拝啓、シウズ騎士団長様へ
行と行の間の空白を2行分にしてみました。
読みやすくなっていれば幸いです。
見た目は黒目黒髪ツインテールで、黒いワンピースを着た女の子。肌は日本人に近く、人間として見た場合でも特におかしなところはない。
ただし、そのサイズは5歳児が抱き上げることができるほどで、また持ち上げられるほど軽い。
あ、こっち向いた。可愛い。
じゃなくて。頬は、まあ布とか繊維とかの感触じゃなくて、人間の温もりすら感じるような感触。自分の頬と比べてみても、うん。大差ない。
つまり、この子は生きている。まあさっき抱き上げられた状態で僕の方を見てきたから、それでわかるかもしれないけども。
それでも、動く人形とかの怪談は世界中にいっぱいあるわけだからねえ。
まあいいや。
とりあえず、召喚に失敗したわけじゃなさそうなので、ホッと一息。
『とりあえず召喚成功2体目、なのかな』
『オオー』
ショゴスが触手でパチパチと拍手もどきをしている。多分あれにあたったら吹き飛ばされるんだろうなあ。
などと思いつつ、今抱き上げているこの子を床に置く。すると、自力で立ち上がった。
そして達成してやったりと言ってるようなドヤ顔。可愛い。
って違う違う、まずは対話を試みなければ。何を召喚したかわからない以上、人間に敵対するのであれば抑えないといけないのだ。
『あー、僕の声は聞こえる?』
立ち上がった彼女に、そう伝えてみる。とりあえず日本語で。
コクリ、と頷く女の子。よし、言葉は通じるみたい。
『日本語とか喋れたりするかな?』
ブンブンと首を横にふる女の子。かわいい。
...うーん、喋れないかあ。はいorいいえくらいなら返答できるみたいだけど、どうしよう。
いやどうするかじゃないな。今やるべきことは脱出することなんだから、それ以外はやらなくてもいい。
すぐ脱出できることがわかりやすい神話生物が召喚されて欲しかったけど、この女の子が来たわけだからね。
出入り口はないし、窓も隠し通路もない状態だけども...
まあ、作るしかないか。
右手をつかずに立ち上がる。どんどん再生しているけども、まだ痛いことに変わりはない。
適当な壁に近づき、左手でノック。当たり前だが、あまり響いていない音が聞こえる。
少し左にずれて、もう一度ノック。まだ響いていない。
さらに左に。今度は、響いた音が聞こえる。
この壁ならば、壊せるかもな。
『ショゴス、ここの壁って壊せる?』
『ヤッテミマショウ』
動き出すショゴス。危ないので下がる僕は、とりあえず反対側の壁に寄りかかった。
ふと床を見ると、女の子がこっちまでてくてくと歩いてきて、僕の脚に寄りかかった。かわいいなあ。
...首を振って邪念を遠ざけつつ、目の前に視点を動かす。
およそ部屋の天井まで届くその巨躯から生える、長さ2mほどの一本の触手。
それが、まるで三日月のようにしなりながら後ろに伸びてきて。
ズパーン!
と、部屋中に響く大きな音を立てながら、壁に衝突した。
が、その壁はびくともせず。
逆に、触手の方は粉々になっているのだった。
いやー、まじか。
『ワタシデハムリデシタ...』
『いや、そんなに落ち込まなくても』
見るからにズーンと重い空気が流れる。
ショゴスは、まあ神話生物の中では弱い方なだけで、力は人並み以上にある。少なくとも、今この場にいる生き物の中では一番力が強いだろう。
だが、そのショゴスが無理だった壁破壊。ということは、壁破壊以外の方法を取るしかない。
ずり落ちる僕。座りながら、壁に寄りかかりつつ考える。
...だめだ、思いつかん。ステータスになにか...ん?
あの子が歩いていく。ちょっと悲しい...じゃなくて、さっき壊そうとした壁の方へ。
てくてくと歩く女の子に気がついたのか、ショゴスが道を開けるように移動する。
そして壁の目の前に到達するあの子。少し体を伸ばしている。
そして腕をブンブン振り回す。なるほどな、壁を壊そうとしてくれてるらしい。
とはいっても、なあ。ショゴスが壊せなかった壁だから、流石に壊せないだろうが。
それでも壊そうとしてくれていることはとても嬉しい。ショゴスが何をやっているか理解をして、それを試みようとしてくれているのだから。
『頑張れー!』
と応援する僕。
構える女の子。大きく振り上げた小さい拳は、何者も邪魔することなく壁と衝突し......
ズゴオォォン!!
