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024 「二度目の誕生日会」

 私の5回目の誕生日がやってきた。と言っても、私にとっては実質2回目だ。

 そして今回は、前回のようなお花見もどきじゃない。


「レーコちゃん、おたんじょーびおめでとー!」


 年齢の近い一族の子供達4人が、私の誕生日を祝ってくれる。

 部屋にはメイドの麻里を始めとしたメイドも数名。部屋には、私の執事となった時田もいる。

 昼間なので私の父となった祖父の麒一郎は軍務で無理だが、曽祖父の蒼一郎は、途中で顔を出してくれる予定だ。


 こうしてみんなが、私の前世の記憶のような誕生日を祝ってくれるのは、この一年間の私の努力とみんなの賛同のおかげだ。

 玄二叔父さんは無理だったが、私のお兄様である龍也叔父さんは私を招待して二人の誕生日会を自分の家で開催までしてくれた。

 玄二叔父さんの子供二人も、龍也叔父さんは招待してくれた。

 二人の誕生日会については、勉強会の後のおやつの時にそれぞれこの屋敷で行なっている。


 そして今年からは、去年は勉強会に参加できなかった1歳年下の2人も合流している。これで、とりあえずだが全員集合だ。残る攻略対象二人は最低でも小学校以後の合流なので、今後のお楽しみという事になる。

 そして4人に囲まれた私の心象風景は、間違いなく私を中心としたハーレムだ。


 私の最大の癒しの瑤子ちゃん。今年4歳だが、もう何歳だろうがいつでも天使だ。

 そして兄の龍一くんは、この1年大した変化はない。脳筋というよりガキ大将コースを進んでいる気がする。小学校に入ると磨きがかかる事だろう。

 玄太郎くんは、妙に私にライバル心を燃やしているが、ツンデレ&インテリなのはこの一年変わらずじまいだ。これからも変わらないのだろう。

 ただ、ゲーム主人公の月見里やまなし姫乃ひめのが現れたら、彼女にツンデレしてあげて欲しいところだ。私は悪役令嬢ではあるが、ゲーム自体は大好きだったからだ。

 そしてどん尻は虎士郎くんだが、幼いせいか中性的でフワフワした髪型もあって本当に天使のようだ。



「ねえ、レーコちゃん。お祝いのお歌がどうして英語のお歌なの?」


 その天使の虎士郎くんが天真爛漫な笑顔で問いかけてくる。

 だから私は当然の答えを返す。


「アメリカのお歌だからよ」


「フーン。レーコちゃんは、英語のお歌も知ってるなんて、すごいね」


「そうかもね。けどこれでコジローくんも覚えたでしょ」


「そうだね。ねえ、他に英語のお歌知らない? もっと覚えたい」


「そうねえ、じゃあこれはどう?」


 そう言って無難に、21世紀の幼稚園児なら誰でも知ってるレベルの『キラキラ星』を歌うとブーイングされた。


「それならボクも知ってるー。もっと他にー」


 意外に手強かった。さすが後の天才音楽家。

 とはいえ、私の貧弱なレパートリーだと、覚えている英語の歌詞の歌は限られている。洋楽は嫌いじゃないから、もっとカラオケ行っとけば良かった。

 もっとも私の洋楽の守備範囲は、ほとんどロックだったりする。

 学生の頃に覚えたキング・オブ・ポップの歌を踊り付きで歌ったりしたら、音楽界に革命を起こすか、あまりにも時代にそぐわないので変人扱いされて終わりだろう。

 そして流石に、そんなカードは切れない。


 そうして前世記憶を悪役令嬢頭脳でスキャンした結果、一つの歌がヒットしたので、それを歌って聴かせる。

 だがこれもダメだった。


「それも知ってるー。教会で聞いたよー」


 と言って自分も歌い出した。『アメイジング・グレイス』を。

 そして虎士郎くんの方が私よりもずっと上手く、少なからずショックだ。


(ならば、禁断の未来ソングだ)


