成長の奇跡① ~変化~
……そこにあるのは、いつものご飯ではなかった。
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「■■■■■■■■■」
いつもと同じ声で目覚める。最も、昨日はまあまあ遅い時間に寝た(と思われる)からなのか、まだ少し眠い。
でも、いつもの声が聞こえて目覚めることが習慣になっているため、少し眠くても起きることができる。習慣万歳。
母親は僕が起きたことを確認すると、この部屋にあるタンス的ななにかから色々と取り出し始めた。いわゆる朝ごはんの準備だ。
思い返すと、一番最初のころは思いっきりしゃぶりつくことが嫌だったが1年たてば否が応でもなれてきた。
というか、味がとても良くて………と、そろそろ準備が終わったかな。
「■■■■■■■■■」
理解不能の言語ではあるが、少なくとも僕を呼んでいることはわかる。
「■■■■■■■」
声になってない声をだして応える。これも習慣になっている。だから次は………
「■■■■■■■■■」
応えたのを聞いて母親は僕がいるベッドに近づくと、そのまま僕を抱きあげてソファみたいな椅子に座った。
さあ次はその家庭的な服を少しだけずらして………と思っていた。
「■■■■■■■■■■■」
おもむろに何かをもつ母親。持ったのは…………スプーン。しかし、大人が使うにはものすごく小さいものだった。
そして、僕からだと見えない場所から………皿。それも少し深いやつ。
ここまで来ると流石に察することができる。
離乳食。と言うやつだ。
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それは、いつもと違うご飯だった。そりゃ離乳食だし違うのは当たり前なんだけどさ。
その見た目は結構なもので、白くてヌチャヌチャしてそうな見た目だった。
いや、これを食べたい人はなかなかいない。というか食べたくない。
そんな考えを知らない母親は、その小さなスプーンで離乳食をすくい、僕の口元に持っていく。
いや、食べたくないんだって。という意思も通じずどんどん近づいていく。
少しでも抵抗しようと動く。が、そんなささやかな抵抗も通じず……
パクリ!と口の中に入ってしまった。
……はっきりいってかみたくない。しかし、見上げると母親のキラキラとした眼差し。どうやら反応が気になっているらしい。
仕方ない。ここは腹をくくって母親の期待に応えよう。
ゆっくりと噛む。まだまだ赤ちゃんだから歯も発達してないし、実際は噛んでなさそうだけど。
そして……飲み込む。
感想、というものはない。味は確実に今までのほうが美味しい。何だったらこの離乳食は味がしない。もはや料理とはいえないものだ。
少しでいいから5つある味覚のどれかを刺激するなにかがほしい。まあ離乳食は求めてはいけないものかもしれないけどね。
さて、どう反応しようか。反応に困るものだったからリアクションが取れない。と思っていると、
「■■■■■■■」
ちゃんと食べてくれることに安心したのか、母親はもう一度スプーンですくい、僕の口元に持ってくる。
そして僕は口元に運ばれたそれを食べる。
美味しいか美味しくないかで言うなら全く美味しくない。が、食べるしか選択肢がないので食べる。
食べ終わると、母親はまたすくってもってくる。そして僕はそれを食べる。
それを数回繰り返す。と、いつの間にかなくなっていた。食事の時間はどんなものでも早くすぎるように感じる。
「■■■■■■■■■」
全部食べ終わったことを確認すると、母親は僕をベットに戻し片付けを始めた。
いつもならお腹がいっぱいになって眠くなっているからこのまま寝るのだけど、今日はなぜか眠くなかった。
兄の方を見ると、どうやらまだ眠っているみたいだった。ただ、よく見ると口元に離乳食の跡だと思われるものがくっついていた。
兄はどうやら早めに起きていて、すでにご飯を食べていたらしい。そうわかると興味がなくなった。
………何もやることがない。いや、赤ちゃんだし当たり前だけども。
しょうがない、もう見飽きた片付けでも見てるか………と体を動かして見ていたとき、不思議なことが起こった。
そして僕はようやく気づく。僕はもう、前世の知識だけではどうにもならない世界に生まれてるのだと。
とりあえず、ここまでがチュートリアルになりますかね