コボル"ド"
最近不幸なことが続くんです...クトゥルフ神話に関わっているからですかね?
キィン!カァン!
剣が振るわれ色々なものにぶつかることによって生じる金属音がここら一体を包み込む。もちろんかなりの速度でこちらも討伐しているため、この数十分でかなりの道のりを進んだはず。だが。
「全っ然<コボルド>減らないんだけど!?」
「流石にここまでとは思わなかったが。何かがこの魔獣を生み出しているのかもしれん」
「あ、ボスがそういう能力を...って、ミ=ゴは何やってるの!こんな状況で!」
「何って、この魔獣のサンプルを収集しているだけだが」
「今やること!?」
「今戦闘を行なっている者達が強すぎて暇なのだ。それくらいしてもいいだろう」
「一応ちゃんと護衛という仕事があるんですけどね!」
現在、戦闘はショゴスとメェーちゃん、バーストが行なっている。というのも、そもそもミ=ゴはどちらかというと非戦闘員。やろうと思えば勇者と戦った時のようにできるかもだけど、あまりああいうことは得意ではないらしい。
だから今回は護衛という役割にしたんだけどね、一応。なんたって僕も非戦闘員だし、<魔力撃>なんていう威力の強すぎるものを使ったらここが崩壊するかもだし。
「まあでもメェーちゃん達だけでなんとかなっているし、ボス戦までは大丈夫かな」
「ところで」
「?」
ミ=ゴが急に質問をしてくる。一体何なのだろうか。
「お前...マリア・ヒルドはなぜシュブ=ニグラス様をメェーちゃんという俗っぽい名称で呼ぶ?」
なるほどね。まあ確かに不思議だろう、僕がメェーちゃんのことをメェーちゃんと呼ぶのが。
...でもよく考えたら、なんで僕はメェーちゃんと呼んでもいいししかもマナお姉様とエリカ先輩までいいんだろう。
「うーん、最初に召喚した時に仲良くなるためにそう名付けたらなぜかそれでよくなった...?」
「そもそも神に名付けを行う時点で何かおかしいと思うのだが」
それはそう。だけども愛称を創ってしまったことに変わらないし...
「まあ、そんなことはどうでもいいじゃないか。メェーちゃんはメェーちゃんだし、多分これ以上考えると何かやばいことになりそうな気がする」
「そうだな。神に意味不明な何かがあったとして。それを知ってしまったらこちらが死ぬだけだ」
神話生物に深入りしたら自滅する、これ万国共通認識。
こういうのはそういうものなんだなって思っとけばいいんだよね。
閑話休題。
現状、戦線は前進しつつある。が、魔獣の数は減らない。むしろ増えて戦力が強くなっている。
そのため毎分の進む距離が短くなっている。もっと速度を上げないとまずいことにはなりそうなんだけど、そのためにはこちらの戦力を増やさなくてはならない。
メェーちゃんとバースト。もちろんとんでもないステータスの高さでゴリ押しているのだが、やはり体のサイズが問題になっている、とでも言えばいいのだろうか。
メェーちゃんは6歳児の僕が両腕で抱え込むサイズ、バーストは家猫と同等のサイズ。つまるところ小さいのだが、これが引き起こす事象は言うまでもなく。
単純に、一回の攻撃が複数体に対して当たらないのだ。衝撃波などは当たるが、ちゃんとした攻撃は当たらない。対してショゴスは攻撃が複数の<コボルド>に当たり、しかもステータスの暴力によってほぼ一撃。
ここら辺が原因で今やばい状況なのだと思う。質が高いと言えども、数に勝てないということか。
じゃあ<魔力解放>...と言うわけにもいかない。バーストに対して行なった時にバーストが持っていた剣、あれはいわゆる片手直剣といわれるタイプのもの...で、あってるはず。それだとあまりにもここが狭すぎる。ただでさえショゴスがいて狭いのに味方に被害を出さずにここを進むことは困難だろう。ちなみにメェーちゃんは論外。
ショゴスも...まあおそらく強くなるというよりかはショゴス・ロードとかになりそう。あいつはあんま戦闘力高くないから却下。
「ミ=ゴは...<召喚獣>じゃないし、できないからなあ」
「?」
おっと、思考が口に出てしまった。失敬失敬。
だんだんと押され始める。いや、厳密には戦線の移動が停滞し始める。
結局のところ、相手の数による戦法にも最大値が存在する。空間...こと今いる廊下に関しては無限に広がっているわけではないからね。
だからこそ、おそらくこれ以上の悪化はない。そしてこれ以上の好転もない。何かしらのきっかけがなければ。
「いやあ、どうしようか」
「どうしようか。で終わらせるわけにはいかないがな」
うーん、やっぱり<魔力解放>を使わざるを得ないか?でもこの状況でできるのってショゴスくらいだろうし...
