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悪役令嬢の十五年戦争  ~転生先は戦前の日本?! このままじゃあ破滅フラグを回避しても駄目じゃない!!~  作者: 扶桑かつみ
物語本編

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451 「二・二六事件(1)」

「時間だ。……征くぞ諸君!」


「「オウッ!」」


 日付が2月26日に変わって数時間後、雪の降りしきる夜明け前の東京市内の各所で、熱気に満ちた男達が動き始めた。


 決起したのは、第1師団歩兵第1連隊、同歩兵第3連隊を中心として、近衛歩兵第3連隊、野戦重砲兵第7連隊等の一部を加えた男達。

 同志だった安藤輝三、野中四郎を渡満で欠いた為、予想どおり歩兵第3連隊の参加者は彼らが想定していた半数近くに減ったが、参加総数は1000名を超えた。

 加えて海軍の同志達、市井の同志達が合計100名ほど存在し、時を同じくして行動を開始している筈だった。


 予定では、午前4時20分までに兵営の庭に集合。その後すぐに出立し、5時辺りから目標に対する行動に移る。

 主力の兵営から目的地までは、近いところで2キロ弱。徒歩だと、2、30分ほどしかかからない。だが、数百名の兵士を動かすので、兵営から出て行軍するとなると、兵営内での準備などでその少し前から準備が開始されていた。


 なお、歩兵第1連隊(歩1)は栗原安秀中尉、歩兵第3連隊(歩3)は村中孝次大尉が主に率いる。また、近衛歩兵第3連隊の一部部隊は、同連隊に属する中橋基明中尉が率いる。

 しかし、主要な者に兵を率いる中隊長が少ない為、あまり兵力を小分けにできなかった。


 第一目標は、歩1が首相官邸、歩3が警視庁。首相を暗殺し警察の機能を停止させる事で一時的な麻痺状態に追い込み、今後の行動を行いやすくする。

 また各連隊の小分けした隊が、ほぼ同時に斎藤内大臣私邸、鈴木侍従長官邸、宇垣一成内務大臣官邸へと向かう。高橋是清元大蔵大臣私邸は、位置的にも近い近衛3連隊から参加した中橋基明らが向かう。また、東京の外にいる牧野伸顕前・内大臣の元へも別働隊が向かう。


 海軍の青年将校と一部市井の運動家は、基本的には支援と少人数でも可能な目標への襲撃を計画。それに東京近辺に電力を供給する変電所数ヶ所を襲撃して一時的に電気を止め、明るくなるまでの相手側の対応を遅らせる。

 全ては最低限の犠牲で事を進め、不要な政情不安を起こさない為、そして皇軍相撃つ状況を避けるのが目的だった。


 鳳ホテルは、元々の計画では交渉の段階に入ってから接収予定だった。だが、鳳一族が滞在していると言う情報を受けて、初手で一隊を編成して隣接する鳳ビル共々、接収並びに鳳一族の軟禁に向かうことになった。


 第一目標を消化した後は、陸軍省並びに参謀本部、近隣に集中している各新聞社に向かい目的達成に向けて活動する。

 また同時に、日本の政治の中枢部一帯を素早く制圧下に置いて、施設を人質に取ると同時に、機能を一時的に麻痺させる。

 そして陸軍大臣官邸では、最も早いタイミングで到着して要望事項を伝え交渉を開始する。


 陛下の周りの奸臣を誅し、軍の志を同じくする将軍達を通じて要望を通させ、電撃的に昭和維新を完遂する事こそが、計画の肝だった。


 だが計画は、あくまで計画でしかない。

 彼らは緻密な計画を立てていたと考えていたが、様々なところで脇が甘かった。




「またかっ! 何故こんな時間に工事ばかりしているっ! 道を開けさせろ!」


 兵営を出て六本木から官庁街へと向かう途中、またも深夜の道路工事現場に出くわした。

 場所は、あえて見逃した三井の屋敷を通り抜けたあたり。隊列の後方は、まだ三井の屋敷の横を抜けていないだろう。


 あと数百メートル進めば、最優先目標の首相官邸だ。

 そんなところでの工事現場は、掘り返している場所が明るく照らされ、さらに各所に照明が灯されているので、その光を受けて彼らの姿も夜の暗闇から浮き彫りとなっていた。

 

