本来のお仕事
いやはや、片付けは大変ですね。自分は片付けがあまり得意ではないので、得意な人が羨ましいです。
「さて、もうお日様は隠れてお月様が出てきちゃったね」
「今日だけで色々あったもんねえ」
「はっきり言って最悪なことしか起こらなかったけどね」
魔王が1人死ぬとか養父母が死んでしまうとか。
そう言うことを考えながら、僕はふと空を見上げた。
月が、出ている。今までは全く気にしていなかったけど、それだけでものすごい情報だ。
つまりこの世界を形作る惑星には月があるということ。まあ本当は月に似た何かの可能性もあるけど。
「で、こんなに暗いと寝るところをまず確保しないと話にならないからね。とりあえず<学園寮>に行こうか」
「<学園寮>?」
全く聞いたことがない言葉が出てきた。いやまあそりゃこの年齢なら知らないこともたくさんあるだろうけど、実際のところ精神年齢だけは20歳近くなはずなので意外と知っていることの方が多いのだ。
<学園寮>、言葉通りの意味ならば現代の寮と同じものだと思うが...
「<学園寮>っていうのはね、<国立学園>の生徒の住む家がない時に無償で利用できる部屋のことだよ。私は家がないからね、<学園寮>に住んでいるんだ」
「なるほど...」
うん、つまり寮だね。OK。
「ただ、ちょうど今日が入学の日だったからね。部屋が空いていることを祈らなくちゃだけど...」
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なんと、<学園関門>にくっついていた大きい壁...その中に<学園寮>はあった。
暗い中でよく見ると、確かに壁に窓がいっぱいついていた。中からの光で窓が光っていて、意外と綺麗に見える。
そして南門から入って右にあるドアをくぐると、そこはエントランスホール。
「すまないねえ、エリカ。結構前に全部屋埋まっちまったよ」
「やっぱりかー!」
で、そこにいた寮長である気前の良さそうなおばちゃん......マニマさんはそう言った。
さっきエリカ先輩が言ってたけど、今日は生徒が増えた入学式の日。そりゃあ部屋が埋まるくらい利用する人も増えたことだろう。
「どうしよっかあ。このままだと外で宿を探すことになるけどお...」
「さすがにそれはまずいねえ。昔宿の経営をしてたから言うけど、旅をする男どもの大半は欲求不満だからね。そもそもこの時間に宿に女の子だけで行くこと自体が危ないよ」
はえー、マニマさんは宿の経営をしていたのかあ。
というか欲求不満て。まあでもストレスとか溜まるだろうし、しょうがないといえばしょうがないのか。
「ところでお姉様、宿って?」
「宿はねえ、家の無い、もしくは冒険中の<パーティ>とかが利用する場所のことだよお。大抵は街の中にあってえ、比較的安全に眠りにつけるんだあ」
「まあ、マニマさんの言うとおり男どもには気をつけないといけないけどね...うーん、どうしよっか」
どうしようも何も、部屋になんとかして入れてもらうしかないけどね。この状況だと。
「...まあ、仕方ないかね。よし、いつもは許してないけど、部屋が開くまではエリカの部屋で生活しな」
「えっ、いいの!?」
「いいさね、こういう非常事態には柔軟に対応しろって校長からも言われてるからね。ちゃんと許してくれるだろうさ」
校長それでいいのか。非常事態なんて結構気軽に起きるだろ、この世界。
「よっし!じゃあちょっと片付けてくるから、少しの間待ってて!」
「はーい」
そして、エリカ先輩がいなくなって。
「そうそう、エリカは変なことしてないかい?またあの子やらかしてたりしてたらただじゃおかないんだけどねえ」
静寂はこなくて、おばさんの雑談が始まった。
ただ、それはつまらないものじゃなかった。たとえば...
「マリアちゃん、だったけ?あなたはエリカに気をつけるんだよ?あの子は可愛いものが大好きだからねえ、いつ襲われるかたまったもんじゃないからさ」
「ああ、それならすでに僕よりも可愛い子がいるので問題ありませんよ」
<インベントリ>からメェーちゃんを呼び出す。出てきたメェーちゃんは少し眠たそうで。
「メェ......」
と少し鳴いたあと、そのまま頭の上で眠りについてしまった。やはり神様、フリーダムである。
「あらやだ、可愛いじゃない!(小声)」
「ですねえ(小声)」
「自分の頭の上に乗っているから見れないことが悔やまれるけどねっ(ry」
そしてそれを眺める心が乙女(個人差あり)の人々は、メェーちゃんを起こさないように雑談を続ける。
「あの子はいつも自分勝手で、でも人に優しくて...ほんと、マナちゃんみたいなパートナーが見つかってよかったよ」
「そうですねえ。私もいつもエリカには助けてもらってばかりですしい、今回も助けてもらいましたからあ」
「...悲しいねえ。まさかマナちゃんの親まで殺されちゃうなんてねえ」
...マナちゃんの親まで。ということは、もしかして...
