騎士団ってだけで強そうに感じる
<シウズ守護騎士団>...なかなかにカッコ良い名前だね。しかもその名前に合うような強さも持っていそうに見える。
...ショゴスに勝てるかは、まあね。もしかするとあいつらが貧弱すぎただけなのかもしれないし、それに一応ショゴスは遅いっていう弱点もあるしね。うん。
<シウズ守護騎士団>が僕たちの目の前で止まる。すると、一番先頭で馬を走らせていた男が兜を外して、馬を降りてそのまま近づいてきた。
整った髪型や髭、顔に所々ついている古傷、そして見るからに強そうなその目つき。まさに歴戦の戦士と言った感じだ。
まああくまでも顔だけ見たらそうなるってだけで、鎧が中世の騎士みたいな鎧なので流石に騎士だとわかる。
そして、僕たちの目の前までくると
「お前達は、この奥の<バンデット盗賊団>から逃げてきたもの達か?」
という質問。いや、初対面ならまず自己紹介でしょうが。まあ目の前の人が結構怖そうでそんなこと言えないんですけどね!
あと確かバンデットって盗賊って意味だったような気がするんだけど、これ実質<盗賊盗賊団>になってるの気づいているのかな?
あ、でも日本語だとそういう意味になるだけで、この世界だとそういう意味にならないのかも...
すると、「グフッ」という声が。見ると、それはエリカさんの発した声だった。
「と...<盗賊盗賊団>www」
前言撤回だ。こちらの世界でもバンデットは盗賊という意味らしい。
「はあ......お前達、噂に聞く<国立学園>の<エリカ&マナ>だな。こうして会うのは初めてだが、なるほど。なかなかにやらかしそうな顔をしている」
「えっ、私たちってもうそんなに有名なんですか?」
「当たり前だ!!!」
と一括する男の人。そして悲しきかな、僕は無視されながら話が進んでいく。
「<氷牙の洞窟>などの<ダンジョン>を破壊したことも、いくつかの<盗賊ギルド>に捕まっては潰したことも、<学園>のクラスメートや先生方をぶっ飛ばしたことも、全部知っておるわ!!!」
「ぶっ飛ばしたのではないですよ、吹っ飛ばしたんです」
「そこまで変わらぬわ!!!だいたいその他にも......」
すっごい怒号とは裏腹に、あまり動じないエリカさん。そしてその隣には、全く何もわからずにボケーっと突っ立っている5歳児がひとり。
言っていること、なーんにもわかんない。<国立学園>とか<ダンジョン>とかその他諸々とか、全部含めてわかんない。
ちんぷんかんぷんとはまさにこの事。多分、今頭の上にはてなが3つくらい並んでいる事だろう。
ん?マナさんが顔を近づけてくるが、一体なんだろうか。
マナさんの顔は、口元が耳元に近いところで止まったが...
