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055 「お誕生日会再び」

 4月11日、私、鳳玲子のお誕生日会をした。

 催したとか開催したとかのレベルになるのも、そう遠くないだろう。


 もっとも、開催までは大変だった。あまりに大変なので一週間順延となったほどだ。

 誕生日会の1週間順延ってどうよと思うけど、本来の誕生日の4日開催が流石に無理だったのだ。


 日本では、鈴木商店(財閥)が死にかけたのをうちがほぼ丸呑みして救ったのは良いが、鳳財閥自体も大幅な組織改編も同時にしたので、合併と統廃合などの組織整理で財閥も一族も大わらわだ。

 そのせいで今年の誕生日会には、鳳の大人達は誕生日プレゼントと誕生日カードのみ。時田もいない。


 一方海外では、大陸の混乱がくすぶっていた。

 国民党の動きは田中義一内閣の積極的な行動のお陰で沈静化したが、国民党内での主導権争いが続いている。

 しかも、その国民党の権威と武力が大きく低下したので、北京を根城としている張作霖など主に北部の軍閥が動き出そうとしていた。

 蒋介石は雲隠れしたが、どうやら日本に事実上の亡命をしているらしい。


 それでも私の前世の歴史よりずーっとマシだ。

 私の前世通りに事態が進んでいたら、4月5日に鈴木商店は破綻していたのだ。

 何より「昭和金融恐慌」は起きていないので、取り敢えず日本経済は順調に進んでいる。大陸では早期に出兵して火消したので、戦乱は拡大していない。


 そして何より、この世界となんらかの繋がりがあるであろう乙女ゲーム『黄昏の乙女』並びに、私の体のあるじが前世で体験した通りなら、鳳財閥も破綻していた。(ゲームでは鳳凰院財閥だが。)

 私の誕生日会どころではなかっただろう。


 だから今日のお誕生日会は、私にとって祝勝会に等しい。

 いや、私も結構頑張ったと思うので、慰労会かもしれない。前世ではアラフォー&リーマンだったので、慰労会な気分の方がずっと強い。

 だが、そんな気持ちはみんなが来てくれると吹き飛んだ。


 そう、今日は私の誕生日会。

 みんなに祝福される日だから、私は楽しんでもバチは当たらない筈だ。




「フーッ!」


「玲子ちゃん、お誕生日おめでとう!!」


 私が大きなお誕生日ケーキに刺された7本のろうそくを吹き消すと、みんなが一斉に私の誕生日を祝福してくれた。

 まさにお誕生日会だ。

 去年はこれをすっかり忘れていたのだけれど、今年は入念な根回しと事前の説明により完璧にプロデュースする事ができた。

 ケーキには、チョコレートのプレートだって刺さっている。

 当然だけど、言葉の後の拍手もみんな忘れていない。


(ああ、幸せ)


