あまりにも大きすぎるムチと、それに見合わないアメ
「つ...連れてきた?、よ」
うん、ありがとう。だが今僕は前が見えなくて、且つ喋れない状況にあるんだ。
「え?...やっぱり、私が...」
あ、いや、メェーちゃんが悪いわけじゃないんだよ?あくまでも僕がやってほしいと言ったことをやってくれたんだから、そんなに泣きそうな声を出さなくても...
とにかく、今このまんまだと僕が死ぬからね。それを避けるためにもショゴスと意思疎通をしたいから、ショゴスとの会話をアシストしてくれ。
声は聞こえはするが喋れないことに変わりないからね、僕が考えたことを読み取って、それをショゴスに伝えてほしい。できる?
「...う、うん」
よし、じゃあショゴスに...
「で、でも、ショゴスは今目玉だけだよ?」
.........え?目玉だけ?まじで?
「うん...」
oh...あのドラゴンの、まあ仮に<ドラゴンブレス>とでも呼ぶが、その<ドラゴンブレス>から僕を守ってくれて、そのダメージで体が蒸発とかしちゃった感じだろうか。
うーむ、顔をショゴスで代用とかできるかなと思ったんだけど。まあ確証がなかったし、潔く諦めるとしよう。
ということは、だ。Bプランの、回復できそうなものをこの場で探し出す他ないということだね。
「...私?」
はい。さっきから色々やってくれて申し訳ないんだけど、よろしくお願いします。
使えそうならば、ショゴスを使ってくれても構わないから。そもそも目玉だけのショゴスをどう使えという話ではあるけどね。
「わ、わかった!ちょっと待っててね...!」
タッタッタッという足音が、徐々に離れていく。
ドラゴン(仮)が守っていたであろうこの場所は、ゲームとかでありがちな宝物庫だと思って良さそうだよね。あの後からドラゴン(仮)から攻撃はないし、入った時点で宝物っぽいものはたくさんあった
実際、僕が飛び込んだのは金貨の山だった...ん?
あれ、まさかとは思うけども。金貨の溶けた物,,,つまるところ金が溶解して、それが皮膚にくっついて。
それがめっちゃ固まって、皮膚ごと剥がさなきゃいけなくなった感じか?コレ。
じゃあなに、<ドラゴンブレス>って金を溶解させるほどの熱気があったってことか。
...それならショゴスの甚大なダメージもわかるな。金って確かものすごく高温じゃないと溶けないはずだから、それを火傷レベルの熱までショゴスが遮断してくれたんだ。
やっぱショゴスは有能だな。死なないでくれよ、ショゴス。
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「これってっ、使えそうかな...?」
ドガシャーン、という轟音がすぐ近くで聞こえる。なんか色々入ってそうな箱でも置いたっぽいけど、そこには何が入っているんだい、メェーちゃん。
「え、えっとね...」
カパッという音が聞こえ、ガシャガシャという音も聞こえ始める。何かを探しているっぽいけど...
「こ、これとか...どうかな?」
と、言われましても。一体何がそこにあったかがわからないからな、コメントができない。
もし使い方がわかるものがあるのなら、片っ端から使ってくれ。あ、でも剣で斬ったりするのはやめてね。
「わかった...!ふん!」
ピャキーンという音と、皮膚のない顔に急に落ちてくる何かの破片。それと...液体、って。
痛い痛い痛い!ちょ、ちょっと!今皮膚ないんだからもうちょっと手加減してくれ!
...で、なるほど。液体と破片から察するに、いわゆるポーションみたいな何かを使ってくれたんだと思うんだけども。
効果は......お?
少しずつだが、目の前が白から鮮やかな赤に変わる。顔を振って目に溜まっていた血を落とすと、そこにあるのはメェーちゃん。
「ど。どう?」
目は復活したと考えていいな、うん。あと口だが...
「あ...ア...うん、だいぶ良くなったかな?まだ痛いけど」
「や、やったあ!」
鏡とかあったら見たいけど、とりあえずは何とかなったか。
あ、でも腕とか足は動かせなさそう。ということは液体がついた部分だけなのかも。
「メェーちゃん、さっきの液体はまだありそう?」
「うん!ちょっと待っててね!」
と言ってすぐ、紫色の液体が入った試験管サイズの装飾されたガラス瓶を持ってくるメェーちゃん。まだ首が動かせない、というか動かすと激痛が走りそうだからやってないんだけど、その色はまずいでしょ。
...ん?色って確か、なんか階級みたいなのがあったよね。
詳しくは覚えてないけど、紫は確か,,,下から2番目?だっけか。
まあ使わなきゃいけない状況だから使うんだけどね、うん。
「とりあえず、さっきと同じようにして右腕にかけてくれ」
「わかった!」
パキーンという音ともに粉砕された一本のガラス瓶は、破片と共に液体を落とす。
「がっ!」
痛い。引っぺがされるより圧倒的にマシだけど、それでも痛いことに変わらないわ。
が、その痛みの先には動く右手が待っていた。まあそりゃそうなんだけど、それでもね。
まだわからないことがある以上、警戒はしておくべきだろう。ただし、ショゴスとメェーちゃん以外。
で、えーと。肩はまだ動かないけど、肘関節は動くっぽいね。
「メェーちゃん、とりあえず掛けてない場所にジャンジャン掛けておいて」
「うん!」
そしてパキパキと破り始めるメェーちゃん。さっきからずっと笑顔なのが、またかわいいんだよねえ。
って、違う違う。右腕が動くようになったんだから、一度ステータスを確認しないと。
さっきまでなかったものが、腕に現れる。<メヌー・リング>もちゃんと出てくれるね。
んじゃ、<ステータス表示>。
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[名前] マリア
[性別] 女性 [年齢] 6
[職業] 召喚師(クトゥルフ神話)
HP 1/10 MP 20/20
ーステータスーーーーーー
筋力 10
体力 10
敏捷 15
知性 42
精神 245
魔力 54
ースキルーーーーー
言語 Lv7
召喚魔術 LV50 (2)
応急処置 Lv43
対意識 Lv30
(<魔王>の種[発芽前] Lv100 (MAX))
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うわあ、HPギリギリじゃん。減ったことないけど、こうなるとHP1まで減るのね、OK。
あとまた精神値が増えてるよね、一体幾つまで増えるんだよ。
それと、まあ当たり前というかなんというか。[応急処置]も増えているし、[対意識]も増えてる。まあ皮膚ひっぺがしたり溶けた金に触れて意識失ってないんだから、そりゃ増えるよね。
「終わったよ!」
お、ついに終わったか。足先とか関節とか...うん、動く。
立ち上がるが、特に何ともない。うーんと体を伸ばしても、身体中のどこも傷まない。
ふう、とりあえず完治かな。あ、そういえばショゴスは何処?
