学校生存②〜運ばれた命は限りなく〜
頭イカれている学校生活とは、一体...?
ブォン!ブォン!ブォン!
改めて、今自身が置かれている現状を把握しよう。
目の前で揺れるふりこは止まることを知らず、いつまでも動き続けている。物理法則とか知らないのだろうか。
勢いとしてはまあ、人を真っ二つにするのには申し分ない速度を保っているわけで、もちろん当たったら終わりだ。
ブォン!ブォン!ブォン!
ふりこの下には自分1人が乗るのがやっとの横幅になっている道がある。そしてその隣には、あの少年だったものが落ちていった奈落。深さはこの暗い状態だとよくわからないが、少なくとも底は見えない。
しかも道の先に対岸があるのかないのかわからない、そんな状況下でこの道を渡らなきゃいけないのか。
冷や汗、体を伝うその一粒一粒が手に取るように感じる。恐怖とまではいかずとも、なんとか冷静なだけマシなのに。
「すうぅぅ、ふうぅぅ」
呼吸を整える。まずは一回ちゃんと通れるタイミングを計らなきゃいけないからね、集中するためにも冷静さを保たなくては。
実際人が死ぬ現場を初めて見たわけだし、理解を拒んでいるだけで心臓がバクバクと音を鳴らしているのもわかっている。
...死にたくはない、それは誰だって一緒だろう。まさか学校がデスゲーム会場だなんて思いもよらなかったけど、前のエリカ先輩のことを鑑みるにこのような状況すらもどうでもよくなるくらいの理不尽がこの世界にはあるのかもしれない。
つまり、これを乗り越えなければどこでも死ぬのかも。
ブゥン!ブゥン!ブゥン!
音が規則的、つまりはリズムさえ掴めば通り抜けられるだろう。
この場合 1 2 1 2 と数えるのではなく、 1 2 3 2 1 2 3 2 と数える方がいいのかな。左右で止まるタイミング数えても意味ないだろうし、中央に来るタイミングを理解していないと真っ二つだろうし。
ブゥン!ブゥン!ブゥン!
よく見る、これに尽きる。ずっと見て、いけるタイミングを掴む。運ゲーではないからこそしっかりやらなきゃな。
ブゥン!ブゥン!ブゥゥン!
ずっと見ているうち、どんどんゆっくりに感じられる。いやまあ実際にはゆっくりじゃないんだけど、慣れてきたおかげでそうみえる錯覚だ。
そしてゆっくりになったということは、タイミングも掴みやすくなるということでもある。
ブゥゥン!ブゥゥン!ブゥゥン!
体の重さ、ふりこの速度とふりこまでの距離を考慮して...
...ここ!
と感じたと同時にダッシュ。メェーちゃんにはショゴスを持って僕についてきてもらうが、まあメェーちゃんの身体能力ならば余裕だろう。
何ならメェーちゃんの方が身体能力高いしね。
目測5mの距離しか見えず、その状況でふりこが見えているということはふりこまでの距離は5m以内。人間からしてみれば、ほとんどがが一瞬で走破できる距離。
つまり、ふりこの目の前に到着するのも一瞬。そう考えているうちに、もうふりこは目の前にいた。
ふりこは、まるで僕のことを切断する準備をしているようだった。僕がふりこの横に到達したタイミングでようやく折り返し、意気揚々と切ろうとしてくるがもう遅い。
なぜならば、その時すでに振り子を突破しているからだ。
「走ってえ!!」
瞬間、マナお姉様の声が後ろから聞こえた。走って、つまりは止まらない方がいいのか。
たった一瞬だが、そもそも僕はインベントリにある教科書の重みに耐えきれていない。実際外の芝生の上では歩くことしかできなかったわけで、走ることはもはや論外。
...なんでその状況で走れたかはひとまず置いといて、すでに足は限界である。
だが、なぜか僕は止まらずにそのまま走ることができた。疲労なんて知らないのかわからないが、何かから若干の助けをもらっているような気がする。
誰かに背中を押してもらっているような、でも後ろにいるメェーちゃんは背が届かないだろう。ショゴスは僕が眼礼してないから動けないし...
まあいいや。とにかく走り抜けるだけだ。
暗いし道は狭いしで下を見たいが、もし道中にふりこかその他何かがある場合対処をしなければいけないわけで、結局のところ前を見て走る。
足が震えるが、今は一旦無視する。せめてこの場が明るくなればいいんだけd
パァン!
音、それと同時に明るくなる空間。なるほどね、床のないトンネルのような場所だったみたい。
そして少し高いところに現れるは、ロープ。しかも浮いており、まるで空間そのものとロープの端がつながっているようだ。
...え?なぜロープ?
と思った次の瞬間。
ガタン!
