053 「鳳グループ(企業集団)(2)」
「それでは、第一回『鳳凰会』を開催する。乾杯!」
「「乾杯!!」」
善吉大叔父さんの号令で、数百人の男達が盃を掲げる。
4月某日、集められる限り集めた鳳グループに属する、鳳財閥、鈴木商店の社長達が今回も借りた帝国ホテルのホールに集結していた。
『鳳凰会』は今回は変則で、来年までに正式な時期や規模など諸々を決めることになっている。
今回この日に行われたのは、とにかく可能な限り早く全員の顔合わせを一度行うという目的からだ。
だから、ご飯を食べつつ代表者がちょっと話して、互いに名刺交換などをするくらい。何しろ、これから何をどうするのかすら良く分かっていない者が凄く多い。
説明も、一回の話し合いで説明し、そして理解できるものでもない。
本当の意味での顔合わせで、親睦会や社長会議とは言えない。派手にする必要もないので私の出番がある筈もない。あとで曾お爺様から話を聞いただけだ。
なお4月1日に、鳳グループ(鳳企業集団)が正式発足した。そして大幅な組織改編、企業の統廃合が精力的に実施される事になる。
大きくは、鈴木商店系列の不採算部門の大幅な統廃合が中核となる。
しかし業績如何に関わらず、競争力強化の為に金融、石油、重工業は鳳が買収か統廃合。
特に金融は、鈴木は機関銀行すら持たないままだったので、弁解の余地なくなけなしの小さな金融組織すべてが鳳に吸収され名前も残されなかった。
石油、石油の関わる化学工業に関しても、北樺太油田を持ち、遼河油田の試掘に成功した鳳の圧倒的優位にある為、鳳で一本化。
なお、鈴木系には旭石油があるけど、旭石油はのちの昭和シェル。出光さんの元で一つになるなら、ある意味大幅前倒しなだけだ。
そして鳳は、これで日本最大の石油関連会社となる。遼河油田の開発が進めば、日本のスタンダード・オイルになるのも夢ではない。
遼河油田の試掘成功で海軍が小躍りして喜んでいたから、政治的な邪魔も気にせずに推し進められるだろう。
一方で、鈴木商店が第一次世界大戦頃の急拡大で合併した企業の多くは、鳳が大量の不良債権を請け負った代わりに鳳のものとなる。
しかし古くからの鈴木系の会社や鈴木への忠誠の高い会社に関しては、出来る限り手をつけない約束となっていた。
特に鈴木が本業としてきた商社機能の一部、製糖、合成アンモニア、化学事業の中核企業、さらに食品系の企業は鈴木に残す事になった。
要するに鳳と鈴木で得意分野を担当し、棲み分けをした事にもなる。
そして当然だけど、鈴木商店の名前は残る。てっぺんでは無くなるけど、破綻していたり他の財閥に吸収合併されていたら、名前すら残らないだろう。もしくは名前は残るが、財閥の抜け殻のような組織になっていただろう。
そうした中での例外の一つは神戸製鋼所。
鈴木の工業部門の表看板だ。そして海軍が育てた民間工場という向きがあるので、高い技術力を持っている。
1927年の時点では製鉄所ではないけれど、鋼の管・棒を作るなどしている。これは、油田開発のために出来る限り自前で必要な会社だった。
一方で製鉄所自体は、鳳が鈴木を飲み込むと決める以前から鳳財閥の中で計画が動いていた。ただし、まだ計画実施中といったところで準備会社程度しかないので、安易に一つにはできない。
そして今必要なのは、製鉄所じゃなくて高品質の鋼の管・棒だ。だから会社を混乱させたくなかった。
そこで鳳、鈴木のどちらかとはせずに、鈴木が運営、鳳がその上から経営という形にされた。
何しろ遼河油田では、最大で年産1200万トンもの石油を地面の奥深くから採掘しないといけない。しかも私の計画では、さらに巨大な油田開発が10年以内に待っている。
