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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第二章 少狂学校生存
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可能性、その塊

また長めになってしまった。



あ、死体は出てきます。

「大丈夫...?」

「ん......ああ、大丈夫だよ」



 疲れた。文字通り心身ともに。休みたいって気持ちはあるけど、ここが安全かと言われるとそうじゃないだろう。



 体を起こし、ドアノブをつかんで立ち上がる。片手で立ち上がるのは結構辛いな。



「ふう、うあああ!」



 体を思いっきり伸ばす。一応、周りに敵はいないんでね。ある程度の声なら出せる。



「あああ...よし、進もう」



 その言葉を放ち、歩み始める。最も、目と鼻の先にあるのだが。



 ボス...>キメラティック・フォレストアンドオーシャン・キングズ<を倒した時に開いた扉。



 中は、まあ大方予想通り。ドラゴンの時の宝物庫と同じように、ここにも宝物があった。



 ただし、一つだけ。宝物このように金貨が山盛りになっているわけではなかった。



 中央、そこにある台座の上。そこに鎮座するのは、<ダミラー>とは全く異なる外見を持つ手鏡。



 装飾は全て豪華絢爛という一言で説明でき、鏡には曇りひとつない。なのに、金の枠に収まったそれからはある種の不気味な感じが漂っている。



 まあ、もしかすると僕が怖がっているだけかもしれない。本物じゃなかったらどうしよう、ではない。そもそも<ダミラー>という前例がある以上、偽物に警戒するのは至極真っ当なことではあるからだ。



 だけど、それなら不気味とは感じない。何か一言で表現するなら...



 ...まるで、僕を待ちわびていたかのような、そんな視線あの鏡からを感じている。



 近づいて、しっかりと観察を行う。だけど、その視線の感触からは逃れられない。



 ただこの懸念で先に進むのを躊躇うのは間違っている。怖がりつつも、鏡を持つ。



 一応、ちゃんとした鏡とは使えるみたいだ。ちゃんと後ろも映っている。



 まあメェーちゃんたちは映っていないけど。当たり前っちゃあ当たり前だな。



「普通の鏡、だよね」

「そうですね、ニトクリスの鏡のような真っ黒な気配は感じ取れません」



 あ、ニトクリスの鏡って真っ黒な気配があるんだ。知らなかった。



 まあでも、バーストが言っているんだしこの鏡に怪しいところは...いや、あった。



 そう、鏡の中に、それはあった。



 鏡の中の、空間。実際のところ鏡の中に空間はないが、鏡の世界というものはいろいろなものがある。



 鏡は、自分の情報をそっくりそのまま映し出すもの。または、確かにそこにある世界を写し出すもの。



 目と目が、あう。鏡の中の自分と。だが、鏡を見つめればそりゃあ誰だって鏡の中の自分とは目が合うだろう。



 だが、この鏡の中の自分は違う。例え目を逸らしたとしても、僕の方を向いている。つまりは鏡に写っているのは僕じゃない。



 ...<可能性の写し鏡>。まだインベントリに入れてないので確証は得られないが、もしこれがそうなのだとしたら。



 いや、確証はともかくこれは<可能性の写し鏡>だろう。他に鏡ないし。



 なら、この鏡に写っている自分は...?



