本棚のある<ダンジョン>
眠いのでまた明日
扉を開く。そしてすぐに周囲の確認。
「これは...」
広い、というのは合っていた。少し遠くを見るだけでは全く壁が見えない。
いや壁ではなく、実際には本棚だろうが。というのも壁と一体化する形で本棚がずっと続いているからだ。
そのため魔獣がいなければ本当にただの図書館だ。そう、魔獣がいなければ。
「...数、1」
「構えます」
「頼む」
カミラが発見した、というか俺でも遠目に見える位置にいる人型の魔獣。
二足歩行腕二本、異形ではないが明らかに体の色が灰色であり、また長い手と爪に体に巻きつける程度の布が、それを人ではなく魔獣だと断定させる。
そして断定されたのなら殺すまで。まだこちらに気づかれていないうちにシートが弓を構え、
「...!」
射る。放たれた矢はしっかりと魔獣の頭に命中し、そのまま吹っ飛ばした。
飛び散る血で本が濡れる。首を落とされ倒れ込んだそれは...もう動く様子がないようだ。
「魔獣について知りたいので、ち、近くに行きましょう」
「了解した」
警戒を怠らず左右を確認しながら死体の元へ向かう。
「っと、これは...」
そして、その姿を見たことがあることに気づいたのは、近づいて見た時のことだった。
「...これ、グールってやつか」
「厳密には<食屍鬼>というらしい。クタさん...クタニドが言っていた」
<食屍鬼>。ナグとイェブが生み出す<神話生物>のひとつが、ここにいる。
それはつまり、
「やはりここのどこかに、神話に関する記述のある本があるはずだ」
「この膨大な数の本の中にか?」
周りを見渡す限りの、本本本。これらの中から探すのは骨が折れるだろう。
だがある程度どこにあるかの見当をつけるヒントはもらっている。
「カミラ、安全地帯になりそうな場所はあるか?」
「うーん...さっきから探しているのですが、い、今のところありません」
「ない?そんなことはないでしょう」
「私もそう思っています。ですがありませんからわからないんです」
ふむ、彼女のスキルでわからないとなると...
「秘匿されていても大体はわかってしまうカミラのスキルでわからない唯一のことは隠されている宝箱や部屋です。それが安全地帯になっているのでは?」
「俺もそう考えていた。そうなると、やはりしらみつぶしで調べていくしかないだろうな」
「近くに行けば流石に特定できますから、とりあえずは移動しましょう」
「そうね、ここで燻っていてもこいつらがやってくるだけだし」
============================================
すでに5時間?が経過した現在、マップのほとんどが埋まり且つ階段すらもう見つかっている、そんな
「あ、マップ埋まりました」
いや違う、このマップにはないらしい。となると次の階層に行くしかないか。
「...!と、ふう。これだけ数が多いと目が疲れてきますね」
「残りの矢はどうだ、シート」
「あと...64本。これだけあれば足りますけど、次の階層から<食屍鬼>の数も増えてくるでしょうから、処理するのに誰か手伝って欲しいところです」
奴ら、行動自体は遅いものの頭を狙わないとそこまですんなりと倒せる相手ではない。
剣で戦うこともできるが、奴ら異様に攻撃力が高く、すでに回復薬を1本使わされてしまっている。
可能な限り接敵時間は少ない方がいいだろう。相手の攻撃も回避に集中し受けることや受け流すことはしないように注意する。
矢は有限だ。<ダンジョンボス>で必須になる場合を考慮して、30本は残せるように動きたいところだ。
「さて、ではおりましょうか階段はすぐ近くです」
「おう」
角を数回曲がり、またその間にまた接敵しつつ先へ進む。
他のダンジョンと同じく、同じ景色が続く殺風景な道のり...というわけではなく。
実際、ここにある本の全ては違うもののようで、その全ては見たことのない本だ。
あの広い図書館に収まりきらないほど、世界中に本があるということだろう。
「...見えました、次階層への階段です」
「俺たちも視認した。青の階段だな」
階層の角に設置されている階段は、下の方に伸びている。
そこに入ると、中は薄暗かった。<焚書区域>自体は謎の力で明るいが、ここは違うらしい。
だが本だらけであることは変わりない。何か潜んでいることを考慮して...
「...あ」
「ん、カミラどうした?」
「ここ...安全区域です」
「へ?」
ここまで続いているのも皆様のおかげです。いつも読んでくださり本当にありがとうございます。