 下らない対抗心を燃やして歌ったのは『カントリー・ロード』。私の前世にとって生まれる前に出来た歌の筈なので、ロックよりは受け入れられやすいだろう。

 それでもこの時代だと、モダンというか前衛的というか、規格外というか、やっぱりあり得ない気がした。

 歌いながらも戦前の歌じゃないのではと思ったが、なんとか歌い切ると大絶賛だ。


「すごい、すごい、さすがレーコちゃん!」


 そうしてすぐにも自分で歌い始める。


(マジ天才すぎでしょ)


 私が虎士郎くんの歌に聴き惚れていると、他の遊びをしていた3人も近づいてくる。いや、さっきから聞くとはなしに聞いていたのだが、虎士郎くんがうま過ぎるので、自然と引き寄せられたんだろう。


「レーコちゃん、お歌うまーい!」


「おっと! 危ないよー」


 瑤子ちゃんはそのまま私にダイブ。

 勢いで倒れこむが問題はないので、私もそのまま抱き返す。


「ごめんね、レーコちゃん。いたかった?」


「全然大丈夫。ヨーコちゃんは良い子ね。ご褒美に、おねーちゃんって呼んでいいよー」


「うん。おねーちゃん。大好き!」


 そこで『チュッ』と、私的には心の効果音付きでほっぺにキスされる。

 もっとも、今回が初めてじゃない。

 数えるのもヤメたくらいで、もはや挨拶のようなもの。飛び込まれるのも、倒れこむのも、別の機会に練習すら積んであるので危険はない。

 しかし最初の時は、思わず物理的に昇天しそうになったのは内緒だ。


「いつまでそうしてるんだ!」


「まったく」


 幼女二人で抱き合っていると、両脇の上の方から残り二人の声が聞こえてくるが、そんなもので二人を引き裂く事はできない。


「いつまでもよー。ねーっ!」


「ねーっ!」


(嗚呼、幸せ。何よりの誕生日プレゼントね)


 顔がにやけてくるのがとめられない。

 そうしていると、龍一くんが私を瑤子ちゃんを引き剥がしにきたので、その手を掴んで倒して、そのまま一緒に抱き込んでしまう。


「う、うわ、やめろ。助けろゲンタロー!」


「えっ、あ、うん」


 玄太郎くんは、こういう突発事態に少し弱い。理詰めなインテリキャラ故だろう。

 そして別方向から、もう一つの混乱の元凶が飛び込んでくる。


「僕らもーっ! ホラっ、おにーちゃんもー!」


 歌い終わるやいなや、虎士郎くんが玄太郎くんの手を引っ張って、そのまま3人が団子になっているところに、2人まとめて飛び込んでくる。


「!」

「待って!」

「きゃーっ!」


 流石に大惨事を予感したが、男子どもは幼児でもチートキャラぶりを見せつける。

 ちゃんと受け止めたり、私達に被害が及ばないように倒れこんだりしてきた。計算づくなら、虎士郎くんは天使というより小悪魔だ。

 いやまあ、男の子の小悪魔とか、ご褒美すぎるんですけど。


 しかもそうして出来上がった状態は、まさにパラダイスだ。

 私は自分の誕生日という開放感と特権意識も手伝って、そのまま伸ばせるだけ腕を伸ばして、4人を抱きかかえる。

 それでも流石に無理があるが、4人も遊びの延長と捉えてくれているのか、私に応えてくれる。


「みんなー、私の誕生日を祝ってくれて、本当にありがとー。これからもずっとよろしくねーっ!!」


「うん!」

「もちろんだよ!」

「当然だ」


「……ちょっと考えさせてくれ」


(いやいや玄太郎、空気読めよ。私の誕生日だぞ。まあ、今日は私の誕生日だから許してあげるけど)


お誕生日のうた(ハッピーバースデートゥーユー)

この頃(1920年前後)にアメリカで作詞された。

「Good Morning to All」という歌の替え歌。日本語版もある。



きらきら星

日本で紹介されたのは1914年。



カントリー・ロード

「故郷へかえりたい」1971年リリース。カントリー・ポップ。

残念ながら戦前の歌じゃ無かった。


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