 と思った瞬間、世界が暗転し、すぐに光が戻る。



 周りをすぐに見渡すが、メェーちゃんたちがいなくなっている。



 一体どういうことなのか、とりあえず、今度は周りを調べるために見渡してみる。



 そこは、僕の知りうる限りの言葉で表現するなら教会というのが正しい場所だった。



 たくさんの、人。修道院の服と言えるであろうものを着ているシスター達が走り回っている。



 そして、そのシスターの人数をはるかに超える量の横たわる人。各々鎧などの装備を着込み、しかもそれらは総じてボロボロ。



 大半は生きてはいるものの、一部呼吸していない人もいた。すでに死んでいてもおかしくない状況なのに、まだ生きている人もいた。



 ふと、目が一人の人物に集中する。



 さっき、見た顔だ。横たわっている人の一人に見慣れた顔を持つ人がいる。



 どこか、神聖な服だ。シスターというよりかは巫女の方が近いだろう。



 近づくと、他のシスターとぶつかる。だが、そこに感触はなかった。おそらく、僕はその場にはいないのだろう。



 ...やはり、さっき<可能性の写し鏡>で見た顔だ。そんなこと、実際にありえるのだろうか。



 彼女は、かろうじて呼吸をしていた。ただし、すでに体の半分以上が消し飛んでいる。もはや、彼女は死を待つのみであろう。



 だけど、そのはずなのに、彼女は残っている片腕を使って自らに対して魔法を使い始めた。



 。遠き地にて眠りし海の王よ

 。その混沌を持って我の体を癒したまえ



<治癒>。周りの音は聞こえないのに、おそらく<詠唱>だと思われるそれだけははっきりと聞き取れた。



 それと同時に、自らと同じ声も。



 緑色の淡い光。それが彼女を包み込んでいく。



 滅びかけていた肉体は徐々に原型を取り戻し、五体を創っていく。



 大体、3分間くらいだろうか。ようやく体が直り、そしてすぐに立ち上がる。



 すると、



「な!?も、もう大丈夫なんですか!?」



 声が聞こえる。その声の主は、一人のシスターだった。



 ...やけに、見たことがある気がする。いや、初対面だろう。流石に見たことあるはあり得ない。



「うん。僕がみんなを助けないといけないし、それなのに動けないのはおかしいからね」



 あなたの言動もちょっとおかしいけどね。自らを見る、というのはこんなにも...うーん、表現できる言葉が見つからない。



「......わかりました。ですが、無理をなさらないでくださいね」

「わかったいる。だけど、そう言われるともう少し休まないといけなさそうだから、ここで少しだけ休むね」

「はあ、やっぱり。いいですか、1時間くらいは寝ていてくださいね!あなたはもう50時間は動いているんですから!」

「はいはい」



 少し怒った表情を見せつつ、シスターは退場していく。外で一体何があったかはわからないが、僕が大怪我を負うことになる出来事が外では起きたのだろうか。



 今の僕からは...想像ができないな。神話生物が1匹と2柱いるんでね。



「さて、そろそろ話し合いをしようか」



 瞬間、彼女が指を鳴らす。



 すると、世界が暗黒に染まった。否、自分と彼女(彼女と自分)だけは変わっていなかった。



「自分と?」



 彼女に言う。



「そうだよ」



 自らに言われる。



「...そもそも、なんで僕はこの場にいるんだ?」

「それは、君が<可能性の写し鏡>を見たからじゃないかな。僕も、前に同じようなことがあったからね」



 ...まあ、そりゃそうか。



「つまり、君は僕の可能性のひとつ。いわば平行世界の僕だということか?」

「うん。最も、僕からしてみれば君が平行世界の僕なんだけどね」



 なるほど、互いのことはしっかりと別人感覚で認識できているわけだ。



「<可能性の写し鏡>は、使用者に一度限りの平行世界旅行をさせてくれる。まあ旅行者に干渉できるのは平行世界の本人のみなんだけど」



「君がどんな存在なのかは僕は知らない。ただ、今の僕は<反聖教>で巫女をやらせてもらっているんだ。君は?」



 ほお。巫女か。それはそれは。



 だがな...多分これ自分が聞いたらびっくりするだろうなあ。



「聞いて驚くなよ...ショゴスとシュブ=ニグラスとバースト率いて魔王やってる」



 いざ口に出すと、本当に頭おかしい。



「な......そ、それずるくないか!?シュブ=ニグラスとバーストって言ったか!?」

「ふっふっふ、いいだろー」

「お前ずっる!ま、でもいいもんね。僕は毎日クトゥルフと話しているし」



 何!?