「これだよ!」
と足元のメェーちゃんが見せてくれたのは、目玉。うん、本当に目玉なんだね。
「掛けたら治るかね」
「やってみるね!」
パリンと割れたガラス瓶から飛び出した液体が目玉に掛かる。が、何も起こらない。
やっぱり体そのものがなくなっている感じか。またはこれが人間に対してしか聞かないやつとかみたいな。もしくは...
まあとりあえずショゴスの体を直す、の前に...
さっきからスースーするんだよね。服がないからなのはわかるんだけど、ここから出た時に服がなかったら大変だからな。
「メェーちゃん、とりあえずショゴスを直せそうなようなものを探しておいて」
「うん!」
スタスタと走っていき、宝の山の中を探し始めるメェーちゃん。
僕も服を探し出さなきゃな。えーっと、とりあえず適当な山から探し出してみるか。
周りを見渡す。あまり認識していなかったが、あの<ドラゴンブレス>の被害は甚大。隠れていたところから入り口までのルートの近くの宝物たちは全部融解して、少し遠くの宝物も所々変形している。
何なら床も一部が焦げているしドアは跡形もなくなっているからね。よく耐えてくれたものだよ、本当に。
まあメェーちゃんに探してもらってるし、多分直すためのものは見つかるだろう。その前に服を探さないとね。
適当にガサガサと漁る。もちろん融解して固まった金なんて掘れないからちょっと遠いところにある山だが。
もちろん金貨だけじゃなくて、なんか強そうな剣とか綺麗に装飾された箱とかたくさんある。宝物庫という見解は正しいな、これなら服とかも...お、これなんてどうかな。
探し当てた布を引っ張り出すと、それは真っ赤なマント。豪華な装飾が施されていて、付けてみればさながら裸の王様のようなものだろう。
だがマントは服じゃない。こいつは使わないし、というかマント自体があまり好きじゃないからな。
さて次々...お、こいつはドレスかな。
それは、まさに美しいの一言に尽きるもので。着ればそのエメラルドグリーンの生地が着用者を美しく着飾ってくれるだろうな。
まあ着ないけど。というかサイズあってないわ。
あとは、と。これは...子供服かな。
まあさすが宝物庫というか。子供服でもめっちゃ豪華で、キラキラとはしてないんだけど安月給の家じゃ買えないような服ではあって、なんか王女様とかが来てそうな服なのだ。
ちなみにサイズは合っている。合っているが、致命的なものが一つ。
何とこの服、背中が空いている。しかも空いている部分の近くの生地が伸縮性抜群なんだが、どういうことだ。他の部分、腕の部分とかはあまり動かせないのに。
...うーん、羽の生えているやつとかがいる、とかか?あり得ない話じゃなさそうだけど、ってそうじゃない。
服探しの途中だったのに別のことを考えてしまった。続き続きっと。
えっと、この服は...大きすぎるな。上半身の分だけなのに僕よりも大きいのはちょっと引くな、羽と同じようなものだろうか。
んでこれは、うーん。男の子用だな、なんかちょっとかっこ良くないプリンスが着てそうな服だ。
で...お、この服は着れそう?
その服は、まあ豪華じゃないが質素でもない、普通...ではない服ね。
ただ、地球にあるような服ではないのは一目でわかる。じゃあこの世界の服かと言われるとそうじゃない。
この世界の服は、まあ村だったり王都の服を少ししか見ていないけど、いわゆる中世の庶民の服装...に似ているやつなのだが、明らかに違うと認識できるからねえ。
奇抜、そう言い表すにふさわしい。想像するに、この服はクトゥルフ神話に出てくるどっかの国の服なのだろう。そんな描写、あったかどうかあまり覚えていないけど、おそらくそう。
どこの国かまでは特定できないけど、僕が着れるサイズなのは間違いない。今は余裕がないから、いつか特定でも暇つぶしにしてみるとして、だ。
とりあえず着てみる。幸いなことに下着類は付属していたし、というかサイズぴったりじゃん。
鏡は......お、ちょうどいいところに磨かれた剣があるぞ。
ふむふむ、鏡なんて見る機会なかったけども。改めて見ると黒目黒髪だな、僕。
意外と似合ってそうだけど、どうなんだろうか。後でメェーちゃんに聞いてみるか...
ちなみに金の融点、つまるところ融解する温度は約1065℃です。参考までにどうぞ。