「栗原中尉。相手は我々の通行の為に一時工事を中断して道を空けさせるなら、夜間演習の許可証並びに通行証を見せろと言って聞きません」


「なんだとっ! さっきも六本木で道を開けさせるのに5分以上かかったんだぞ。これ以上、時間を無駄にできるか。俺が行く!」


 下士官の声に、歌舞伎役者を彷彿とさせる優男が怒りも露わに答え、下士官を押しのけるようにあかりの方へと強い足取りで近づく。


「オイッ! 誰でもいい。道を開けろ! これは命令だっ!」


「勘弁してください、将校さん。こっちも夜の間に工事を進めないと、上に酷くどやされるだけじゃなく、進捗が遅いと給金まで減らされるんです」


「そんな事は知るかっ! この国家危急の時、全てに軍が優先するっ! 直ちに工事を中断して道を開けろっ!」


「さっきの兵隊さんにも言いましたが、こっちも苦労して許可をもらって工事してるんです。お願いですから、筋を通してくださいませんか。命令だとおっしゃるのでしたら、その命令書なり許可証をご提示下さい。それならこちらも言い訳がたつので、すぐにでもお通しできます」


 中尉に応対する現場の責任者らしい男は、大柄な筋肉質の体に似合わず平身低頭で応対する。しかし譲る気は無さそうだった。

 だから中尉は、再び激昂した。


「通せと言っている。どうしてもと言うなら、こちらにも考えがあるぞ!」


 そこまで言うと、男は「ヒイッ!」と小さく悲鳴をあげ、周りの者達に工事を中断して封鎖してある道を開けるよう指示する。

 その後また数分かけて、ようやく歩兵の隊列が通り抜けられる道が開かれる。そして兵士達は、工事現場の不必要なまでに明るい照明を受けつつ、通り抜けて行く。


 しかし通り抜けた場所から1キロ近い先の溜池の辺りには、また明かりが見えた。しかも通り抜けた場所より数段明るく、工事の規模も大きい事がその場からも分かるほどだった。


「チッ! また工事してやがる! 軍曹、数名を連れて先行し、道を開けさせておけ! 銃で脅しても構わん。急げ!」


「ハッ!」


 流石に三度目ともなると、彼らも要領良くなっていた。しかし、こんな事で要領良くなる時点で、何かがおかしい筈だった。だが、おかしいにしても、単に夜間工事をしているだけなので、感情の向けどころが無かった。


 それでも、雪の降る寒空の深夜に工事させられている様は、最初は同情すら感じたほどだった。しかし今は、こんな時、こんな時間に工事などしなくても良いだろうと言う、怒りに似た感情しか無かった。

 それでも、三度目はすぐに進めるだろうと、命令を出して少し安堵する。だがその安堵は、急ぎ戻ってきた兵士の顔を見るまでだった。


「通行不能だとっ! 首相官邸は目の前だぞっ!」


 そう、彼らが使いを出してまで工事を止めて通行しようとした場所は、首相官邸まで直線距離であと100メートルほどの溜池のT字路だ。

 六本木から北へと伸びて、向かって左には山王の鳳ホテルが、右は虎ノ門の交差点に通じる場所。つまりこの辺りの交通の要衝だ。そこが、工事によって通行できなくなっていた。


 慌てて中尉は工事現場へと駆けつけたが、確かに回り道をするより他なかった。

 今までは封鎖こそしていたが、道を少し掘り返したり舗装し直しているだけだった。だが目の前の道の真ん中、特に北側と東側のあたりに大きな黒い穴が空いていた。その脇も重機やトラック、工事資材などが所狭しと置かれ、少人数が一人ずつ通り抜けるならともかく、隊列を組んだ軍隊の通行は非常に難しく思えた。

 しかし、目標の目の前で、隊列を解くわけにはいかない。1列縦隊に変えつつ進むにしても、数百名を連れているのでそれなりに時間が必要となるだろう。


「こんな工事は聞いとらんぞっ!」


「へいっ。手違いで、昨日夕方になって工事を知らせる立て看板を設置しやした。誠に済まんこってす。ですが、許可の方は下りておりますんで、勘弁のほどを」


 ひときわ大きな筋肉質の男が、平身低頭で弁明する。頭を下げているのに、栗原中尉よりまだ視線が上だ。


「それは分かった。だが何故道に大穴が空いている。朝になったら困るだろ!」


 どこか見当違いの指摘をしている自覚が中尉にもあったが、言わずにはおられなかった。


「外堀通り、この東西に延びる方の道の下で、地下鉄工事をしているのはご存知で? へえ、その工事に合わせて色々と夜の間に、皆さまに迷惑かかんねいようにと工事をしておるんです。