「いいなあ、それ!僕も聞きたいよ」

「だめだ、これは僕の特権だ」

「な!?ケチンボ!」



 すっごく醜い争いであることは重々承知、だがしなきゃいけないのはもはやクトゥルフ神話マニアだからなのだ。



「あ、でもあいつには会ったな」

「ニャル様?」

「そうそう。まさか武器屋やっているとは思わなかったよ」



 それは僕も思わなかった。



「そしてそこにネクロノミコン」

「なんであるんだろうな、あれ」

「まあどうせニャル様だしで全部丸く収まるし」

「それな」



 現代人がクトゥルフ神話に関わる原因は、大抵の場合ニャル様だからな。



「「まあ、ぶっちゃけニャル様に会えただけでも満足なんだけどね!」」



 もはや満場一致の解答。死んでもいい、にはならないけども。少なくとも悔いは残らない。



 あとは...



「あとは、あの胡散臭いおっさんとか?」

「なんでみんな信じるんだろうな、あの胡散臭いおっさん」



 絶対信用していいやつではないことは理解できるからな、あの胡散臭いおっさん。



「だから僕も<反聖教>に入ったわけだし」

「信じる神様は神話生物で十分だしね」

「ほんとそれ」



 やはりというか、話が噛み合う。一部齟齬が出るかもしれないし、なんなら齟齬が出ていたかもしれない。だけど、クトゥルフ神話はそれすらも許容するジャンル。



 齟齬なんて、話のネタにすらならないのだ。



 ============================================



 大体、1時間くらい話しただろうか。



「と、もうそろそろ時間だ。早く帰らないと、元の体に戻れなくなってしまう」

「おっと、それは大変だ」



 流石に元の体に戻れなくなってしまうのは怖すぎるな。



「まあ、これ以降2度と会うことはできないだろうが...そうだな」



 考え込む僕。一体何があるのだろうか。



「一つ、忠告だ。聞く限り、今の僕よりも君の方が歳を重ねていないからね、少しだけ未来のことを教えることにする」



 ふっと、彼の手元に一冊の本が出てくる。



 見慣れた、わけではない本。ネクロノミコンだ。



「君がある程度強くなった時、<聖神信仰教会>と<反聖教>による全面戦争が起こることになる。ああ、別にこのことは僕が<可能性の写し鏡>を見た時にも言われたからタイムパラドックス的な何かは起こりはしないけど」



