学校生存⑨〜あの男になりたい〜
オワタ式、とも言われます。
ドガァーン!
もはや森海王に周りは見えていない、あるいはあえて追い詰めるために他のところを殴っているのか
どちらにしろ、見当違いの場所をなりふり構わず殴っているのには違いないだろう。
だが、当たらないその拳が地に打ち付けられるたびに、轟音と共に床が爆ぜる。
ドガァーン!
それほどに奴の拳の威力は高い。実際にバーストの<結界>が一瞬で壊れたのだから、嫌なことだけどわかりやすい。
で、そんな拳がありながらものすごいスピードで動いてくるので逃げるのも一苦労。
ドガァーン!
「うわっ!」
背中に何かで切られた感触。おそらく、ものすごい近くで床に殴った時の床の破片か風によるものだろう。
...わかってはいたんだけど、本当に当たったらまずいな。
となると、森海王が接近してくる時以外は可能な限り近づかずになんとかしないとな。
しかも、一応止血しているとはいえ露出している腕の断面があるから、それによるタイムリミットも存在する。締め付けがちょっと甘かったのか、チョロチョロと流れ出しているんだよね。
「ショゴスがあんな姿になれることには驚きましたが、あの生物の方がよっぽどおかしいですね」
「あの<ドラゴン>はここまで強くなかったし、まああの時はショゴスを体内に入れて内側から破裂させたんだけどさ」
本当ならあの<ドラゴン>にも第二形態があったのかもしれないが、そうなる前に殺したからね。
「タだいま戻りました。やはりマスターの読ミ通り、大扉は開きませンでした」
「やっぱりかあ」
ショゴスが戻ってきて報告をしてくれる。一応大扉を確認させたんだけど、まあ逃してはくれないらしい。
「よし、ショゴスは<ドラゴン>になってやつの注意を逸らしてくれ。可能なら急所みたいなのも見つけて欲しいけど、<ドラゴン>の巨体だと注意を逸らしやすいだろうから、そっち優先で」
「了解デす」
ショゴスが離れ、そこに現れる<ドラゴン>。いつみても巨大だね。
「冷静、ですね」
そうバーストに言われる。いやそんな急に言われても。
「まあ逃げているだけで拳は当たらないからね。絶体絶命ではあるけど、まだ判断を考える余裕はあるよ」
「この状況で余裕がある人間なんてほとんどいないと思うのですが」
そしてこのド正論である。確かにそうなんだけどね、攫われたり全身火傷になったり、意味不明の状況が相次いでいるからね。しょうがないね。
「みてきたよ。ごめんなさい、ドア開かなかった...」
ああいや、メェーちゃんが謝ることじゃないよ。
...うん、やはりメェーちゃんの笑顔はかわいい。
「...あなた、幼児退行してませんか?」
「わあ、猫が喋った...!」
まあ神話生物の皆さんは顕現した姿によって思考能力が変わることもあるしね。
どこぞの這いよる混沌がその一例だし。
「あの快楽犯は例外ですよ」
「あ、そうですか」
まあその話は置いておくとして、だ。
「よし、メェーちゃんもショゴスに協力して森海王の急所を探してきて。ショゴスと違ってメェーちゃんは逃げやすいだろうから、急所探し優先で」
「うん...!」
翔び立つメェーちゃん。これでなんとかは、まあならないけど一応進むはず。
ドガァーン!
