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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第六章 殺人狂気神話
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黒い線で反復横跳び

 その場には<警察>のケリンとジド、そして俺とマイゲスがいた。



「...今、なんて?」

「だから、それと似たようなものの研究をしている、って言ったんだよ」



 そしてその全員が、彼女の言葉を聞いた瞬間に身構えた。



「おいおい待て待て待て。さっきも言ったがその事件の犯人は私ではないぞ」

「神に誓ってか?」

「もちろん。このヌトは、神に誓って犯人ではないと約束するよ」



 そうは言うが一気に信じられなくなった。



 目の前の<魔道具>職人は、本当に犯人の可能性が高いからだ。



「んなこと言われてもな、あんたのことを怪しく言うなっての方が難しいぜ」

「そんなこと...あ、それなら...」



 と言って<インベントリ>を漁る容疑者。



  <インベントリ>から逃げるための<魔道具>を出された時のため、抜剣をしてすぐに切ることができるようにする。



「えっと...確かここらへんに...あったあった」



  <インベントリ>から取り出したものは...紙。



 それも2枚。どちらとも見た限りは契約書のように見える。



「それは?」

「見た通りの契約書、と言うか誓約書。平和を願う司祭様と、<聖神信仰教会>の未来を案じた巫女様とのね」



 ほい、と投げて渡してくる誓約書。



 読み進めると、確かに司祭様と巫女様のものらしきサインがある。赤い楕円のようなものもあるが...



「驚いた...こいつは<血判>だ...」

「<血判>?」



 聞いたことのない単語。思わず聞いてしまったが、一体?



 "<血判>はその本人にしか扱うことのできない特別な印です。<魔力>と自分の血を使って押すものですから他人のものを真似はできない上に、同じものを押すことで自分のものであることを証明することもできます"

「そんなものが...」

「こんな研究、本当に外に出たら殺人事件がひっきりなしに起こるようになる。私とてそんな状況にしたくないんだ、広めたりすることは絶対にしないし依頼が来た時にもそれを念押しされた。2枚の誓約書はその証明さ」



 あまり契約書などを見たことがない俺と、おそらく俺と同じであろうマイゲスは互いに目を合わせるしかなかった。



 が、そうではない<警察>の2人は別の表情を浮かべていた。



「...くそっ、こいつが一番犯人に近いはずなのに、この契約書を見るとどんどん遠くなっていきやがる」

「どういうことだ?」

「<勇者>様方は分からないかもしれないが、この紙に書かれていることを要約すれば...」



 曰く、

 ・地球にあった武器である<銃>の作成を<クエスト>として依頼する。

 ・この<クエスト>を知ることができるのは本人とミカ司祭(司祭様の名前らしい)、そして巫女様のみであり、それ以外の人間は知ってはいけない。

 ・広めることは許されない。誰かに協力を頼むことも許されない。

 ・実験は施設内のみで行う。研究も同じく。

 ・進捗は1日1回、ミカ司祭に行う。

 ・上記のうち1つでも破った場合、極刑に処す。

 というもの。



「<クエスト>...ん?よく見たら報酬のことが一切書かれてねえな」

「報酬は賃金として払うと言われたよ。長引けば長引くほどもらえるが、その分性能の高いものを要求するともね。そこの契約書には書いていないけど、まあそういうことだろうね」

「なんつう条件だ...」



 メーノが<ポーション>を制作しているところを何度か見ているからこそわかるが...



 どんなものも時間をかければいいというものではない。確かに短い時間だとあまり良い品質のものは作れないが、一番重要なのは時間ではなく手順。



 そして元より手順のわかっているものならまだしも、何もわかっていないものを1から開発するというのはとてつもない作業だ。最も良い手順を探して、その通りに作れるまで、一体どれだけかかるのだろうか。当たり前だが、高品質のものであればあるほどその時間は計り知れない。



 それを踏まえてこの条件を見れば、一体この<クエスト>がどれほど難しいかわかる。命がかかってるのに時間をかけていればいるほど<クエスト>破棄は容易で、報酬について書かれていないということはいつでも返せと言える。



 しかもそれについて他人に協力を求めることはできず、おそらく拡張してきたであろう自らの研究室や道具は使えず、挙句の果てに<クエスト>であるために自分から破棄できない。



 はっきり言って、今まで見てきた<クエスト>の中でも3本の指に、いや1番と言っても過言ではないくらいやばい<クエスト>だ。



「よく受けたなこんな<クエスト>...こんな状況なのに、同情が出来ちまうくらいひでえ内容だぜ」

「まあ脅すように受けさせられた<クエスト>だし、それに最近依頼もなかったし、店はあんまり儲からなかったし、お金に目が眩んでしまったのも仕方ないってわけさ、ははは」

「誰が脅したと?」



 後ろから声。振り返ると、そこには司祭様がいた。



「これは...ミカ司祭、一体どのような御用で?」

「これだけ大規模な爆発が起こったのですから、気にして来るのは当然でしょう」

「まあ確かに」

「司祭様、お久しぶりです」

「ええ、マイゲスにソルスも息災のようで。しかし<警察>までいるとなると、何があったのか聞かなければなりませんね?」



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「ふむ、久々にギロチン台の用意をしなければなりませんね」

「ま、待ってくれ...さい!命がかかってるんだ...ですよ!そんな状況で、他人に広めたりすることなんて、絶対に有り得ませんよ!」

「はあ...しかし<警察>や<勇者>の言っていることを踏まえるとなると、あなたが犯人である可能性は可能な限り高くなっていると言っていいのですが」

「それはそう」



 この場にいる目の前の職人、ヌトさん以外の全員が頷いた。



「いやそこでシンクロしなくても」

「ではシンクロされないようなアリバイが、この事件に関わっていないという確証がおありで」

「うぐっ...」



 まあないだろう。進捗によっては分からないが...そういえば進捗はどうなっているのだろうか。



 今までヌトさんは一度も言っていないが。



「ヌトさん、研究の進捗はどうなんですか?もしもそんなに進んでいないというのであればまだ言い逃れはできるかもしれませんが」

「お、おお。それなら見たほうが早いかもしれないな。ちょうど司祭様もいることだし...」

「誓約を破ったことに違いはありませんが?」

「いや、あの状況で隠していたらそれこそ怪しいですからね?それに、一度進捗を見てからでも遅くはないでしょう」

「私は今すぐでも構いませんが?」

「まあ待ってくださいって、今日の進捗の報告もまだでしょう?広くなったこの場所で実演しますから、ね?」

実際ブラック企業ってこんな感じなのでしょうかね。俺は知りません。

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