イタクァ戦② でんき、あるいはいわ
バイクに見入っていたら、いつの間にか0時でした
剣を構え直す。倒れないのなら、もう一度切るまで。もしも他のことをしてくるのなら、それに対応するだけだ。
「いや、いい。そんなことどうでもいい」
そう言いつつ腕を広げる目の前の存在からは...
...高揚感を少し感じた。
「興味が湧いた。傷をつけられるのは久方ぶりだが、傷をつける生命に会うのはさらに久しい」
さっきまであった、空間を埋め尽くすほどの殺気が無くなった。
「名を聞かせてもらおう」
「...簡単に名乗るほど安い名じゃない」
「そうか。ではもう一度聞こう」
「
。お前の名はなんだ」
っ!?<魔力>が込められた言葉を!?よく分からないが、それで魔法を行使することは可能か...?
いや、可能かどうかはどちらでもいい。大事なのは、何が起こるかわからないことだ。
先程までの話からして、やつは...
「ひっ!?」
急な呼吸、やはり<強制>の類か!
「くぁっ、はぁ、はぁ、はぁ」
「抵抗した?まさか、しかしさらに興味が湧いた」
ベルトにつけていた<糸逃しの形代>が灰になった。装備者に対する<強制>に対して身代わりになるが、秒も経たず燃え尽きるのは見たことがない。
ただ紡いだ言葉だけでここまで強力な魔法になるとは。
「なるほど、道具か」
だが効くのなら...幸いなことに<クロタマ><シロタマ>を狩っていたおかげで<インベントリ>の底に
「ではこれでいいだろう」
「あがっ!?」
か、風が!体を、貫いて...
音の無い不気味な指鳴らしを合図に、風が押し寄せて…!
<インベントリ>の操作が、間に合わない...
「ソ...ソルス、バミア...」
肺が勝手に収縮して、喉が自動で声を紡ぐ。
まるで手馴れているかのように、俺は名前を言わされてしまった...
「ソルスバミア...いや、苗字がバミアでソルス・バミアか」
「かはっ、はぁっはぁっ、ぐっ!」
おぞましく、強い力が身体を離れ、思わず脱力してしまう。
膝をつくが、何とか立ち上がって前を向く。この程度で立ち止まる訳にはいかない。
だが、まずい。名前とは魂に紐づいたもの、本来傷つけることの難しく、だからこそ傷つけられれば有利であり通常の<決闘>では禁止されている名前を対象にした攻撃が可能になる。
人間ならそんなことはしない。そも、殆どの場合人間が戦うのは名前の無い魔獣であり、だからこそある程度死のリスクを犯してまで戦える。魔獣は名前を知ってもできないから、人間が、人間を攻撃する時にしか使えないから。
最も、名前を対象に攻撃した場合肉体を傷つけることはできず、肉体と魂のどちらかが死んだ場合もう片方を傷つけても意味をなさなくなる。故にあの殺人鬼は異常だった訳だが...
「知っているとも。だがそんなことをする意味があるか?その気になれば名など、いつでもわかる。私は...我は、お前に興味が湧いたと、そう言っただろう?」
やはり、異常な存在であればできるらしい。名前を知られた以上より確実にすることが出来る。
魂を読み取れればその名は分かる。それがいつでも出来るともなれば...
分かってはいたが、神話生物との戦いでは命を本当に賭ける必要があるみたいだ。
「何度も言わせるな。お前に興味が湧いた、ここでお前は殺さない」
「どういうことだ?」
「こういうことだ」
バチン!
今までとは違う、吹きすさぶ風。軽快な指鳴らしとともに来たそれは、自分を包み込んだ。
少し身体が軽くなる感触は、さっきまでのおぞましいそれとは真反対のものだった。
「な、何をした!」
「我らは、人間にとって神とすら言われた。それは死を超越し、命を創造したからではなく、我らの行動が神の行いそのものであったから」
神の、行い?
「すなわち、加護と災厄。邪神と呼ぶものもいたが、単に気に食わないだけだ」
「じゃあ、この風は...」
「それは我の興味の表れ。お前が一体どのような道を辿るのか、その風から見させてもらう」
だが...
「安心しろ、<魔王>に情報を流すことは無い。奴らにそのような情報は要らんだろう」
そう、か。いや、だとしても安心はできない。
「何が目的でこんなことを...」
「質問が多い。でもいいぞ、それこそが人間だ」
「...お前たちにとって、俺たちは...」
<召喚>された魔獣と同じようなものなのか...?
ただ扱い易い、道具のような...
「少し違うな。しかし答えは沈黙だ、いずれ分かる」
「なら...」
「さて、そろそろ行かなくては。呼び出しのコールが煩くてかなわん」
背を向け歩き出す目の前の存在は、いや違う。
もうひとつ。
「もう一つだけ、教えて欲しい」
「...?」
「お前の...名前は、なんだ?」
アラビア語であることはわかっても、読むことはまだできない。
当然、これは相手に塩を送る行為だ。だが...
「ただ...少し、気になった」
「ふ...いいだろう、とは言うが実は我も名を覚えておらぬ」
「何?」
「永き時を生きたからな。必要のないものは忘れた。しかし、お前が知りたいのは名前ではなく、呼び名であろう?」
呼び名。確かに、それがあれば少なくともお前とは呼ばなくなる...
「聞かせて欲しい」
「...我は、■■■■」
「イタク...ァ?イタカ?」
「どちらでも構わぬ。共に、我が名だ」
満足したように、...イタクァ、は再び歩み出した。
「ではまた会おう、太陽の意味を持ちうるか、再びの邂逅まで道のりを楽しむとしよう」
音の無い、不気味な指鳴らしとともに。
イタカは、姿を消した。
ようやくですね
イタカとは北極圏に漂う精霊に近いらしい神話生物です。旧支配者側の存在でもあります。
風と冷気を特に扱い、多数の奉仕種族を抱え込む、残忍で凶暴な...あれ、そんな凶暴だったk(大嵐の音)




