仰ってもいたわね」
「へーっ。その言葉、そんなに前からあったんだ」
「『黒歴史』が? お母様は昔からたまに変な言葉をお使いでしたから、それも夢見で聞いた言葉でしたのでしょうね。今の子は使いますの?」
「ううん。ネットで見かけた事があるだけ」
「今くらいまでの先の夢見をしたそうだから、インターネットの事も夢に見ていらしたのでしょう」
「ひいおばあちゃん、スマホもタブレットもすぐに使いこなしてたもんね」
「インターネットの頃からそうでしたわね。ああいった新規な道具を言い出したのも大抵はお母様。夢の中で見かけたものは、一足早く欲しがる方でしたわ。それに、初見で懐かしいって言うのが口癖のようなものでしたわね」
「私も聞いた事ある。ずっと?」
「ええ。わたくしの知る限り、ずっと。もしかしたら、この時代から輪廻転生されたのかもしれませんわね。今、そういったお話が、漫画やアニメの流行りなのでしょう」
「さあ? 私、子供の頃以外は話題のアニメ映画くらいしか見てないから」
「お母様は、少し入れ込みすぎでしたわね。けれどね、ああいった事に熱心だったのは義務感もおありだったからみたいよ」
「義務感? 好きだからじゃないの? 私にはそう見えたけど」
「好きなのもおありだったでしょうけれど、歴史を捻じ曲げたとよく仰られていたでしょう。お母様の中には、夢の中にもう一つの日本がありましたの。それで夢ではあるのに現実にはない事、夢と違う現実に変えた結果なくなった事、そうした事を夢の通りにしようとされたみたいですのよ」
「へーっ。面白い話ね」
「ええ、本当に。そしてこの日記には、そうした事も沢山書いてありますわ。まあ、舞台裏とでも思って、気楽に目を通しなさいな。その時々の気持ちなど沢山記されていますから、あなたが『鳳玲子』を演じる時の助けになりますわよ」
「なるほど。虎の巻ってわけね」
そう言いつつ少女は一番上の日記帳を手に取り、最初のページをめくる。
そしてそこにはこう書かれていた。
『私の十五年戦争』
了
.。゜+..。゜+.玲子の部屋.。゜+..。゜+
お嬢様「というわけで、長かったこのコーナーもこれにて幕。皆様お疲れ様でした」
シズ(静かに頭を下げる)
麒一郎「よし、じゃあ飲むぞ」
時田「麒一郎様も、その前にご挨拶をされた方がよろしいかと」
麒一郎「ん? そうだな。皆ご苦労だった。さ、久しぶりに飲もう」
お嬢様「お爺様や時田となんて、70年ぶりくらいかしら?」
麒一郎「そんなに経つか」
時田「本当に長い間ご苦労様でした。玲子様」
麒一郎「そうだな。シズも、この奇天烈な奴によく付き合ってくれた」
シズ「勿体ないお言葉に御座います。ですが私は、20世紀の間しかお側に居れませんでした」
時田「玲子様は長生きされましたからな」
お嬢様「あと一息で100歳だったものね。けど、多分これは因果が巡ったせいよ」
麒一郎「なんの因果だ?」
お嬢様「みんなが死ぬ少し前に教えたでしょ」
麒一郎「転生という奴か」
お嬢様「うん。私が死んだ日が、前世で転生した日なのよ。多分だけど」
シズ「未来を遠く見通せたわけですね」
時田「全くですな」
お嬢様「見渡せたところで、思った通りにはならなかったけどね」
麒一郎「答えの通り事が運ぶほど、世の中そう甘くはない」
お嬢様「ホント、その通りだった。骨身に沁みたわ」
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後書きのようなもの:
皆様、ここまでお付き合いいただき厚く御礼申し上げます。
ありがとうございました。
戦中、戦後に関しては、設定資料やメモ書きとして書いたものをさらに書き足したので、かなりとっ散らかっているのは自覚しております。
ですが、あくまで余禄や付録程度とお思い下さい。
外伝部分は、本来は大半がお見せするようなものでもありませんでした。
その点は、重々自覚しております。
ですが戦中、戦後を見たいと言われる方が多数いらした事もあり、こうして公開しました。
また、「こんな戦後にはならない」「右翼すぎる」「技術が同じとかあり得ない」などと厳しいご意見もあると思います。
また、主人公が戦後を傍観し過ぎというご意見もあるかと思います。
その辺りは、それぞれでお好きに考えていただければと思います。
これもある意味でループの1つに過ぎません。
ただ、戦後の主人公の動きが鈍い、もしくは鈍く見えるのは、一人で何でもできるわけない、というだけです。
本編中は、色々出来すぎていただけです。
念の為・・・
戦後史の政治などに関しては、内容はあくまでシミュレーションで、想定内の状況を書いているに過ぎません。
『趣味』レーションな面も否定はしませんが、「こうなるだろう」という想定です。
内容はあくまでシミュレーションです(大事なので二回言った。)