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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第一章 未狂理解不能
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胡散臭いとか言わないで

勇者パーティに魔王がいるお話とかは、近年だとそこまで珍しくないですよね。

「うーん、困ったな。勉強道具を買いにきたはずなんだけどな、爺とも離れ離れになってしまったし...それに、不思議なファンの方もいる」



 チラリと僕の方を見る<勇者>。いや、いずれ<勇者>になるってことはまだ<勇者>ではないか。



 確かに、僕もまだ<魔王>ではない。種や因子を持つだけではまだ<魔王>ではないのかもな。



「爺との合流は...ダメそうか。せめて昼のタイムセールが終わらないとこの人だかりは越えられそうにない」



 さっきまでパニック状態でもあったので周りが見えていなかったが、ちゃんと周りを確認すると、どうやら僕たちは出店と出店の間にいるらしい。



 まるで土地を奪い合うかのように出店が置かれていたのに、なぜこのような隙間があるのか。



 理由は明白、出店のある商店街側の反対側に路地があるため。



 この大盛況といえど、路地を塞ぐことはできないのだろう。



「この路地を進むしか、なさそうかな」



 立ち上がる<勇者>。おそらく路地を...やべ。



 僕もすぐに立ち上がる。ここまで熱狂的なファンなら、確実についていくだろう。



 <魔王>とバレないようにこの役になりきっているんだから、せめて細かいRPロールプレイをしなければ。



「路地を行くのですね!ついていきます!」

「あはは...そうだと思ったよ」



 ほうら大正解。



 ============================================



 路地を進む。ホラーゲームとかによくあるバカみたいな暗さはなく、だが明るいわけじゃない道。



 所々に看板やドアがあり、いかにもな雰囲気が立ち込めている。



「そういえばさ」

「はいぃ!」



 即座に反応する。<勇者>様が一体僕になんの用事だろうか。



「君はどうして昼の商店街に?王都の中央商店街は混むことは有名なはずだけど、付き人もいないみたいだし」



 あ、有名なんですねアレ。5歳まで他の村にいたんで、全く知りませんでした。



 というかエイルさん全く伝えてくれなかったんですが。一体どういうことなの。



「僕も勉強道具を買いにきたんです!まさかまさか、<勇者>様と一緒にできるとは思いませんでしたが!」



 とりあえず本当のことを言っておく。言葉にするとさらに意味がわからなくなるな、<勇者>と一緒にとか。



「なるほど...君も<国立学園>に?」

「"も"ということは、<勇者>様も!?ああ、なんという幸運!!」

「あはは、君のことだからそういうと思ったよ」



 ふざけるんじゃねーよ、何がそういうと思っただ。



 こちとら<魔王>。<勇者>と同じ学校とか、あまりにも最悪すぎるのですがそれは。



 幸運どころか不運、突き抜けて大凶といったところか。



「どこの<パーティー>に入る予定...おっと、行き止まりかな?」



 立ち止まる<勇者>と僕。目の前には、行き止まりにポツンとあるお店。



 ガラス張りの壁と木製ベンチ、それと樽が置かれている。



 外から見る限りだと中も木造風になっていて趣のある店だが、ふむ。



 えーっと、店の名前は......