「何か。この状況を打開する方法があるのか?」
そうミ=ゴに言われる。
「いや、あるにはあるというか、でも本当にそれでうまくいくかわからない、むしろこっちに被害が来るかもというか...」
「教えろ。少なくともマリア・ヒルドよりも頭が回るからな」
「ん、わかった」
実際ミ=ゴの言っていることは正しいだろう。すぐに<魔力解放>についての僕の認識を伝える。これで何かできるとは思えないけども...
「...なるほど。だいたいわかった。ならばそれを行うこと。ひいてはシュブ=ニグラス様に行うのが適切ではないだろうか」
「理由は?」
即座に聞き返す。どう考えてもこっちの被害が大きいからだ。
するとミ=ゴは鎌で手前の粉々になった扉を指してこう言った。
「そこの部屋に頑丈な金庫がある。マリア・ヒルドの<インベントリ>の中身を入れていたものよりもずっと頑丈だ」
おお、そんなものがあったのか。
「でも下手したら生き埋めとかになるのでは?」
「ここの天井や壁は滅多なことでは崩れん。それに...」
「それに?」
「...いや、やはりなんでもない。まあ一回その<魔力解放>をやってみればわかると言うものだ」
「なるほど」
やってみなくちゃわからないか、なかなかにそそられる言葉じゃないか。
「ようし、メェーちゃん!」
「何!」
「<魔力解放>やってみるから、ちょっときて!」
「...!わかった!ショゴス、バースト、後はよろしく!」
「「!?!?」」
いや、まあうん、そーゆー反応になるよね普通。
でかいもん、本体。はっきり言って超でかい。しかも地球の大半を単独で殲滅できる生命体だからね。強力とかそういう比じゃない。
でもねえ...
「やっぱ一度、死ぬ前に見てみたいよねえ!!」
あらゆる恐怖よりも、あらゆる懸念よりも、好奇心が優った瞬間である。
魔力を集める。体内の魔力、この戦闘に入ってから一回も使わなかった魔力を、全て。
右手が震える。しかし放出はしない。左手で押さえてメェーちゃんを待つ。
最も、一瞬で来たのだけど。
「来たよ!」
「よし、<魔力解放>!」
もはや一片の迷いもなく、彼女に魔力を注ぎ込む。何も考えずに、ただひたすらに、全てを。
「...金庫の近くでやらなければ意味がないだろうに。だが...」
ミ=ゴがなんか言っている。何を言っているのだろうか。
瞬間、世界が真っ黒に染まる。
視界が真っ暗になった、ではない。文字通り、真っ黒に染まった。
実際、<コボルド>やショゴス、バーストとミ=ゴに自分自身は見えている。だがなぜかそれ以外が全て真っ黒なのだ。
まるで、それ以外が全て深淵になったかのように、周りから視線を感じるが如く。
そして不意にそれが元に戻る。視線が切られ、逆に誰にもみられなくなり。
目の前には、たった1人の女性。
まるでゴスロリ系の服を来たような人形。だがそのナイスバディは服すらも貫通して拝めゲフンゲフン。
とにかく、確かにそこにいたのはメェーちゃんであった。まあ最も。
どしん、と尻を床に落とす。今の自分の体力では、はっきり言ってもう動けないが。
「あら、もう終わり?まだまだ残っているでしょう?」
跳ねるような心臓の音、それが一瞬聞こえる。
いや、本当はずっとなっているのだろう。だがもう聞こえない。
理由?そんなものない。否、無いというのが理由か、または本当にないのか。
「ふ、ふふふふふふ」
思わず乾いた笑みがこぼれる。体は動く、つまり生きてる。
生きてるならば、彼女の姿だって見れるだろう。
「!あはははあはははははハハハはははアはぁははははァはあっはははハあハはははあはh」
狂ウ。笑う。それだけ。後はその目に姿を焼き付ける。
たとえ狂ッたとしても覚えておくため。絶対に。
命ナんて捨てたって構わない。その姿を焼き付けられるなら。
「...ああ、やっぱり新鮮な魔力は美味しい。ここまで待った甲斐はあったわねえ」
ああ、アア、ああ。
「でも、だからこそここで殺しちゃうのは惜しい...ねえ、そうは思わない?ミ=ゴ」
「■■■■■■■■■■■■■■■」
みると、そこニは朽ちて崩れるミ=ゴ。
幻覚?かもしれないし現実?かもしれない。
どちらとも正しいのだろう。どうせ僕たちは■■■■■■■■■■■■。
思考、停止。
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「あら、終わっちゃったのね」
「当たり前でしょう...しかし、まさかそのような姿で顕現するとは」
