「我々の業界ではご褒美です」どこまでそれが通じるのか
後ちょっとだったんだけどなあ...
スパッ、と離れる腕。しかし僕の体からは血が出ない。すでに血管の縫合をミ=ゴが開始しているからだ。
離れた腕、そこから飛び散る血液。しかしその全てを動く本が回収していく。
その本に血液が染み込み、さらに腕を飲み込んでいく。まるで御伽噺に出てくる人喰い本みたいだ。
すると、ショゴスの体に変化が起こる。本の表紙が肌色に、そして液状化を起こして形が崩れ、かと思うとまるで透明な型に流し込まれるが如く形が変わっていく。
液状化したショゴス、その半分がその型に収まり、ついにはその形が現れる。
まあ、僕の左腕だけどね、うん。
「ショゴス。それをこちらに渡せ。縫合する」
「わかりまシた」
半分くらいのサイズになったショゴス(それでも僕よりはでかい)が僕の左腕をミ=ゴに渡す。
...腕の断面ってこうなっているんだな。なんか、もっとグロい感じを想像していたよ。
「ふむ...よくできた複製だ。これなら拒絶反応も少ないだろう」
そしてそれを受け取ったミ=ゴが僕の止血された腕に縫い合わせていく。
腕、と言っても大体肩よりもちょっとしたあたりから切断されているため、頭を動かせば若干見える。
まあミ=ゴの手捌きは全く見えないけども。しょうがないね、速すぎるもん。
あとやっぱり痛みがない。神経の縫合の時とか流石に目を瞑ったにも関わらず、若干気持ち悪い感じがしただけというね。もう...なんなんでしょう、これ。神業と言っても過言ではないけど、どちらかというと魔法の方が近いような気がする。
ミ=ゴに言ったら違うって言われそうだけども。
============================================
「......ふう。仮ではあるが。これで使えるはずだ。若干違和感があると思うが。手の扱いには困らないだろう」
「おけい、ちょっと待ってね...」
...だいぶ不思議な感覚だ。縫合が始まった時には全く感覚がなかった左手だけど、今は、まあなんか変な感じではあるものの左手がしっかり存在している。
親指、人差し指、中指、薬指、小指と順に折り込み、今度はその逆を行うけど...うん、問題なしだ。
あとは大事な触覚だけど、よしよし、ちゃんと右手が触れた部分の感覚がある。これなら肌触りも理解できるだろう。
(お待たせした。シュド=メル、大体15mほど地下に潜ってくれないかな。あ、他のクトーニアンたちはもしかするとシュド=メルの<魔力解放>で押しつぶされちゃうかもしれないから、避難しておいた方がいいかも)
(あいわかった)
そう答えると、シュド=メルはすぐさま部下と共に潜っていく。
(あ、卵はどうする?)
(そこに置いておけ。何、崩落などで壊れるほどやわじゃない)
まあ、そりゃね。水も放射線も通らない超頑丈な物質だからね。
んじゃまあ卵は放置で...
(そうだ、僕の腕が通れるくらいの穴で)
(掘っているから少し待て)
うん、シュド=メルはやっぱ頭いいな。有能と言わざるを得ない。
これは万能か...と思えるがそうじゃない。
<魔力解放>したところでね、ただ巨体になるだけって考えると弱く見える。実際は地震とか起こせるようにはなるんだろうけど...<ダンジョン>内、特に地下とかでしかできないし、危ないし、何より範囲がデカすぎるせいで個人に対して行えない。
あと<ダンジョンボス>に対してもほぼ無力。めちゃくちゃ強そうなのに攻撃面だとあまり活躍しないんだよな...
まあその代わりの利便性と対地下制圧能力だからね。地面の中に潜る敵とかいたら、そいつらはもう絶好の餌よ。
(到達したぞ...少し時間はかかったがな。部下の避難もすでに終わっている)
(わかった)
ようし、準備完了。んじゃまあ...
「やりますか!ショゴス、思いっきり伸ばして!」
「わカリました」
手がギリギリ入るサイズの穴、それに手を突っ込む。するとと急激に腕が伸びていく。
なるほどねえ、触手が伸びていく感触ってこんな感じなのか。若干気持ち悪いけど、まあ全然いける。
そしてこの間に<魔力>をかき集めておく。<魔力解放>にはかなりの<魔力>を有するし、それに...
