学校生存⑥〜再認識〜
???「俺は安全に(ry
ドアのあった出入り口、そこからソイツは入ってきた。
まず目がいったのは、その独特な顔の造形。前に長く、それに応じて口も長い。
もちろん口には牙があり、さらに下顎と上顎で肌の色が違っている。下が薄い黄色、上が緑。
そして、その色の違いは上半身にも。詳しくいうのであれば、薄い黄色が腹まで伸びている。
目は人間の目ではなく、どちらかというと爬虫類が思い浮かぶ目。指も4本しかない。
あとは、手に持っているその曲刀。赤くなっていて、新鮮な液体と思われるものがひたたり落ちている。
その液体は足にかかり、本来は緑色であったはずの人間のものではない足は真っ赤になり、綺麗であるはずの鱗に光が乱反射していた。
...まあ、少なくとも見たことのない生き物だった。そもそも2足歩行の生き物をあまり知らないのもあるが、だったとしても前世にはこんな生き物はいなかった。
つまりは、魔獣。見たことのない生き物ならばそう仮定するのが自然だろうし、そしてもし仮にこいつが本当に魔獣なのだとしたら、だ。
おそらく、僕はこいつの名前を言い当てられるだろう。
「...<リザードマン>」
「グアアアア!」
まるで、大当たりだとでも言いたいのか。どうやらある程度の知能はあるみたい。
「グウウアア!」
<リザードマン>は叫び声を上げると、剣を振り上げた。
「やべ!」
そして。
シュン
という風切り音が鳴る。
一瞬、いや一閃。僕とこいつの距離は曲刀の5倍はあったと思うんだけど、まさかそれを一瞬で詰めてくるとは。
剣を振り上げた時点で前転をしていたから被害はない。一応髪が少し切り取られた感触があったが、まあ無問題だろう。
ドシン
と壁にぶつかる。頭からぶつかってすごい痛い。
避けるために前転したからしょうがないんだけどさ。とにかく、すぐに立ち上がらないと。
と思って振り向いた時、すでに目の前にはあった。
曲刀。
目を瞑る、が。
部屋中に鈍い音と剣と地面の衝突音が鳴り響く。もちろん僕に振り下ろされることはなく。
目を開けると、目の前にいたのはメェーちゃん。
足を振り上げているところを見るに、おそらく曲刀を蹴り飛ばしたんだろう。すでに曲刀が振られているから軌道変更しかできなかったのだろうけど、そのおかげで僕は助かったのだ。
それを認識し急いで立ち上がる。座っている状態だと何にもできないしね。
<リザードマン>は少しイラついているのか、吐息を漏らしながらこちらを睨みつけてくる。
すごい怖い、がそんなことで止まっていると生還できない。
<リザードマン>が飛び退く。行き着く場所はドアの前、つまり僕たちを逃さないと。
ただただ辛い状況だが、僕たちはこいつをなんとかして倒す必要がありそうだ。
......どう、倒すか。
僕は<リザードマン>について何も知らない。つまりそれを踏まえた作戦は立てられない。
初見の敵をどうやって倒すか、そこに重点を置くなら...
...足か。
「グウウアア!」
叫び、振り上げられる曲刀。振り下ろす前兆。
左に転がって避ける。前に転がった時よりも広いのでぶつかることはない。
「ショゴス!脚を止めろ!」
命令。本だったものが床に広がり、そこから伸びる触手は<リザードマン>の脚を止めてくれた。
一方<リザードマン>はというと、体全体を動かして切り掛かっていたのか、前のめりになっていた。
「メェーちゃん!押し倒して!」
メェーちゃんの飛び蹴りがリザードマンの背中に直撃する。もちろん前傾姿勢だった<リザードマン>は受け身を取ろうとする、しかしそれを触手が邪魔をして。
ついには、地に伏せた。
「ショゴス!体全体を覆って!メェーちゃんは脚切り落とす!」
<リザードマン>の体がショゴスで埋め立てられ、メェーちゃんによって脚が体を離れる。
すると、離れた脚がみるみるうちに溶けていく。ショゴスが食ってるのか。
「よし、そのままショゴスはそいつ喰え」
「御イ」
<リザードマン>が、皮から溶けていく。あまりにもひどい苦悶の表情を浮かべているが、そこは空気のないショゴスの体内。
何もできないはず、とと持った次の瞬間。
やつは、右手に持っていた剣を投げた。回転しながら飛ぶそれは、あまりにも急すぎて何も言えなかった。
しかし、どうも僕の仲間はとても強いらしい。
またもや響く鈍い音。目の前に飛んできたメェーちゃんが剣を思いっきり蹴飛ばしていた。
蹴飛ばされた剣は反対方向へ。そして。
切られたメェーちゃんの足も、反対方向へ。
「...へ?」
一瞬、理解ができなかった。メェーちゃんはとても可愛いが、その中身は神話生物の中でもトップクラスの強さを誇る神性。
そのメェーちゃんの、足が切られた。
「だ、大丈夫!?メェーちゃんその足」
と慌てふためく僕を尻目に、メェーちゃんは自分の足を回収。
「ショゴス、体少しだけもらうね」
「いいデすよ」
という会話の後に体を少しだけ掬い取ると...