「そんなこと言われても、ねえ。これでも私、流石にナイルラトホテップほどじゃないけどたくさんの化身を持っていると自負しているのだけど?」
「そもそも2つしか持っていない者に言わないでください」
「あらあら、そういえばそうだったわねえ」
「全く...だいたい、なぜあなたは人間に召喚されたのですか。あなたのことです、拒否なんて容易いでしょう」
「そういうあなたはどうなのよ。あなただって旧神の一角でしょう?」
「私はただただこの者に興味が引かれただけです」
「快楽犯じゃない」
「あの混沌クソ生物と同じにしないでください、私はあくまでも彼女の味方です。あいつみたいに、中立かと思えば敵対していると思ったら味方みたいな意味不明とは違う」
「ボロクソ言うじゃないの...まあそれに関しては私も同意見だけど」
「で?それで貴方はなぜあの人間の味方を...」
「マリアよ、旧神なんだからそれくらい間違えない方がいいわ」
「そもそも貴方だって外神の1柱でしょうが」
「だから、よ」
「は?」
「私があの子を気に入っているのは確かに可愛いし美味しそうだし狂っているし面白いし何より尽くしてくれるからだけど...ねえ。一番の理由はやっぱり■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
「...」
「信じるかしら?」
「...信じる以外の道がありますか」
「ないわねえ。信じなかったらここで食べちゃうし」
「でしょうね...これはアレですね、言ったらまずいやつでしょう?」
「大当たり!多分■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
「............とんでもないものに巻き込まれてしまいましたか」
「そうよ。そして彼女は確実に全ての神話生物を呼び出すでしょうね」
「前からわからなかったのですが」
「?」
「彼女の心を染めている、その神話生物というのはなんですか?」
「ああ。確か愛のなんとかって人が私たちを発見した時、それの周りの人が名付けた名前...だったっけ?」
「...あいつの話、いまだに信じ込まれているのですか」
「じゃなかったら、そもそもあの子は知りようがないもの」
「はあ...いつか人間がドリームワールドに攻め込んできたりするのでしょうか」
「愚問、ではあるんじゃないの?」
「...胃に穴が開きそうですよ、全く」
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思考が蘇る。目を開き、辺りを見回す。
先ほどまでいた場所だ。特にそれ以外の何かではなさそうに感じる。
...あの時、メェーちゃんは何を...
「マリア!」
ぎゅっと抱きついてくるメェーちゃん。可愛い、が貧血で倒れそうになるのをグッと堪える。
「もう大丈夫?」
「ああ、もう大丈夫だよ。ちょっと貧血が激しいけど...」
「そ、そう...ごめんね、ちょっともらいすぎちゃって...」
「あはは、僕にとっては結構なご褒美だから大丈夫だよ。むしろほぼほぼ吸ってくれてありがとう。おかげで...」
「おかげで。我の手術をもう一度受けられた。なるほど。意識を失っていたと思っていたが。あったのか」
歩いて?くるミ=ゴ。一応実際にあったといえばあった。
「まあ思考が止まっていたからね、記憶の処理が大変だったけど」
思考が稼働してすぐに記憶の処理をして、そのままオーバーヒートしたからね。
若干貧血の体調不良がまだ残っているが、体を無理やり立たせる。
もうちょい周りを確認したい。廊下は...
ふむ、死体が一切ない。魔獣についてはまだまだ知らないことだらけだけど、まあ確実にショゴスが全て食べちゃったっぽいね。
「これはアレかな?ボスまで倒しちゃったパターン?」
「是、と答えておこう」
うわあ。マジかよメェーちゃん強すぎ。
いやまあなんとなくわかっていたことではあるけどさあ、ええ...
まあでもこれで一応立証はされたね。メェーちゃんに<魔力解放>を行っても物量破壊はほぼない。サイズがサイズだからね。
ただし、メチャクチャ被害がでかい。たぶん顕現の余波で僕とミ=ゴがやられているから、たとえばみんなで何かを倒すっていう時とかには一切使えない最後の切り札だね。
それじゃあ、後は帰るだけか。だいぶ楽して帰れそうでよかった。
「そういえば...マリアの血ってどこから取ったの?」
「ああ、それは僕の唾液をショゴスに与えて血液を生み出してもらったんだよ」