「...まあ、大丈夫さ。さっき聞いたけど、あんたたちがその犯人を捕まえるんだろう?」
「そうですね、必ず捕まえますしそれ相応のことはしてもらいますよ」
「なら安心さね。ちゃんとマナちゃんとエリカ、それとマリアちゃんがしっかりとそいつを捕まえてくれれば、安心できるさ」
そう、あの問題児しかいない<パーティ>が、超大真面目に大捜索するのだ。時間は絶対にかかるだろうけど、まあなんとかなるだろう。
「でも、学業をおろそかにするんじゃないよ?未成年の1番の仕事は、学びを得ることで生き残りやすくすることなんだからさ」
「「はーい」」
などなど、雑談で時間を潰すこと30分。
「お待たせ!とりあえずだけど片付けたよ」
「遅かったねえ。まああの部屋だと仕方ないかなあ」
ようやくエリカ先輩が帰ってきた。なかなかに話すネタも尽きてきた頃だったしちょうどいいタイミングだ。
ところであの部屋だとって何?まさか片付けができない系の女子なのですか?
「ようやく終わったかい。じゃあ...」
ドシン
という音がマニマおばさんの方からする。振り向くと、そこには布団が2つ。
敷き布団と掛け布団の2つがセットで1つになっているため相当大きい。今の僕じゃおそらく普通に持ち運べないだろう。
まあ、<インベントリ>で余裕なんだけど。
<インベントリ>にしまうと、そこには<お手軽布団セット>とあった。そもそも<インベントリ>がお手軽すぎるのは気のせいなのか。
「そら、もう夜も遅いしさっさと寝な!夜更かしすると育ってないものも育たないよ!」
「「それはまずい」」
「???」
持たぬものは、やはり持ちたがるのだろうか。エリカ先輩は急いで部屋に行き、慌ててついていく自分。そして意味もわからず頭に?を浮かべるマナお姉様。
「えっとお...なんでエリカたちは急いでいるんですかあ?特に急ぐ理由なんてないと思うんだけどお...」
「そうだねえ。少なくともマナちゃんは理解できないだろうから、その質問は絶対にエリカ達にしちゃいけないからねえ」
「ますますわからないのだけどお...」
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あの部屋、と言っていてまず先に思いついたこと。それはやはり正しかったようだ。
部屋の大きさは、まあいわゆる一般的な1人暮らしの人が住むようなマンションの一室と同じような広さ。キッチンに風呂、トイレまでついているからそれらよりもかなりいい部屋である。しかも無料。
だが.........
「これはひどいわ...」
「え!?か、片付いているよね!?」
「いや全く」
もはや言葉にできない、言い表せないこの部屋で暮らしていたのか。そう考えると、ある意味エリカさんは天才なのかもしれない。
...いや、待てよ?もしかすると僕が潔癖症なだけでこの世界だとこれがふt
「おー、いつも通りすごい部屋だねえ。全然片付いていないねえ」
「マナも!?」
よし、僕はまともだった。
「じゃあ、まずは片付けからだねえ」
「こ、これでも片付けたんだよ!この状態でどこを片付けれb」
「少なくとも布団を1枚も敷けないのは片付いていないんだよ」
で、さらに4時間くらい片付けを行った。結局散らかっていたのはほぼゴミ、どうしようもねえなこれ。
まあ食料品ではなくほとんどが道具または衣服だったのは幸いか。クローゼットの中とかもう着ていない服しかなかったし。
「まあ、わたしたちもここに住むことを考えるとお、さすがに無視できない量だったねえ」
「悲しいですけど、これが現実ですからね」
「現実にしてはすっからかんな部屋だよ...」
悲しみを背負うエリカさん。しかし、その悲しみもまだ続く。
そう。片付け始めた時にはすでに真夜中。つまり...
「おーい、もう起きないと遅刻だよ!早く降りてきな!」
睡眠時間、ゼロ。不眠で学園にいかなきゃいけない。
「...とりあえずう、後で出店で<覚醒薬>買ってきてねえ、エリカ」
「<覚醒薬>?」
「眠い時に飲むとお、ぱっちり目が覚めるんだあ」
「私が買うことは確定なのね...ところでお金は」
「「自腹」」
「(消沈)」