 本当にそう思う。


「なに、泣いてんだよ」


 龍一くんが茶化すが、ホロリとしたくもなる。

 しかしこの涙で気づいたけど、これだけみんなに祝福されても、この体が満たされていない。

 そう、最も大切な両親は既に他界していて、私を祝福してくれる事がないからだ。そう思うとさらに泣けてきた。

 私自身はそれほど悲しくは感じないけど、私の体に私が同情してしまっている。


「玲子お嬢様、嬉しいのは分かりますが、あまり皆様を待たせるものではありませんよ」


 しばらく涙を流していたら、斜め後ろからシズが私の涙を拭いてくれた。いつもより声が幾分優しく聞こえる。


「そうね。みんなごめんね。ううん、ありがとう。本当にありがとう!」


 全員を見渡しつつ心からの言葉を紡ぐ。

 それにみんなは、頷いたり一言コメントしたりとそれぞれの反応を示してくれている。

 なお、今日の出席者は、瑤子ちゃん、玄太郎くん、虎士郎くん、龍一くん、山崎勝次郎くんと、約束通りの人たちが来てくれている。

 これに加えて、私のクラスメートというか事実上の家臣となるであろう、涼宮輝男くん、七美光子ちゃん、皇至道芳子ちゃんも半ば命令で招待した。

 数が多い方が賑やかで良いし、男女のバランスを取る目的もある。

 何より、勝次郎くんが来るなら輝男くんも呼びたいのが、乙女ゲーム『黄昏の乙女』を愛した者としての心情だ。



「さあ、今日は飲んで食べて、楽しんでね!」


「その前に、贈り物、いやプレゼントを渡すんだろ」


「あ、そうだった」


「まったく」


 一番大きな入れ物のプレゼントを用意している勝次郎くんのツッコミに私がボケて、私の誕生日パーティーが始まった。


 と言っても、今日は平日。そして放課後。

 本当は8日の日曜日にしようかと思ったが、みんなにも都合があるし、準備も十分にできないのでこの日が選ばれた。

 だから、一族の子供達はそのままこの屋敷での夕食まで一緒だが、他の子達は3時のおやつくらいから夕方までの開催だ。

 もっとも、子供のお誕生日会など、飲んで食べて騒いでおしまいだし、誕生日会自体そんなに長時間するものでもないだろう。

 一日をかける必要がある規模になるとしても、あと12年先にこの体のあるじとの勝負に勝利して大人になってからだろう。


 しかしこの誕生日会も、ただ騒ぐだけじゃない。

 いや、私達子供は騒ぐだけだが、裏方の使用人達と、このために呼んだ人達はせっせと動いてもらっている。

 というのも、金にあかせて動画撮影させているのだ。当然、時代が時代なのでかなり本格的な撮影機で。もちろん、写真も撮影しまくっている。


 どちらもまだモノクロだけど、記録に残すのは日本でのお誕生日会の普及を狙っての事だ。それに歴史的な資料としても、この時代でも子供達はお誕生日会をしていたのだという証拠になるだろう。

 まあ、そこまで堅苦しくは考えていないけど、やっぱり動画、写真を撮ると相応にテンションが上がる。特に私は前世の記憶があるので、スマホで撮りあった記憶も十分以上に残している。


 自分から撮られに行くのは、物怖じしない虎士郎くんと、なんでも挑みに行きがちな龍一くん。二人の場合、主役である私を撮っているところに割り込んで来る。

 あと、勝次郎くんと輝男くん、それにお芳ちゃんは撮られるに任せる派。恥ずかしがるのは、瑤子ちゃんと玄太郎くん、それにみっちゃんだ。

 それに、みっちゃんは終始緊張しっぱなしだ。


「ねえ、みっちゃん。もっとリラックスして」


「り、りらっくすとは何でしょうかお嬢様」


「くつろげって事よ、ミツ」


「あんたは寛ぎすぎ」


 私のツッコミに、お芳ちゃんがソファーにしなだれかかりつつ、手にしているガラスコップを軽く掲げる。

 中身はコーラだけど、そうしていると洋酒かカクテルでも飲んでいるように見えてしまう。実際ゲーム上では、そんな姿を見た記憶がある。


 しかもお芳ちゃんは、使用人候補に誕生日プレゼントは不要と伝えてあったのだけど、私の前に跪いて「今年分の我が忠誠をお贈りします」とかのたまった。

 これに私が「毎年更新かよ!」って突っ込むと「毎年行う事で忠誠度合いが高まる」との返し。ゲームじゃないっての。


 しかし、みっちゃんがこのやり取りを真に受けて、「わ、私も、忠誠を捧げます」と同じようにする始末。

 いや、同じじゃなかった。今日は贈り物で良いんだよ、みっちゃん。


 続いて輝男くんも静かに跪いて頭まで深く下げたのだが、求婚や求愛というより騎士の忠誠の儀の姿勢になっていた。

 うん、それちょっと違う。と思わず心の中でツッコミする見事な礼だ。剣があれば、完璧だっただろう。


 そうしたらみんな面白がり、同じ事を順番に並んでまでしてしてくれた。

 もっとも、わざと最後に回った勝次郎くんは「俺の妻の座を贈ろう」と、いつもの俺様な宣言。

 そうすると鳳の男どもが「勝次郎、ずるい」とか「今日はそういう日じゃない」とか「ボクもそっちにしようかな」とそれぞれが『贈り物』を変える始末。

 それを見た私の心のコメントも、もはや私の中ではお約束だ。


(凄く嬉しいけど、残念ながら君達のうち誰かの横には、ゲーム主人公の月見里やまなし姫乃ひめのが座るんだよ)


 そんな楽しいひとときは、あっという間に過ぎていった。


 しかし、その後も鳳の子供達と軍人の仕事を終えたお父様な祖父と龍也お兄様を交えての夕食会があったので、その日は半日楽しく過ごす事ができた。

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] このお誕生日会は映像○世紀に出てくる!
[良い点] >「昭和金融恐慌」が起きていない。裏面が白紙のお札が刷られたりもしていない。 裏面が白紙でも構わない。政府の信用を刷って国民を安心させて恐慌を収める。なんてことを決断して実行して結果に出す…
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