心優しき養父母
ちょっと短め?
目が、痛い。
いや、この場合は視線が痛いと言うのか。
今は真夜中と言うほどでもないが、しっかり夜だとわかるほど暗い時間。7時ともいう。
その時間に、やけに、こう、なんというか、目がいってしまう服を着た女性が2人。いや厳密には女の子2人だが、ともかくそんな2人が大通りを歩いている。
それはもう、変な目で見られまくるわけですよ......あ、なんかカップルっぽい男性の人が女性にどやされてる。ざまあ。
まあ、見られるのはマナお姉様だけなんですけどね......なんか言ってて悲しくなるから、別のこと考えることにしよう。
「...なんか、意外と寒くないんですね。一応1月なので寒いと思っていたんですが」
「この服はねえ、強めの<保温>をかけてあるのお。ずっとずっと、あったかいまんまだよお」
「うーん、さすまほ」
魔法が強すぎだろ、この世界。
「あ、そおそお。もうすぐレストランに着くからねえ、一応心の準備だけはしておいてねえ」
「え、あ、はい」
おお、かれこれ1時間くらいこの苦行に耐えていたわけだが、ついにそれが終わるか。
最も、それ以上の苦行があるのかもしれないけどな。
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「いらっしゃいませ、<ヒルド家>御一行様でございますね?お話は聞いておりますので、ご案内いたします」
「いつもありがとうございますう」
「いえいえ、ゴア様にはお世話になっていますので」
店内で受付の人?がマナさんと何か話をしている間に、周りを確認する僕。
高級レストラン。そう思わせるオーラが出ているように感じるし、そんなオーラが気のせいであったとしてもここはとても良いレストランであることは間違いないのだが。
確かに、僕は今まで高級レストランなんていう場所には行ったことがない。前世は記憶がないのでなんとも言えないが、今この世界に限ってはどこぞのボロ店にしか行ったことはない。元々母さんと一緒に出かけた場所は教会と図書館しかないからな。
だが、そんな高い敷居の店に入ったことのない僕でもわかる。
「すっご...」
埃ひとつない床、高そうな絵画、奥に見えるコックやその他従業員の服の清潔感。
さっき見たかぎりだと周りにある建物の何倍も広く大きいように見える建物の外観は、どこかの貴族の館かというほど大きい。
また、今いる1階の座席数およそ3×20席は全て満席になっているにもかかわらず、騒々しさは一切ない。
「マリアちゃん、行くよお」
「わ、わかりました」
当たり前だが、マナお姉様と喋る時も声は大きくしない。この静かな食事の場を荒らすのはマナー違反だろう。
階段、それも螺旋状のものを登る。登って登って、およそ1分。
目の前には、大きな扉。さっきの従業員と思われる人が扉を開くと、そこは廊下だった。
廊下を進む。とりあえず周りを見ながら...ふむ。
普通、廊下には壁がある。屋内なのだから当然だ。
だが、この廊下にはそれがない。いやちょっと違う、扉が壁になっているんだ。
言い換えるなら......
「扉が...敷き詰められてる」
「<空間拡張>っていってねえ。ドアの先の空間がものすごく広いんだってえ」
魔法は本当に万能である。おそらく、扉がギリギリ開き切れるサイズの小部屋が扉の奥にはあって、それがたくさんあるような感じだろう。
建築士涙目、スペースがたくさん確保できるんで、部屋数も多いんだろうな。
そんなことを考えているうちに、行き当たりにたどり着く。まあ扉があるんでね、本当に行きあたりなのかは怪しいが。
「この部屋でお待ちになっておられます。それではごゆっくりどうぞ」
「ありがとうねえ」
「あ、ありがとうございました」
ぺこりと、頭を下げた従業員さんが去っていく。それを遠目に、大きく深呼吸をおこなっておく。
「すうぅーー、ふうぅーー」
冷静に、何が起こるかわからない場所に今から行くんだ。落ち着いて、僕は今から養父母に会うんだ。
大丈夫だ、問題はない。今のところメェーちゃんたちは出てきていないし、そこら辺わかってくれているのだろう。
ただまあ、何をやっても心臓の鼓動は速いまま、体の震えも止まらない。
いやーすっごい緊張すんだなあ。
マナお姉様に言われるまでもなく、僕はしっかりと覚悟を決めてきた...はず。
いや、はずじゃダメだろう。何考えてるんだ僕。
「大丈夫そお?」
「ダイジョーブだと、思います...」
なんかカタコトになる言葉は、明らかに僕が大丈夫じゃないことを物語っている。
が、マナお姉様は知ってか知らずか
「ん、わかったあ」
と言いながら扉を開く。緊張なって、所詮は心。押さえつけられなければいけないという考え方...なのかな?