そのまま、断面に塗り出した。切られた足側も同じく。
そして、それらをくっつける。だいたい10秒ほど待ったあと、足をブンブンと振る。
するとなぜか、その足は元気よく動いていた。ショゴスの体は接着剤か何かなのか。
「...?どうかした?」
「あ、いや、なんでもないかな」
ショゴスの中にいる<リザードマン>が驚いている顔を見るに、おそらく今見たことはこの世界でもあり得ないことに近いのかもしれない。
さすが神話生物、恐るべし。
「ギギャアアアア」
もはや勝つこと叶わず、暴れる<リザードマン>はすでに体の半分以上が溶けて無くなり。
「ギ....ギ......」
ついには何もかも無くなった。
ふっ、と足の力が抜ける。ドスンと尻を床につける。
静かな世界、もはや誰かの叫び声は聞こえない。もしかすると今も誰かが叫んでいるのかもしれないが、聞こえないということはそれだけ離れているということだろう。
体全体が脱力する。股がだんだんと濡れていくのを感じるが、もはやそれを止める力すらも残っていない。
そう、僕は命令を下していただけだ。たった数十秒間の間、神話生物を駆使することで魔獣を殺しただけだ。
なのに、この疲労。緊張と恐怖なのか、体の震えと心臓の激しい動悸を理解できる。
あの曲刀、現在は反対側で刺さっている血に濡れたものを見るに。
おそらく、奥にいた生徒を殺してから僕のところへきたのだろう。
切り付けられるのは、痛い。誰でもわかることだ。だから、生きているのであれば自ずと痛みが発生しているはず。
しかし、あの<リザードマン>には明確な殺意があった。とてもじゃないが生かしてもらえるとは思えないし、負傷者なら尚更だろう。
...もしかすると、僕はここで死んでいた可能性もあったのかもしれない。そう考えると、さらに震えが激しくなる。
あ...視界まで歪んできた。どうやら相当の疲労が溜まっていたのか、いや恐怖によって涙が出ているのか。
どちらにせよ、休まないといけない状況であることに変わりはない。
「ごめん、ショゴス。そのまま周囲の警戒を」
「了カい」
...目を、瞑る。何か温かみのあるものがぎゅってしてくれているような気がしなくもなくもなくもなくもない。
まあ、いいか。
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寝れない。厳密には眠くない。まあこんなところで寝るほうがおかしいのだが。
時間にして5分、休憩にもなっていないかもしれないがないよりマシだろう。
立ち上がる。体を軽く伸ばした後、ステータスを確認。
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[名前] マリア
[性別] 女性 [年齢] 6
[職業] 召喚師(クトゥルフ神話)
[パーティ]<ギルドズパーティ>
HP 70/70 MP 90/90
ーステータスーーーーーー
筋力 50
体力 50
敏捷 30
知性 60
精神 435
魔力 110
ースキルーーーーー
言語 Lv37
召喚魔術 LV50 (2)
応急処置 Lv50
耐性 Lv60
(魔王の種[発芽前] Lv100 (MAX))
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...うん、HPとかは満タン。ただめちゃくちゃステータス伸びているような気がする。
精神値とか100増えてるぞ。どうしてこうなった?
あれか、<リザードマン>殺したからか。もしそうなら経験値みたいな内部数値があるのかも。
本当にゲームみたいな世界だな、現実だけど。
「ショゴス、なにかあったりした?」
一応聞いておく。ただ僕の身に何も起こっていないことを考えると...
「イえ、現状は何も起こッていません。時折悲鳴は聞こエてきましたが」
ん、やっぱり。ならいいんだけど、多分これから何回か<リザードマン>には会うことになるな。
そうじゃなくても、魔獣には会うだろう。悲鳴が聞こえてくるってことはそういうことなんだし。
「メェーちゃん、は頭の上にそのまま乗っててね。ショゴス、悪いけど先行して周囲の環境を確認してくれないかな」
「わかった!」
「仰せのまマに」
ショゴスが部屋から出る。それを追う形で僕たちも出る。
もはや他人の精神を鑑みれる状況ではない。誰だって自分の命が一番大事なのだから、これくらいはいいだろう。
...外の状況は、まあそこまで悲惨ではないみたいだ。ただ、<リザードマン>の赤い足跡がベッタリと地面についている。
その足跡は、曲がり角の向こうへ。まるで僕らを導くかのように
いくしか、ないよな。反対側は入り口だったんだ、覚悟を決めて曲がり角を曲がると...
もはや、声すら出ない。悲惨な現場がそこにはあった。
死体、肉片、血、骨、遺品。
よく見ると、一番近くの死体は団体行動を誘ってきた男子だった。
その表情は、恐怖で歪み、
「っ!」
後ろを向いて、一言。
「ショゴス、掃除を」
圧迫感、それは幻覚、しかし確かに感じる恐怖。
本当に、ありえたのだ。僕があそこで死ぬ可能性が。
苦しくて、だからこそ生きたくて。
「...すううう、ふううう......」
深呼吸、これが一番精神を落ち着かせられる。
...おそらく、覚悟なんて意味のないのかもしれないが。
「終わリました」
振り向くと、そこは何もない廊下。
もはや誰がここで死んだのかなんてわからない。
「...よし、進むぞ」
およそ、あのドラゴンとの対峙よりも生きることへの渇望が感じられる。
なぜなのかは、わからない。が、理由なんて一つだけだろう。
「何がなんでも、生還するために」
この世で最も難しいゲーム。それは......