「えーっとねえ、
<国立学園>、一般的には学校って言われるんだけどお、いっぱいお勉強するところでえ、
<エリカ&マナ>はあ、私たちのことお。
<氷河の洞窟>は<ダンジョン>の一種でえ、とおっても寒い場所なのお。
<ダンジョン>っていうのはあ、とっても難しい迷路みたいなものなのお。ものすっごく楽しくてえ、ついついハメを外しちゃうんだよねえ。
<ギルド>はチームのことでえ、家族みたいなものなんだよお
これでわかったあ?」
「うん!」
ヒソヒソ声だけど、わかりやすい説明をどうもありがとう、マナさん。と心の中で感謝しておく。
つまり、今のところは<ダンジョン><ギルド>については、一般的(人による)な知識と同じ解釈でいいってことなのね。
あと<国立学園>。通称学校ってことは...母さんはここに入学させようとしていたってことか。
「おい、何をヒソヒソと,,,ん?」
ヒソヒソ話に気づいた男の人が、僕に目線を合わせる。なかなかに怖いんだけど、怒られたエリカさんはよく平常運転で会話できたなあ。
「この幼い子もまた、逃げてきた者か...よくみると、マナの背にもいるのか」
「そーですよお」
マナさんのことを名指しする男の人。エリカさんとマナさんの区別がついているってことか。
すっごい有名人だあ()。
「おい」
と声をかけられる僕。急だったもんで、
「ひゃ、ひゃい」
という間抜けな声が出てしまう。
その声を聞くと、男の人はその場でしゃがんで
「君、名前は?」
と尋ねてきた。
歳の差いくつあるかわからないけど、これはもう立派な犯罪でしょ。
というか、自分から名乗れよ。
「...ひとになまえをきくならまずじぶんからなのりなさいって、お母さんにいわれました」
まあ母さんに言われたっていうのは嘘だけども。でもそれがたとえ幼女だったとしても、最低限の礼儀は必要でしょ。
あ、嘘ついたのはごめんなさい、って心の中で謝っておこう。
「...幼いが、なるほど。最低限の教養はあるらしいな。これはすまない」
という謝罪をすると、男の人は立ち上がって、
「俺は<シウズ守護騎士団>団長、アルベルト・グリズ!!お前達の名を問おうか」
と高らかに宣言した。
その宣言はとても気迫があり、まるで自らも名を言わないといけないと錯覚するような感覚に陥った。
「エリカです」
「マナ・ヒルドと言います。後ろの子はリーシャと言います」
「ぼくはマリア」
その感覚の通りにそれぞれの名前を言う僕達。
「な...お前が、マリア...!ということは......あの死体は、やはり...!」
そして、その目の前では、相当に狼狽えている男がいた。
しかも、僕の名前を聞いて狼狽えているのか。
「...えっと、ぼくのなまえにききおぼえが...?」
と再確認しておく。なんかとても嫌な予感がするんだよね、しかも確率99%の予想まで立てられちゃう。
「き、聞き覚えも何も...」
どうせこの男の人が父さんなんでしょ?
「アンナの夫は俺、そしてこの子はアンナと俺の間の子だ...!!」
「「え”っ」」
その場の空気が冷え固まる。まあこの様子ではそういうところだろうと思った。
てか、あの死体ってことは...本当に死んでいるのか、母さんは。
まじか...もう生きてる可能性すらないのか。
この人...父さんが嘘を、っていうのはないな。
「く、くうう......!」
なぜなら、後ろに何十人も屈強な騎士がいて、目の前に4人の女の子がいるのに、この人は今泣いているから。そこまでするのなら、この人が嘘をついたという可能性はほぼゼロに等しい。
はあ、本当にやめてほしいんだよね、そういうの。だって、こっちまで泣けてくるじゃん...!
「う、うう...」
泣く父親を見て、魂の奥から何かが流れ込んでくる。
その感情は、悲しみであり、母親にもう2度と会えないという絶望。
いつの間にか、僕の視界は震えていて。次第に、頬を伝う何かを感じ取れて。
ついには、森に響くほどの大声で泣き叫んでいた。周りなんて関係なかった。
いつの間にか、マナさんは僕のことを抱きしめながら一緒に泣いていた。それに釣られて、エリカさんも少しだけ泣いていた。
少し耳を澄ますと、奥の騎士も鼻をすすっている音が聞こえる。もしかすると、僕の叫びで聞こえていないだけで泣いている騎士もいるかもしれなかった。
でも、感情の大津波が、突然、前触れもなく、止まった。
そうすると、今の自分は結構頭が回ることに気づく。これは...そう、マナさんとリーシャちゃんが貫かれた時と同じ感覚。
では、何か気づくことがあるかもしれない。ぐるぐると、頭を回す。
でも、特に何も起こり得ない。頭に思いつくことはなく。
ふっ、と思考が元に戻る。
かと思うと、何かが切れたように。
目の前が、深淵に染まった。