たった5体のみ
もっと1話の長さを長くしたいなあ...
ゴゴゴゴゴ...
大きな音を空間に響かせながら、歪んだ扉がゆっくりと開いていく。
「...対核爆発用ドアがここまで壊れるとは。<ダンジョンボス>とやらの力。みくびっていたようだ」
本来なら音もなく、しかも迅速に開くらしいこのドアにはもはやそんな面影はない。なんなら蹴破ったほうが早いまであるレベルの遅さを待つこと約2分。
「とりあえず、通れるくらいまでは開いたかな、っと!」
隙間を無理やり通る。いつ魔獣に襲われるかわからないからね、さっさと帰らなければ。
そう、ここは<ダンジョン>。確かに<ダンジョンボス>はメェーちゃんの<魔力解放>の影響で死んだみたいだけど、校長が言ってた崩壊ってやつがまだ起こっていないように見える現状、まだ魔獣に対する警戒はしておかなくてはならない。
「では我も。ふっ」
ミ=ゴが体を歪ませる。そして細くなった状態でドアの隙間を通る、のだが。
君たちのサイズは大体2m。僕はまだ小さいから通れるけど...
「そういう狭い場所も通れるんだね...」
「我々の体は柔らかいからな。人間のように硬くはない。さすがに頭部が通らない隙間は通れないがな」
「猫かな?」
そんなことを話しつつ周囲の確認。
結構しっかりとした<ダンジョン>なのだろう。不気味な紋様が何らかの石でできている壁やら床やら天井やらに彫られており、しかも今いる空間である通路もかなり広い。
今いる生き物5体が横に並んでもなおショゴスの2倍以上の隙間がある、といえばその広さがわかりやすいか。
「さて、こんなことをしている場合じゃないね」
「全くもってその通りです。ここから出るために今ここにいるのでしょう?」
「そう。マナお姉様達も待っているだろうしね」
通路を進み始める。広々としているおかげで周囲の警戒はしやすい。
まあショゴスに広がってもらうサーチもしているけどね。こういうのは2重3重にしておいた方がいい。
時折出てくる小部屋は全て無視。帰るためにここにいるのだから、寄り道はしない。
というか迷路みたいになっているので寄り道なんてする余裕がない。
「しかし。本当に魔獣がいないな。我がこの<ダンジョン>に入った時は相当な数の<コボルド>がいたはずだが」
「さすメェー、ってとこなあ、これ」
「?」
当の本人は頭の上で座って休んでいるんですけどね。
「だとしても。さすがにこれは異常ではないだろうか。<ダンジョンボス>というものが何なのか。詳しくは知らないがそれを倒しただけでこうなるのか」
「うーん、森海王を倒した時の帰り道は確かに安全だったっけか」
「あの時は全ク魔獣が出現しませんでしたね」
本当に安全か、と言われると謎だけど...
「ま、いいか。とりあえずは帰ることが優先で...お」
足を止める一同、そこには巨大な扉の残骸。
僕の5倍くらいの大きさだが、すでにバラバラになっている。結構雑に斬られたのか、切断面がざらざらになっている。
また切断面以外の場所もズタズタにされている。鬱憤晴らしでもしてたのだろうか。
「武器自体の質も相当悪い。腕もだ。だが恐らくここにいたのは...」
「<ダンジョンボス>でしょうね。これだから犬は...」
犬への熱い風評被害。ダメですよ、犬だって可愛いんですから。
でまあそれは置いといて。
「部屋の中には...誰もいないね」
そう、既に誰もいない。本来ならここに<ダンジョンボス>が居るはずだけど、まあこの程度は森海王の時もそうだったし。
そんでもって、ミ=ゴが言うには<ダンジョンボス>は既に倒されている。まあ確実にメェーちゃんのおかげなのは言うまでもないけど。
「あ、そういえば...」
部屋の奥を見る。そこには明らかに怪しいドア。
「どうかしたか...ふむ。あのドアになにかあるのか?」
「ああ。あの奥に宝物庫があってね、もしかするとそこに出口があるかも」
「確証は?」
「えっとね...」
確かドラゴンとの戦闘があったあの夢、あの時は宝物庫の奥に出口があったんだよね。
で、森海王との戦闘があったあの<ダンジョン>では特定のものを入口に持ってくることで帰れた。
ということは、つまり。
「確証、と言えるものはないんだけどね。今までに行った<ダンジョン>と思われる場所では毎回そこに脱出に必要なものがあったんだよ」
「経験則。というやつか」
「まあ何もなかったとしてもなんかしらはあるはずだし、行ってみて損は無いはずだよ」
「ならば行くほうがいいな」
「おーけい、向かおうか」
参謀から許可をもらい、宝物庫に足を向ける。
ボス部屋の壁などの装飾は今までの通路とは違い、全くない。むしろシンプルすぎて華美に見える石の空間。
そしてボス部屋はやっぱり広い。はっきりいって広すぎる、とはいっても学園などでは<空間拡張>という魔法を使っているらしいからね、<ダンジョン>でこういうことがあっても不思議ではない。
大体十分くらい歩いて、ようやく着くという広さはさすがにどうかと思うけども、ね。
そんなことを考えつつ、僕はドアを開ける。
瞬間、後ろの方で轟音。
「!?」
即座に振り向くと、なんとバラバラになっていたはずの扉が閉まっている。
すぐに宝物庫への扉を開けようとするが、開かない。
「閉じ込められた...!?」
キィィィィィィ...
異音。それがこの広い空間で響き、耳を刺していく。
あたりを見渡しその異音の発生源を探すと、何とそれは部屋の中央。
「...ああいうことも。あり得るということか」
中央で何かキラキラとしたものが集まっていく。
そしてそれはこの空間中の<魔力>であると直感が告げる。
「...前言撤回だ。やっぱりこの部屋に来ない方がよかった」
集まっていく魔力が次第に形を整えていく。人型だ。
...今、ここで妨害か何かを行えれば、おそらくこの場で起きる最悪の事態を避けることができるのだろう。
だが。今この場でそれを妨害することのできる生物はいない。誰も、妨害方法を知らない。
人型を形成していく魔力が、次第に顔の形成、そして武器の構成に入る。
一言で表すならば、それは犬。しかもさっき何度も見たやつ。
ゴワゴワの毛と隻眼なのか片目についている眼帯がその威厳と強さを物語る。
虹彩のない真っ赤な目と、大きな手に握られた2本の太刀が僕たちを威圧する。
その威圧は、まさに打ち付ける風の如く僕たちに襲いかかってきて。
「グオオオオオオオオオオ!!」
威圧の叫びに耐え、目を開くとそこにはステータス画面。
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>コボルド・オブ・キングウォーリア<
207103/207103
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ボス。それが僕たちの目の前に現れた。
さて、ボス戦です