そしてまたもや近くに当たる拳。これはアレだな、ショゴスたち完全に無視してるっぽいか。
「ショゴス、メェーちゃん!作戦変更!触手に気をつけながら全力で急所を探して!」
とりあえず命令、ただこれでなんとかならないのが現実でもあるからね。可能な限り短期決戦がいいけど、そもそも急所が見つからない可能性だってある。
倒す他の方法も考えとかないと。周りにあるもので使えそうなのは...お。
目がいったのは、天井近く。大扉の上の、大きな穴だった。確かあそこから森海王は出入りしたんだよな。
ということは、外に出られる。
そうなると倒さずに...いや、無理だ。
穴の中がどうなっているかわからないのに逃げ込むのは無謀だし、何より穴の位置が高すぎる。
ショゴスに手伝って貰えば余裕だろうけど、それまでに殺される。
...逃げられなくて、いやでも何かに使えそうだな。
瞬間、
「&#!"#$#%#」
もはや声ですらない声が響く。振り向くと、そこにはかなり悶絶した様子の森海王。
お、触手が無差別に動いているな。
すると、メェーちゃんが跳んできた。
「ゆ、床の破片投げたら後ろのおっきな目に当たって、えっとそれで...」
「OKOK、十分に理解したよ」
なるほどね、海の王の目が弱点っぽいのか。
ただ...触手が蠢いている。僕の記憶が正しければ、あくまでもあの触手は基本的に動いていなかった。入り口での殺戮時、あの触手は自ら動いていたのではなく、森の王が勝手に動いたことによって後ろに回ってしまった生徒が食われていた...よね?
あー、だからああやって無差別に動いているのはおそらく普通じゃない。なら...
「...メェーちゃん、バースト。触手が超危険だけど、あの巨大な目を攻撃してきてくれ」
「うん!」
「...はあ、私に対して命令する人間は初めてですよ」
「そりゃどうも」
翔び立つメェーちゃんとバースト。すると、悶絶して動かなかった森の王が
ドガァーン!
「なっ!」
急に、動き出した。拳は遠かったおかげでなんとか避けたけど、まさか普通に動いてくるとは。
「ゴアアアアア...」
睨みつけてくる森の王。恐怖とかはもはや感じ慣れすぎているかもしれないが、こうしてあらためてみるとやはり怖い。
自分達よりも巨大、それだけで生き物は恐怖を覚えるのだからね。こいつに恐怖しない人間はイカれているだろうな。
まあ、たとえこの状況がどう転ぼうと僕は逃げるだけなんだがね。
ドガァーン!
「ゴアアアアアア!!」
叫び、そして追いかけてくる。もはやその目に僕以外は写っていないのだろう。
バシィ、グチャアという肉の音が聞こえていることを踏まえると、やはり海の王が急所を防衛しているのだろう。
ドガァーン!
もはや考える暇なんてないか。そもそも直線だと絶対にスピードで負けてしまう現状、かなり大きく蛇行することによってなんとか避けれているが...ととと!
ドガァーン!
殴ってくる頻度も上がっているし、なんなら正確性も向上してきてるな。さすがゴリラ、頭いいね、嬉しくないけど!
ドガァーン!
その時
ガッチィィーン...
金属音と聴き間違えるほどの鋭い音。おそらく背中だろうが、一体何が...
と、<ドラゴン>が近づいてきた。
「マスター、口が閉じて目玉に触れることができなくなりました」
「うわあ」
いや、まじか。頼みの綱の急所すらもう無理か。
ドガァーン!
「ショゴス、メェーちゃん達と協力して口が開くタイミングを調べて」
「御イ」
飛び立つドラゴン。まさか、あの羽飛べるのか。
じゃあ逃げることも...待てよ。
ドガァーン!
このタイミングになるまで口を閉じなかったんだよな、海の王。それはつまり、何か理由がない限りは閉じないことを意味する。
もしかするとランダムで閉じるかもしれないし開けるのかもしれないが、それにしては流石に遅すぎる。
すでに森海王との戦闘は少なくとも30分経過しているのはずだから、ランダムならすでに何度か閉じていてもおかしくはない。
...現在の森海王のHPってどんなもんだ?
ドガァーン!
ーーーーーーーーーーーー
>キメラティック・フォレストアンドオーシャン・キングズ<
HP 137601/597425
ーーーーーーーーーーーー
うーん、半端。
だけど、少なくとも半分は下回っている。おそらく、半分下回った時点で第二形態になったんだろうけども。
ドガァーン!
となると、第二形態になったから閉じるようになった可能性もあるな。
うーん、どれだろうか...