...ショゴスの作ってくれた腕、しかも15mという長さに<魔力>を通す。こんな経験、そもそもしたことあるやつがこの世界にいるわけもなく。確実に世界初体験となる行動に、胸が高まっていく。だからまあ、かなり過剰に<魔力>が集まっていく。
大体数十秒後、手の先に何かが触れる。おそらくシュド=メルだろう。ショゴスもそれを感知したのか、腕の伸びが止まる。
「...今だ!」
<魔力>を腕というホースに流し込む。すごい勢いで流れていくそれは、瞬く間に左手の元へ到達する。
だが、到達した量は意外と少ない。溜めた量の4割が持ってかれているっぽいかな?
「やっパり吸収してしまいますね...すミませんマスター、これでも可能な限りしないように努力しているのですガ」
「大丈夫大丈夫!むしろ吸われている感覚を楽しんでいる自分がいるからね!」
「楽しいの?」
「楽しいし気持ちいいよ!」
かなりかき集めたおかげで全然余裕あるからね。<魔力解放>は行える。
しかも身体的にも興奮を抑えられないながらもメェーちゃんとある程度会話できるほど余裕がある。
この調子のまま、さっさと始めるか!
(それじゃあいきまーす)
一応シュド=メルに連絡して、と。
「<魔力解放>!」
瞬間、左手の押しつぶされる感触。
いやまあなんとか触れることには成功した...のかな?また後でじっくり舐め回すように堪能するからそれはいいとして。
「これはなかなか...気持ち悪い、かな?」
ショゴスの柔らかさが若干残っていたからなのか、ぐしゃりというよりぐにゅりという感じ。まあ考えるほどでもないけど。
「その感じ。成功したようだな」
「多分ね。手が押しつぶされて...うわあ!?」
穴から手を引っこ抜くと、そこには干からびた僕の腕があった。いや、厳密には僕の腕を模倣していたショゴスが、か。
シワシワで、さっきまでの潤いは一体何処にという感じ。
「ショゴス!?だ、大丈夫!?」
「大丈夫です。マスターこそ大丈夫ですか?」
「僕にはなんとも...よかったあ...」
胸を撫で下ろす。どうやら本体とすでに分離していたらしく、模倣していた分は死んでしまったけど本体は無事ということらしい。
いや、ほんと無事でよかった。はっきり言ってショゴスがいなかったら今の僕はいないからね、ちゃんと大事に扱わなければ。
(一体何があればショゴスを丁寧に扱おうとするのだ...)
(あ、<魔力解放>はどんな感じですか?)
シュド=メルからの通信。それを聞き安堵を交えた質問を行う。
(特に悪いところはないな。むしろ好調で、部下も喜んでいる)
(え、部下も?)
おかしいな...クトーニアンたちには<魔力解放>を行っていないはずなんだが。
触れたのはシュド=メルだけだろうし、クトーニアンに触れていたとしたらシュド=メルは<魔力解放>できていないことになるけど...
(ふむ...どうやら、我に<魔力解放>とやらを行うと、連鎖反応で部下にも<魔力解放>が行われるらしいな)
その時、地面が崩れた。
瞬間的に足場がなくなり、なすすべもなく落下...する前に半透明の床に着地する。
「っあ!痛った......急に何...!?」
下を見た瞬間、そこには大口を開けた何かがいた。
その口のサイズは計り知れないほど大きく深く。
そこから飛び出ている触手は恐怖心を煽りながら嫌悪感を沸き立たせる...
と、いうのが本来起こるべき事象であろうが、僕の場合そうじゃない。
「うおっ!キモっ!これがシュド=メルかあ!!」
恐怖ではなく狂喜に染まり、嫌悪なぞなくむしろ嬉しいし楽しい。
まあ、
(そ、そこまで喜ばれたのは初めてだな...あ、ありがとう?)
「「ええ...」」
若干引き気味な神話生物はいるけどね。
引いているのはミ=ゴとバーストです。