「<ナイル&ホテップ商店>か、面白い名前だね」



 ...悪寒がする。絶対に入ってはいけないような、そんな気が。



 心なしか、メェーちゃんも震えている。ショゴスがこの場にいたなら、絶対にやめといたほうがいいと言ってくれるだろう。



 しかし、だ。



「中の商品棚にペンとか置いてあるみたい。まだまだ太陽も登ったまんまだし、とりあえずここで買い物をして行こうか」

「はい!」



 決定権は<勇者>にある。あくまでも僕はついていく側なんで、意見はできないしするつもりはない。



 <勇者>がドアに手をかけて。



 刹那、僕の目の前が真っ暗になった。



 ============================================



「マリアちゃん、大丈夫か!?」

「はっ!」



 という声で目を覚ます。



「よかった、目を覚ましてくれて」



 <勇者>の声が聞こえる、ということは<勇者>も無事か。



 ちっ、この状況で<勇者>だけが死んでくれないかなと思ったが、無理か。



「ああ!!」



 ばたりと倒れる。生きているのであれば、まだまだRPは続けるだけだ。



「だ、大j」

「<勇者>様に起こされた...なんて幸運なの、僕は!」

「...あ、あはは...」



 これには<勇者>も苦笑い。これくらいはしないと熱狂的なファンではないね。



 ゆっくりと体を上げながら、周りの確認を行う。



 メェーちゃんが今自分の手元にないのが気になるが、まずは確認からだ。



「えっと、確かに<勇者>様はあの店のドアを開けようとしましたよね?」

「...すごいな、結構冷静なんだね。確かにその通りだよ」

「えへへ、それほどでも!」



 そう、確かに彼はあのドアを開けようとしていた。



 確かあの店の中は木造建築風だったはずだが、今この部屋は違う。



 暗い、とても暗い部屋。いや店だ。



 今僕が尻をついている場所は、床についている手の感触からカーペットだと推測できる。実際に床が他の床と比べて赤いし、他の床は逆に汚い焦げ茶。



 立ち上がって後ろをみると、そこにはドア。



「玄関、ってことは店の中みたいですね」



 しかし、残念なことにガラスの壁は曇っている。外は確認できないみたいだ。



「すごく冷静なんだね...僕なんか君を起こすことしか考えられなかった」

「いえいえ!<勇者>様の方が100倍すごいですよ!起こすことをまず真っ先に考えることが、こういう状況で生き残れる人の特徴です!」



 知らんけど。



 まあでも、すぐに起こそうという考えに至ったのは素晴らしいと思う。優しさが滲み出ているからこその考えだろうし。



 絶対いい<勇者>になるよ、こいつは。僕としてはなってほしくないけどね。






「お目覚めですか」



 知らない人の声が聞こえる。ちょうど窓の方を見ていたから、背中の方から。



 <勇者>の警戒している顔を見て、ゆっくりと振り向く。



 少し小太りの肌、ハゲている顔は優しそうだが、つけているエプロンにはありえないくらい大量の、赤黒い何かがこびりついている。



「あなたは、ここの店主ですか」



 <勇者>が話しかける。やっぱ僕よりよっぽど冷静なのではないだろうか。



「ええ。それ以外に何があるのでしょう」



 いかにも怪しい自称店主は、そう言いながら奥へ進む。



「少々お待ちを。やけに暗いですものねえ」



 ......そうだ、今のうちに<インベントリ>を確認しておこう。



 <勇者>や店主には見えないはずだ。電気をつけたタイミングでやれば、あの光も見えないはず。



 ーインベントリーーーーー


 (ショゴス)

 人形(メェーちゃん)


 ーーーーーーーーーーーー



 カチッというスイッチの音。



 それと同時に<インベントリ>から取り出す。



 急な白い光。目は眩むが、位置はしっかりと覚えている。



 光に目が慣れていく。やはりというかなんというか、内装は全然違う。



 木造風なのは変わらない、が。圧倒的にボロボロで、蜘蛛の巣すらはっている。



 所々穴は空いているどころか、なんと屋根の半分が吹っ飛んでる。



 もちろんだが吹っ飛んでいることで見えている空は、圧倒的なまでの漆黒に包まれている。



 深淵とまでは行かずとも、不気味なことに変わりはない。入るまでは昼間だったという事実も、恐怖を助長してくる。



 不意に、手に重さを感じる。見ると、本にちょこんと座った人形が右手の上に出現していた。



 両手で本を持つ。とりあえず話かけはしないが、メェーちゃんには僕の思考が伝わっていると思うし、<インベントリ>にいる間にショゴスにも伝えてくれているはず。



 それが正しいことの証明として、まるで反応を返さない。



「よ、ようやく目が...あれ、君のその手に持っている本と人形は?」



 お、<勇者>の目が回復したか。



「あ、僕召喚師(サモナー)なんです!まさか<勇者>様にお見せする日が来るとは!」



 本当に来るとは思わなかったよ、まさかこんなに早く来るなんてね。



「へえ、召喚師なんだね。珍しいものを見れたなあ」



 召喚師は珍しい、というのは初めて聞いたな。



 ただこの世界では魔獣やら盗賊やらがいるみたいだし、戦闘面を他人任せにしなきゃいけなさそうな召喚師は不人気なのかもしれない。



 まあ、神話生物を召喚できる特権に比べたらね。人気なんて選考基準にすらならん。



「さてと。皆様、本日はご来店いただき誠にありがとうございます」



 ハゲのおっさんはいつの間にかレジにいて、そう僕たちに言ってきた。



 こちらとしてはさっさと帰りたいくらいなんですが、まだ帰ることはできないみたい。



「当店では、基本皆様のご要望にお応えした商品を取り扱っております。私に言ってくだされば、例えどんな商品であろうとも売って差し上げましょう」



 結構です。と言いたいところではあるが...



 流石に店にきたのに何も買わないのはモラルに欠ける。嫌な予感がする店ではあるが、何も買わないのはまずいだろう。



「では教科書とノート、筆記用具はありますか?」

「なっ、マリアちゃん!?」



 それともう一つ。もしここの店主が、かの有名な神話生物なら。



 何も買わないで帰ろうとした場合、死ぬかもしれん。モラルに欠けるからのような、理由付きでね。



「もちろん、ありますとも」



 ハゲ店主が店の奥に行く。今のうちに伝えとかなきゃな。



「<勇者>様、ここは一旦僕に任せてくれませんか」

「え、君が?」

「はい。あの店主、どう考えても怪しいですし。何より<勇者>様が傷付いてはいけませんから」



 本当はどうでもいいんだけどね。



「...わかった。ただ、君の買い物には付き合わせてくれ。俺の代わりに君が傷つくのは、<勇者>としてはありえないことだからね」

「わかりました、くれぐれも気をつけてくださいね」

「君もな、マリアちゃん」

「はいぃ!!」



 と返したが、マジかよ。



 <勇者>もついてくるのは想定外だが、いやはやどうするか。



 流石に断れる人間じゃないしな。しょうがないが、より一層気をつけなければ。



 あのハゲ店主...ニャルラトホテプに。

ちなみに<国立学園>を学校と呼称しているのは、分かりやすいという理由が一つと、転生者が揃って学校と言ったからという設定があります。

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