ドガン!ドガァーン!
うわ、ついに2連打してきやがった。
蛇行も限界に近いか...そう思った時だった。
「遠ノくと!!」
声が聞こえてくる。ショゴスの声だ。
遠のくと......つまりは安全だとわかったタイミングってことか。
ドガン!ドガァーン!
ということは、不意打ちなら...あ。
「穴から外へ!!」
叫ぶ。すでに喉から血の味がしているおかげで、すごい喉は潤っていた。
チラリと穴のほうをみると、そこには穴に入っていくメェーちゃんとバーストがいた。
「グアアアアア!」
熱がヒリヒリと肌を焼いていく。ショゴスが<ドラゴンブレス>を使っているのだろう。
...あの穴、入り口に戻れるってことは逃げることができるとしか思っていなかったけど、そうではないんだ。
逆に、この部屋の大扉の前に行くことができる。そういう考え方だってできるのか。
ドガンドガンドガァーン!
降り注ぐ拳も速度が速くなっていく。ショゴスの援護でなんとか避けれているけど、これ以上は難しいな。
ドガンドガンドガンドガンドガァーン!
なのにさらに速い間隔で殴ってくる。これがボスの力ってことなのかな。
ドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガンドガン、ドッガァァン!
ここまでくると異常だろう。なぜ僕は避けれているのか考えたくなるが、おそらく森の王の目が潰れているからだね。
潰しといてよかったわ。
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ
そしていつのまにか、クールタイムなどという甘いものは無くなっていた。おそらく永遠に森の王は殴り続けるだろう。
...そろそろか。
走って、入り口の方へ向かう。ただし、壁際から大回りして。
もちろん森の王はついてくる。僕を殴り倒すのが目的だし、何よりさっきからずっと走ってる。
すでに視界は頼りにならず、避けれているのは拳がどちらからきたかを音で判断しているにほかならない。人がやってのけることなのかとも思うが、あの死体製造機みたいなのを当たり前のようにくぐり抜けてきた人間ならこのくらいできて当然だとも思ってしまう自分がそこにいた。
そして、結構入り口に近づいたところで入り口との直線位置に向かう。
騙す、というのは違って、僕が逃げている方向を選んでいるだけだから、さっきまでと全然変わらない。
むしろ、どんどん拳が近づいてきているからさっきより危なくなっている。
...だが、ちゃんと直線位置に来てくれたのなら話は別だ。
「今だ!!!」
血反吐を吐きつつさけぶ。聞こえたかどうかわからないが、
ガタン!
という扉の開く音は聞こえた。
そしてそのすぐ後、拳が止まった。
後ろを振り向かず、そのまま走り抜けてドアのほうへ。
その途中、轟音が鳴り響く。
ドアにたどり着き、振り返るとそこには倒れた森の王が。
しかし、背中に海の王が引っ付いている森海王。きっちり口を閉じている。
...霞む視界、その端。上の方で小さな生き物2人がそこにいた。
黒い山羊はもう一方の生き物の脚を掴み、ハンマー投げのように海の王へと投げた。
橙色の猫はもう一方の生き物を一度睨むと、真っ直ぐと前を向き海の王へと向かっていった。
海の王は、すでにどうしてくるかわかっているのだろう。すでに閉ざされた鋼鉄の壁の前に、肉の壁を作って守ろうとしている。
その時、<魔法陣>が猫の手から大きく現れる。そしてそれが消えると、黒く輝く何かが出てきた。
爪、あるいは何本もの角。
そして一瞬声が聞こえる。
「「<交差2撃・山羊と猫>」」
必殺技なのか、だとしたらそこまでかっこいいとは感じられないそれが海の王に直撃する。
と、同時によっかかっていたドアが開く。
残念なことに海の王がどうなったかは見れなかったが。
まあ、僕達の勝ちだろうな。
3話かけまして
>キメラティック・フォレストアンドオーシャン・キングズ<
討伐