だから現状でも高品質の鋼管が必要な上に、今後も幾らあっても足りないほどで、これを他から買うとか悪夢だ。
あと、神戸製鋼に播磨造船がくっつけられていたが、これを切り離して鳳直轄として増資。
神戸製鋼所は製鋼事業に集中させて、場合によってはここに史実より大幅前倒しで一貫製鉄所を作るつもりだ。
また別の例外が国際汽船。
この会社は一種の国策会社だが、他の日本の大規模商船会社の日本郵船、大阪商船よりも民間の力が強い会社だった。
そして鈴木は大株主の一つだった。
しかし国際汽船自体は、新興な上に経営が安定しているとは言い難かった。そこで鳳財閥が抱える鳳商船を合流させ、さらに増資を実施。もともと鈴木が資本金8000万円のうち16・8%を有していたのを、鳳が3分の1を有する形に変更。
鳳に造船会社はないが、鈴木には播磨造船所があったのでこれも鳳の直参として、足りない分は色々整えて可能な限り大きなタンカーを建造できるようにさせ、じゃんじゃんタンカーを作れと発破をかける。
また、国際汽船の大株主の川崎重工にも、軍艦を作らない時には神戸の大きな造船所で同じように大型タンカーを作らせた。
これで川崎財閥との関係も進む事になる。実際、苦境の続く川崎からはかなり喜ばれた。
もっとも、当初は日本にそんなに石油の需要はないと訝しまれた。けれども、需要自体を増やす長期計画だから、船を作っておかないと後で困るので少し強引に作らせる事にした。
この一連の動きに、日本の造船各社、船会社の日本郵船、大阪商船はあまり良い顔をしなかったけど、油田とタンカーという点で海軍が鳳を全面的にバックアップしてくれたので、推し進める事が十分に出来た。
一方で私個人として嬉しいのは、鈴木が帝人などの衣料、紡績会社を持ち、日本製粉、帝國麦酒、豊年製油など食品系の会社も豊富に有していた事だ。
今までの鳳財閥は規模が中途半端なので、どうしても手を広げる事が出来ない分野ばかりだったが、これで一気に多くの産業分野に手を広げる事が出来るようになった。
そうした中で私が注目したのは、第一窒素工業。
窒素つまり化学肥料(硫安)について日本は、化学先進国のドイツなどからの輸入に頼る面が強く、それを打破して国産で全てを賄う事が農業生産の拡大にも繋がるし、外貨流出の阻止にもなると考えたからだ。
それに原料のアンモニア生産には石油化学(正確には各種ガスで、石油の場合はナフサを使う)も関わるから、石油大手となった鳳との相性も悪くはない。
決して、有事の際の火薬生産への転用を考えたのではない。むしろ火薬など作りたくもない。
それはともかく、ここは鈴木商店が会社と工場を作ったばかりで、手を付けやすかった。だが当初計画では、鈴木に残す代わりに鳳が大幅に出資する形で規模を拡大させようと考えていた。
しかし、鈴木側から鳳への人身御供に出されてしまった。
そしてこれは曾お爺様や善吉さんの予測だが、金子さんが鳳に打ち込んだ楔の一つとの事だ。
油断も隙も無いと言って、二人とも苦笑していた。
そんなこんなで、以下が鈴木商店(財閥)の再編後の結果となる。
■『鳳グループ(鳳企業集団)』
■機関銀行(全ての持株会社):
・鳳FHC(鳳金融持株会社) 通称:鳳ホールディングス
・鳳FI(鳳投資資金・鳳一族直轄) 通称:フェニックス・ファンド
・鳳総合保険(鈴木系をすべて吸収)(生命、火災、海上保険全て)
■鳳会社(財閥本社・持株会社ではなくなる。司令部機能のみ)
鳳商事(鈴木の商事部門の多くを吸収合併して大幅拡大)
鳳観光(組織編成中)
皇国新聞(一部警備会社的側面がある(※日本国内の民間警備会社は国が作らせてくれない))