 なに、朝までには鉄板で穴は塞ぎますんで、通行はできるようになりやす」


 よく見れば北の方、彼らが向かいたい官邸の方に穴が空いているが、そこは市電の線路からは外れているから、確かに鉄板を置けば日中の通行に妨げはなさそうだった。

 そして視線を右側、虎ノ門方面に向けると、虎ノ門の辺りとその手前、彼らが首相官邸へと突入する最後の道の辺りも工事していた。

 どう考えても、このまま最短距離で首相官邸に向かうのは無理そうだった。


「わ、我々は、この道を進まねばならんのだ! 朝まで待てるかっ!」


「そりゃあ、済まねえこってす。ですがご覧の有様ですので、申し訳ないですが迂回を頼んます。この通り」


 空いた穴を相手に偽りの強権を通せる筈もなく、大きく肩を落とすと迂回する事にした。しかし、ざっと見たところ、東西に走る道、正確には北西から南西にかけて伸びる道の各所に、工事の明かりが遠望できた。

 当然と言うべきか、悪い予感が働く。いや、この場合は予測できた。


「おい、ドカタ。最短で首相官邸前を通るには、どこを進めばいいか分かるか?」


「首相官邸前ですかい? この数で?」


 そう返して、少しだけ中尉の後ろに4列縦隊並ぶ兵隊の列を見る。

 中尉の方は、そのドカタと呼んだ男に鷹揚に頷く。


「そうですなあ。少人数なら、ここをなんとか通れるようにしやすし、小さな道を通ればいける道も近くにありやす。だがこの有様じゃあ、随分迂回して頂く事になりやすね。

 ホテルの向こうの山王の神社の境内を抜けるって手もありやすが、少人数ならともかくこの人数では隊列も変えないといけねえし、そもそもお許しが必要では?

 見ての通り、虎ノ門の交差点のあたりも似た工事をしておりやす。道を開けさせるだけでもかなりの骨なんで、お急ぎでしたら、いっそ日比谷公園の方まで出るのをお勧めしやす」


「じ、神社の西の方は?」


「鳳ビルの前は車両置き場なだけですが、赤坂見附の交差点も似たようなもんで。へぇ」


 赤坂見附も簡単に通れないという事は、そちら方面から進んでいた者達も、まだ陸軍大臣官邸に到着していない可能性があった。下手をしたら、斎藤内大臣私邸、鈴木侍従長官邸に向かう隊も、道路工事に出くわしているかもしれなかった。


「もういいっ!」


 そう言ってドカタの言葉を遮り、周囲を見渡す。工事現場の先、100メートルほどの先には、高低差の関係で首相官邸敷地の外周の坂が見えているというのに、とてもではないが短時間で辿り着けそうにはなかった。

 時間は既に5時を回り、15分になろうとしていた。周りは、工事現場以外は弱い街灯が点々と灯されている程度。

 まだ夜が明けるまで1時間以上あるとはいえ、時間が勝負だった。

 そうした焦りで周りを見ていた中尉だったが、その時変化に気づいた。

 工事現場以外の明かりが、ほぼ一斉に消えたのだ。


何かしらの東京中心部(永田町界隈から青山霊園あたりまで)の地図を見ながらの方が、分かりやすいかも。

とはいえ、今とは道や区割りが少し違うので、逆に混乱するのかもしれません。

掲載している「1936年帝都中心南部の地図」も、道、区割りが21世紀のものなので、当時と違っています。


事件当日は10話くらい続きます。

三人称で進み、主人公はしばらく出てきません(汗)

__________________


決起:

旧漢字だと「蹶起」になるが、決起で統一する。



総勢1000名以上:

史実は約1400名。人望のある安藤輝三が参加していないので、歩兵第三連隊からの参加者がほぼ半減という想定。

また、渡満している野中四郎の代わりに、軍を追われていない村中孝次が部隊を率いている。



大きな黒い穴が空いていた:

地下鉄銀座線の初期の頃の工事は、上から穴を掘ってそこに鉄筋コンクリートの建物のようにトンネルを作る形で行われた。

戦前は、地下鉄工事で道路に大きな穴が空いていても、疑う者はいないだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] あー大きな穴が開いてるのか、 福岡の陥没事故みたく、一週間ぐらい?は、 掛かるな(笑)。 クーデター辞めたら?
[一言] 列島改造中であちこち工事しているのが日常風景だったのでしょうね。これだけ一斉に夜間工事したら住民の苦情がすごそうですが、夜が明けてみたらそれどころではないんでしょうね。
[一言] 己等の大義に酔っている将校が、【冷静な判断】なんて出来るはずもない 将校が冷静に状況を見れなくなったらオシマイよ
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