まあ、いいか。
「その子が、養子か」
開かれた扉の向こう、男性はそういった。
特徴的...ではない。普通の、だがダンディなおじさん。そんな姿の男性。
「ふうーん」
急に体が持ち上がる。脇には、計2本の手の感触。
「ふえ?」
「魔力はいい感じ、スキルも...そこそこってとこかしら」
女性の声がしたが、今のは僕のことなのか?
確か...そう[鑑定]によってスキルは見られてしまうんだったっけか。
「おかーさん?人に了解なく[鑑定]するのはダメだよお?」
「それはあなたたちだけでしょ。第一、危険人物だったらどうするのよ」
「...私い、おかーさんに言ったよね?信頼できる人だ、って」
ほう、マナお姉様は僕のことを信頼できる人だと思ってくれているのか。
まあマナお姉様のことは信頼してるし、そこは無問題だが。
なるほどね、了解なくして[鑑定]をしてはいけないみたいなルールもあるのか。
一応覚えておくか。
「ふむ...君の名は?」
男性が聞いてくる。しっかし先に名乗らない人が多いな、この世界。
「亡き母に、人の名を聞くときはまず先に自分が名乗ることと教えられました」
「...それもそうだな」
そして、人の名を〜を聞いて納得する人が数多くいるのもまた事実。
ほんと、わけわからん。
「俺は、ゴア・ヒルドという。そして君を持ち上げている女性が家内の、」
「あら、ごめんなさい。持ち上げたままだったわね」
ストン、と地面に下ろされる。
「私がシナ・ヒルド。本当は長男のキリアもくるはずだったのだけど、今日は都合が合わないみたい」
「私も結構無理矢理時間を作ってきたんだけどねえ」
...ふむ、ギスギス?なのかな。若干マナお姉様が親に対して辛辣に感じる。
「マリア、という名を亡き母からいただきました」
「ふむ、マリアか。いい名前だ」
「あら、とてもかわいい名前じゃない」
「ありがとうございます。この名前は気に入っているので、これからもそう呼んでくれるt」
「と・こ・ろ・で...」
いや、おい。流石に人が話している時に会話を重ねんなや...って!?
いつの間にか、シナさんがめちゃ近づいてきている。普通に怖いし、顔に浮かべている笑みも少し嫌なものなんだが。
「あなた、宗教に興味ないかしら?あるわよね?よし、入信おめでとう!」
「「やった(あ)!!」」
「これで転生者、というか魔王がまた入ってきたわね!」
「これでついに我々<反聖教>も金昇格間違いないだろうな!」
「いやあ、これで<ギルドズパーティ>も卒業に一歩近づけるし、WINWINだあ」
「「それな」」
「ちょっと待てええ!!」
「「「???」」」
え、何。今のそういうやつ?マジで?
というかなんで勝手に入信が決まってんのさ。おい。
変どころの騒ぎじゃなく、頭いかれてるでしょ。
マナお姉様もなんですか、さっきまでのギスギスはなくなって逆に嬉しがるとか、というかWINWINなわけないでしょうが。
WINWINの意味知ってる?互いにメリットしかないことを言うんだよ?僕が入信したところで、僕のメリットはないでしょう?
そして<反聖教>とはまた、物騒な名前だな。いかにも神に逆らいそうじゃん。
そして!!今さっき、確かに言ったよなシナさん。"魔王"って。
「......ああもう!なんでこの状況になったかだけ教えてくれ!」
18時にまたお会いしましょう




