そろそろ出発
しないとですね
「...おはよう」
「あらおはよう、よく眠れたようね」
「おかげさまでな。回復もこの通りだ」
寝起きだが軽く跳んで体調の確認。
ぴょんぴょんしても足から痛みを全く感じないため、治癒は完全に済んだと言えるだろう。
一応足に怪我は負っていなかったということもあるが、今のところ心臓にも負担と言えるものはない。
この状態であれば問題なく魔獣とも戦えるだろう。
「そう...一応聞くんだけど、あの<魔技>って習得するつもり?」
「まあ、もちろんだが」
「はあ。正直言って二度と使って欲しくないんだけど」
確かにあの反動はもう二度と喰らいたくない。メーノも言っていたが心臓が止まってしまうと人間は死んでしまう。
反動で死ぬ魔法があることはメーノからあらかじめ聞いていたが、本当に生と死の境界を彷徨うとは思わなかった。
だがかと言って使わないとはならない。その威力のほどが理解できたからだ。
メーノは<結界>が得意なわけではないが、魔力が高いため自然に<結界>が強くなる。
周回を行うような<魔女>職業のステータスにおける魔力は平均12000であるが、メーノの魔力は現在40000近く。
3倍以上の結界の硬さであるため指標として見るどころかまず割れない。<ダンジョンボス>などの強力な敵であれば割れることはしょうがないが、本来人間に割れるものではなくなる。無論俺の筋力であっても割ることは非常に困難だろう。
それを俺は割った。あの<魔技>は割ることに成功したのだ。
それほど威力のあるものなのだ。どれだけ反動が怖かろうと使わない手はない。
生きるためには相手よりも早く目の前の相手を殺すこと。これは学校で最初に習う言葉でありこの世界の真理、最も大事なこと。
それに習うのであれば、高威力高速少ない後隙を完備しているこの<魔技>は反動が起こらないように何度も使用して体に覚えさせる他ない。
「練習はどうするの?」
「それなんだが、できればこの<ダンジョン>内で完遂したい」
「...理由を聞いておこうかしら」
理由は比較的単純だ。だがそれを伝えるためには情報を少しばかり開示しないといけない。
可能な限り、開示しても問題ない情報を選ぶしかないか...
「俺とマイゲスはある事件に巻き込まれた。それは伝えたよな」
「ええ。それが関係しているの?」
「そうだ。そしてその事件の犯人なんだが、それは屋敷を爆破した犯人と同一であると思っている」
「え?」
「それだけではない。その犯人というのは、実際には<神話生物>なのではないかと思っている」
「ええ?」
これくらいか。一応メーノは心を読めないので心置きなく思考できるが、正直なところ犯人はヌトさん以外あり得ない。
そもそもあの武器を製作していたのは、この世界でただ一人ヌトさんだけであるのは司祭様の言動を見るに本当なのだろう。であるのであれば犯行を計画できるのもヌトさん以外いない。
もちろん矛盾は生じる。特に外に持ち出せない環境下で一体どうやって銃を持ち出したのかは議論の余地がある。が...
<聖神信仰教会>に<神話生物>がいた。っこれ自体はあり得ないはないではない。というかそうだった。
クタさん。彼女は実際のところ<神話生物>の1種であるわけだが、そんなクタさんを俺たちはよく知っている。
なぜなら<聖神信仰教会>における会計委員会会長だったからだ。彼女の手の上では<聖神信仰教会>且つ金銭に関係するすべてのことが転がっていた、そう言える存在だったからだ。
今は落ち着いてきたものの、クタさんが離脱した後は金庫内の金銀財宝のうち9割がなくなっていて混乱が生じたと聞く。またその後会計委員会の立て直しにもかなり時間がかかったとも。
まあ今はそこはどうでもいい。今問題なのは<聖神信仰教会>にも<神話生物>がいた、という点。
誰にも見られず物を持ち出すことくらい、<神話生物>にとっては造作もないだろう。それがどれだけ最高機密であり、秘密保持のために最高峰の技術で漏出を防いでいたとしてもだ。
ヌトさんが<神話生物>ある根拠は何もない、だからこの説はただの突拍子もない譫言であるはずだが実際に<聖神信仰教会>の中に<神話生物>はいた。疑うことは無理もないだろう。
「その対策に、ってことだ。奴らの硬さと強さ、速さはメーノも知っているだろう?」
「そうだけど...まさかだとは思うけど、この<ダンジョン>攻略が終わったら...」
「俺は少なくとも正面衝突することになると思っている。敵が<魔王>の味方である以上、戦闘は必然だろうしな」
「あわよくばそこで殺害、戦力の削減にも...ってことね」
正直奴らに対しては生半可な作戦では勝つことすらままならないだろう。あの時だって俺やマイゲスですら1週間はベッドから出れなかったのだから、他の対<神話生物>でも同じことになるだろう。
だがそのあわよくばを狙えるのであれば話は変わってくる。おそらく<直前回避>による攻撃は俺自身が成長すればさらに強くなるだろう。
そしてそのためには俺自身が<直前回避>を扱えるようにならなくてはならないし、最速で<ダンジョン>終了後すぐになってしまうことを考えるとこの<ダンジョン>の中で完全に扱えるようにならないといけない。
「そういうことだ...協力、してくれるか?」
「私を誰だと思ってるの?もちろん協力するわよ。どうせ使わないでって言っても聞いてくれないんだろうし、それだったら完全に使えるようになってくれてた方が心臓に悪くないし」
「...少し怒ってるか?」
「別に。さあ、みんな起こすわよ。そろそろ探索も進めないと、4日後?に間に合わないわよ」