 彼が、足元から消えていく。ふと僕の足元を見ると、なんと僕の足も消えかけていた。



「誰にも、ああ神話生物にはいいけど、この世界の住人には絶対に言わないで」

「わかった。ありがとう、教えてくれて」



 感謝、それは時に金よりも大事なものとなる。



「はは、いいってことよ。お互い、これからも苦労するからね......」



 そう言って、彼が消え。



 同時に、僕の視界も消滅した。



 ============================================



 ふと目を開けると、僕は鏡を持っていた。



 だが、その鏡に自分は写っていない。<可能性の写し鏡>が映すのは使用権のあるもののみと言うことだろう。



<インベントリ>にしまう。念の為、中身も確認しておくか。



 ーインベントリーーーーー


 金 00.10.00.00


 ネクロノミコン


<使用済みの可能性の写し鏡>


 ーーーーーーーーーーーー



 うわあ、いつのまにネクロノミコンが。あれか、ネクロノミコンに認められた的なイベントがあったのか。



 全っ然覚えていないんだけどな。



「さて、帰るか」

「...なんか、意外と何もないんですね」



 いや、バースト。そんなこと言われましても。



「ドラゴンの時はすごかったよねー、ショゴス」

「そウですね、あれはまさに死闘でしタ。今回はバースト様がいたのデ辛勝でしたが」

「む、それは気になりますね...いいでしょう。ショゴス、その話を包み隠さず話しなさい」

「喜ンで」

「あ、ショゴスは私の眷属だからね...!」

「あなたの眷属は仔山羊でしょう...ああ、そういえばショゴスでもありましたっけ」



 あ、そういえば確かに今回の戦いはドラゴンと同じくらいの死闘ではなかったな。



 実際、生命の危機に陥るほどの大怪我は負っていない。全身大火傷に比べたら片手欠損なんて擦り傷程度、いや流石にそれはちがうな。



 とにかく、やはりバーストを召喚したのが一番の要因だとは思うんだよな。



 結界がなかったら死んでただろうし。あの状況で1時間生き残るのは無理なのよ。



 まあ、つまるところいつか完全にヌルゲーみたいなことになりうる可能性がある。そもそも神話生物1匹と2柱で辛勝の時点で、当分それは起こらないだろうけど。



 ...あとは、



「戦争、か」

「ん...戦争、起こるの?」

「らしい。未来の僕が言っていたんだ、きっと起こる」

「おお...!」



 なんだか、メェーちゃんの目が輝いているように見えるのは一旦置いといて。



 戦争。確実に頭の片隅にお言っておかなくてはならないことだ。あまり詳しく考えて、なんか心を読める人にバレたらまずいが。



「一応、戦争のことは他の人には内緒ね」

「うん...!」



 輝く、とはまさにこのことを言うのだろう。絶対に戦争を楽しみにしているでしょ、メェーちゃん。



 僕としては、死ぬようなことは避けたい。ただ、その戦争はおそらく避けられない道だろう。



<聖神信仰教会>と<勇者>、<反聖教>と<魔王>は敵対関係だ。特に<勇者>と<魔王>は出てくるたびに争って、毎回<魔王>が負けている。



<魔王>の僕からしてみれば、別に積年の屈辱うんぬんは関係ない。生きていければそれでいい。



 ただし、それを<勇者>が邪魔するだろうから。だから戦わなくてはならない。



 ...<魔王>としての僕の力は、ぶっちゃけ弱い。



 だって、周りが強いから。でもそれだけだと足りない。



 あの<勇者>の剣、あれはとても強い。弱き邪なるものは一瞬で消滅するであろうもの。



 それに、神話生物(僕の仲間)が耐えてくれるか。



 今の状態なら厳しいだろう。だが、彼らも強くなれる方法があるはず。



 そうじゃなければ、そもそも召喚師が弱いことになる。あんなに人気の職業なのに、研究されてないことは確実にありえないだろう。



 それが質、で僕の方からできるのは数。



 おそらく、僕はまだまだ召喚できる。



 召喚方法などは模索するとして、随時仲間を増やしていく他ない。



「ねえ、みんなはどの神話生物と一緒に過ごしたい?」



 ショゴスがドラゴンとの戦いを超細かく説明し終わったタイミングだったので一応聞いてみる。



「それならはすたあがいいなあ...!!」

「ふム...ミ=ゴはいかガでしょうか。彼らナら、マスターに快く協力しテくれるでしょうし」

「そうですね、今の貴方には無理でしょうけど、強くなったあとならばクァチル(塵を踏むもの)さんなどはいかがでしょうか」



 そして、この3者による無理難題の押し付けである。いや、ミ=ゴは超簡単だろうけどね、ハスターと塵を踏むものて。今呼び出したら即死級の神じゃないですか。



 まあ、でもいつか呼び出そう。そう決めていると、いつのまにか入り口前広場に戻っていた。



「<インベントリ>に鏡は...あるね、よし!」



 大扉の前。すでにショゴスは本になってメェーちゃんが持っている。バーストはその本の上に乗って、メェーちゃんは頭の上にいた。



 重さはないし、まあいいんだけどね。



 自動的に開く大扉、完全に開かれたその時、急激に中へ吸い寄せられる。



 おそらく、出入りするときはそう言う様になるシステムなんだろう。別に怖くはないので、その流れに乗って。






 出ると、そこは教室だった。



 中に、人が何人か。僕と同じ生徒もいるし...



 教壇に座っている校長だっている。



「ほう、やつを倒したか。やるではないか」



 校長に拍手される僕。



 いやまあ、死ぬかと思いましたけどね。

T〇〇G...変な異空間に飛ばされる。

俺...実は某コメディアニメが初めてのクトゥルフ神話

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