鳳総合研究所(シンクタンク(情報収集と分析))
鳳貨物
鳳不動産
鳳建設
国際汽船(出資率約33%)(鳳商船は国際汽船に合流)
・鉱業系
鳳鉱業(鈴木系を一部吸収)
鳳石油(北樺太、遼河油田保有。遼河油田を独占状態。旭石油を吸収合併)
鳳製油(規模拡大中)
鳳化学(鈴木系の化学系企業を吸収合併)
第一窒素工業 → 鳳窒素
・重工業・機械系
鳳機械産業(取り敢えず、なんでも作る)
鳳精機(工作機械製作中心)
鳳電気(巷に勃興している会社に手を出しつつある)
鳳自動車(フォードのノックダウン生産。トラックを自力開発中)
鳳発動機(ガソリン、ディーゼルエンジンの開発・製造)
播磨造船所(大幅増資)
神戸製鋼所(拡張予定)
・準系列(提携もしくは出資)
川西機械製作所 (提携&出資)
豊田自動織機製作所 (出資)
東洋工業 (提携&出資)
小松製作所 (提携&出資)
・紅家管轄
鳳製薬(事業規模を大幅拡大中)
鳳総合病院
鳳学園
鳳大学(総合大学。医学部、工学部など学科多数)
鳳学園(中等学校、高等学校、看護学校、師範学校)
鳳専門学校
鳳技術学校
■鈴木商店(( )内の数字は設立年。★印付は鈴木の合併年)
・株式会社鈴木商店
(財閥本社・持株会社ではなくなる。司令部機能のみ。商社機能の多くも鳳へ)
・太陽鉱工(太陽産業) (レアメタル、レアアース)(鈴木直系)
・日本冶金(東邦金属) (レアメタル、レアアース)
・日本精化 (樟脳)
・鈴木薄荷
・日本製粉(東亜製粉)(★1906)
・帝人(帝國人造絹糸) (繊維)(1907設立)(★1920買収)
・東洋塩業(→台湾塩業)(★1909)
・大日本明治精糖(北港製糖)(★1910)
・帝國麦酒(→櫻麦酒→サッポロビール) (醸造・ビール)(1912)
・日本輪業 (ゴム)(1914分離)
・大里酒精製造所(1914)
・大日本塩業(→日塩)(★1914)
・豊年製油 (食用油) (★1915)
・神之浦炭鉱、大徳炭鉱(1916・筑豊)
・日本化薬(日本化薬製造) (火薬)(1916)
・羽幌炭鉱(1918・北海道苫前)
・昭和産業 (食用油)(1922)
・日本グリセリン工業(1922)
・山陽電機軌道 (路面電車・下関)(1925)
■鈴木から鳳に売却、移譲(一部例外あり)
・神戸製鋼所 (製鉄所)(★1905)
・日本商業株式会社(のちの日商岩井 (だった))(★1909)
・大正生命保険 (保険)(1913)
・日本金属工業 (鉄鋼)(★1915)
・播磨造船所 (造船)(★1915・設立は16)
・第六十五銀行(鳥取。鈴木の系列銀行)(1916出資)
・旭石油(のちの昭和シェル石油 (だった))(★1918)
・日本冶金工業 (冶金)(★1918)
・国際汽船(★大株主(16.8%)1919)
・日本工具製作(1919)
・東海製油所(1921)
・新日本火災保険 (保険)(★1920)
・東京無線電機(1922)
・第一窒素工業(※クロード式窒素工業を持つ。1926設立)
■他財閥に売却
・日本セルロイド人造絹糸(→三菱)
・東京毛織 (紡績)(★1906)(→三菱)
・東洋製糖 (製糖)(★1914)(→三菱)
・沖見初炭鉱(1916・宇部)(→大倉)
・大源鉱業(1920・中国山西省)(→大倉)
よく考えたら、主人公登場してない(汗)
それよりも、組織図を作るべきだろうなあ。
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鈴木商店の資料は主にここを参考にさせて頂きました。
http://www.suzukishoten-museum.com/