聞いたことがある音と同時に、足に力が入らなくなる。
いや、違う。床が開いて踏み締めることができないんだ。つまりはロープに飛び移れってことか。
即座にジャンプ。でもすでに足場は開き、ほとんど足が伸びている状態だ。ジャンプの飛距離は、そりゃあ短くなる。
ロープまでの距離は詳しくはわからないが、少なくとも僕よりも結構高い位置。きっちりダッシュジャンプできれば届くかもしれないが、果たして。
思いっきり手を伸ばす。しかしその右手は空を切り、およそ1mの距離を残して体は空中で一瞬静止する。
そして、落下を開始する。
このままだと、死ぬ。
「ショゴス!!」
いつの間にか、僕は叫んでいた。何も考えずに、ただただ命令を下していた。
「助けろ!!」
すでに向いているロープの方に、一瞬何かが映る。
それは、某格闘家のように本に乗って空を飛ぶメェーちゃんだった。本が向かう方向は、ピッタリロープに重なる。
そして当たり前のように本はロープにぶつかり、その衝撃によって本が軟体生物のように形を変える。
直後、本から触手が伸びてくる。この間わずか2秒だが、すでに僕は簡単に計算して2mは落ちている。
ただ、届くか届かないかのことは考えなくてもよかった。メェーちゃんがロープに着地したのちにショゴス本体を投げたからね。
メェーちゃんの手には触手が巻き付いている。つまりはそのまま引っ張れるらしい。
触手が僕の右手に触れる。すると、自分の右腕の皮膚が一部なくなる感覚とそれに伴う痛みが発生する。
「があぁ!」
痛い、でも死ぬよかよっぽどマシ。おそらくショゴスは僕の腕の皮膚を食い進めて、その跡地に成長した自身の体を這わせたのだろう。
それのおかげか、突然落下が止まって肩に衝撃が走る。ただまあ今までの痛みよりよっぽどマシなんで気にすることもないだろう。
少しずつ体が持ち上がっていく感覚、それと声。
「ゴ無事ですか、マスター」
ショゴスの声だった。その声には優しさなんて1ミリも含まれていない、なぜならショゴスは神話生物だからだがなぜか安心でき、そのまま脱力してしまう。
この状態だと、ロープを掴んで進むことは難しいかな。
「ショゴス、このままロープを伝って進んでね」
「わかりマした」
「メェーちゃんもありがとうね、それと先行して何があるかみてきてもらっていい?」
「うん、わかった!」
引き上げられ、ついにはロープを掴める高さまで。そして掴んだ状態のショゴスはメェーちゃんが先行した状態で進んでいく。
ふと、気づく。僕のことを押してくれた何かについて。
風だ。追い風が僕を押してくれていた。でも疑問なのは、周りを見渡す限り窓などの外に繋がる場所はないように見える。一体どうすれば風が吹くのやら。
まあいいや。今深く考えたところで正解は出ないしね。
「戻ってきたよ!...あれ?」
「ん、どうかしたのメェーちゃん」
「...なんか、ヨグの匂いがする...」
...ヨグ?まさか、あのヨグ=ソトース??
「あー、もしかすると僕を助けてくれたのかも」
風はもしかすると風じゃなくて、空間そのものが動いていたのかもしれない。それだったらヨグ=ソトースもできそうだし。
メェーちゃんが出したヨグ=ソトースの関与疑惑を考えるなら、それくらいだろう。
「あのヨグが...?」
まあ、メェーちゃんはまだ疑っているけどね。
「それよりも、どう?先には何かあった?」
「あ、うん...扉があったよ...!」
扉。まあた扉ですか。なんかまた何かが起こりそうな気がするなあ。
そんなことを考えているうちに、対岸が見えてきた。
なるほど、確かに扉があって...待て、あそこにいる人影って...
「おーい、こっちだよお」
いつの間にかマナお姉様は先にゴールしていたらしい。一体どういうことだ?
「あれ?さっきまであの人いなかったような...?ショゴス、いたかな?」
「いエ、覚えている限りはいませン。それに追い抜かレてもいないです」
そしてメェーちゃんたちのこの発言、つまりは完全にメェーちゃんが先行から帰ってきたタイミングでメェーちゃんとショゴスにバレずに移動したってことか。
恐るべし、マナお姉様。
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「いやあ、すごいねえ。その子たちい、そういう風にも使えたんだねえ」
「まあ、僕よりも強いしね」
実際のところ、たとえ僕がメチャクチャに強くなって且つ天地がひっくり返ったとしてもショゴスはまだしもメェーちゃんには絶対勝てない。
というか、マナお姉様は何事もなく話しかけてくるのね。
「あの、どうやってここに?僕、追い抜かれた記憶がないのだけど」
「ん?ああ、ステータスが高くなってくるとねえあれくらいの距離は飛び越せるようになるんだよお」
...まじ?いやどう考えても100mくらいあったと思うんだけど、それをあれくらい?おそらく魔法使い系だと思われるマナお姉様が?
まさかだとは思うが、この世界インフレが酷いのか?
「まあそれは置いといてえ、次の場所にいこっかあ」
...まあいいか。今のところ僕が理解できる範囲ではないし。理解できるようになったらこれくらいって言えるんだろうなあ。
「はあ。このドアを開けた先ってことですよね?」
「そおそお。こっからが重要だからねえ」
こっから、って...今までは重要じゃないんですか。
とにかく、ドアのノブを握りドアを開く。
そこにあったのは、いわく学校の体育館のように広い場所だった。しかも制服を着ている人、つまり生徒がいっぱいいる。
壁には等間隔でドアが設置されており、そこの前で先輩方だと思われる生徒がいろいろ言っている。
「<剣>誰でも簡単に学べるよー」
「我ら<近接格闘術>に全て任せよ!」
「<暗殺術>.........」
「近接戦闘が苦手?だったら<戦闘知識>にきてね!」
...一瞬、ほんと一瞬だが。なんというか、部活動とかサークル活動の勧誘に見えたのは僕だけなのかな。
これさ、多分<3単元>の内<戦闘>の授業を決める場所だよな?
「うん、いつも通り賑やかだねえ」
...この世界、本当に僕の普通が通じないな。まあどんな人の普通も通じないんだろうけど。
ヨグ=ソトースっていうのはまあ、時間と空間を操れそうな神様だと思ってもらえれば。