と大きな音、そして砂煙。
思わず目を瞑り、すぐに瞳を開けて、絶句した。
大穴、じゃない。誇張の一つもなく、壁が一つ吹き飛んでいた。
開いた顎が塞がらない。この規模だと、ショゴスがヒビを入れていたとは考えられない。
一方、壁を吹っ飛ばした本人は両手を上げながらぴょんぴょんしていた。喜んでいる姿はとてもかわいいが、やっていることはあまりにも可愛くない。
不意に、ジャンプを止める女の子。振り向き、そのまま僕の方へ近づいてくる。
てくてくと歩いてきて、目の前へ。僕は、開いた口が塞がらないまま女の子に目をやる。
彼女は口を開いた
「メェー」
開いた口が突然塞がる。いや塞がらず、また開く。繰り返して、まるで痙攣を起こしたかのような動きになる。同時に、体の震えも感じる。
冷や汗。それがまるで滝のように流れ出る。
今、彼女は鳴いた。メェーと、まさに山羊を連想させる声で。
精神がぐちゃぐちゃになる感覚。まるで何かに押し潰されるような感覚。
『ショショショショゴススス」
「テケリ・リ!」
動揺している生き物が話し合う。
「か、壁を壊せそそうの場所をか確認ししてて』
「テケリ・リ!」
呼吸も乱れる。休む暇もなかったからか、着ている服はもうボロボロで。
彼女が近づく。座っている僕の方へ。
女の子らしからぬ、あぐらで座っている僕のところへきて、彼女は僕の足の上で座った。
ポスッ、と頭が胸に寄りかかってくる。特に衝撃のないその行為で、肺の空気が全て外に逃げ出す。
深呼吸。すぐに空気を呼び戻し、そのまま精神を修復する。
...............うん、とりあえずマシになった。
「テケリ・リ!」
ショゴスの鳴き声。動揺しすぎて日本語を形成していないが、命令したことは迅速におこなっていたらしい。
さすが、有能である。
で、だ。
『あ、あのー。えっと...』
見上げる彼女。無礼は許されず、山羊というならば今ここにいる彼女はどちらかでしかなく。
片方は外なる神が一柱の地母神、もう片方はその眷属。
しかし、どちらか間違えれば首が飛ぶので迂闊に言えない。
「メェー」
催促する鳴き声には、血も涙もなく。
...ええい、ここで考え込んでいても仕方がない。
『し、ショゴスの見つけた壁を破壊してもらってもよろしいでしょうか...?』
ちょっとムスッとする彼女。敬語は間違えていないつもりだが、悪いところがあったか...?
ぴょんと飛び降りる彼女は、そのままてくてくと歩いて行き、壁の目の前にたどり着いた。
ふっと振り向く彼女。
『が、がんばれー!』
「テケリ・リ!」
それを予知して応援する僕。ショゴスもわかったのか応援している。
ムスッとしていた表情が元に戻った彼女は、少し上機嫌に腕を振り上げる。
そして、また壁は粉々になった。
目は瞑らなかった。なぜなら砂煙がこっちまでこなかったからで。
砂煙が晴れると、そこには小部屋が一つ。
その小部屋には、壁の残骸ともう一つ。クリスタルと言って差し支えない何かが浮かんでいた。
色は黄色で、淡く発光しているようにも見える。
とは言っても、本当にそうかどうかは確認しないといけない。
立ち上がる。小部屋を眺めている間に近づいていたのか、彼女が飛びかかってくる。
「うわっ!」
急だったもんで声が出たが、なんとかキャッチできた。
器用に体勢を変え、抱き上げられるような形になったところで、彼女は落ち着き始めた。
どうやら、この体勢が一番いいらしい。ここから動こうとしないので、抱き上げている状態ならば、まあ。最低限、死ぬことはないだろう。
壁の残骸で転ばないように気をつけながら、小部屋に足を踏み入れる。
確認した通り、クリスタルと壁の残骸しかなく、特にそれといって変わった様子はなかった。
クリスタルは、小部屋の中心で浮いている多面体。触れても何も起こらず、またその中に何かが浮いているといった様子はない。
ふと、少し目線を感じる。見ると、抱き上げている彼女がじっとこちらを見ていた。
『あー、触ってみる?』
先ほど敬語で話した時にムスッとされたのを踏まえ、今度は敬語なしで聞いてみる。
すると、今まで見せなかったような笑顔を浮かべて、腕の中から飛び出していった。とってもかわいい。
そして飛び出した彼女は、思いっきり腕を振りかぶってクリスタルをぶっ壊した。
...はあ?
キャイイィィイィン!
とても甲高いひび割れる音が部屋中に鳴り響く。
小部屋の中にいたもんで、目がチカチカする。
首を横に振り、無理やり直す。
そして、いつの間にか腕の中に戻っている彼女。
「あ、あ、あ。うん、喋れる...!」
声。その声は彼女から響いてくる。目を見開き、その正体を理解した。
この世界の言語。それを僕は彼女に対してしゃべっておらず、なのに喋ることができるのならば。
彼女が見上げ、こちらをみる。
「こ、この言語であってるよね...!」
彼女は、言うなれば地母神。
闇から生み出された女神であり男神。
「こ、こんにちは!ワタシを召喚できた、め、珍しい人よ!」
黒き森の山羊であり、およそ一番僕らから見て安全な”外なる神”。
「わ、わたしの名はシュブ=ニギュラス...か、噛んじゃった...あ、や、やり直してもいい...?」
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ーTake 2ー
...黒き森の山羊であり、およそ一番僕らから見て安全な”外なる神”。
「わたしの名は、し、シュブ=ニグラス!わたしを召喚できた、珍しい人よ!(こ、今度は言えた!)」
心の声、聞こえていますよ。女神様。
唐突ですが、今回の話の文字数は4444文字なんです。
なかなかに運がよかった...?




