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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第五章 狂恋少女常守
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集合知的生命体

いつもが短かったのはそうですがちょっと長めかも。


 頭を回して後ろを向く。無言でずっと引き抜こうとしている<ゴブリン>がそこにいるわけだけど...



 ちょっとこの体勢だと右腕が使いにくいな。こう、ぐるっと半回転すれば使えるかなと思ってたけど、通常の人間の体に慣れているが故に全然扱えない。



「うーん...あ、こうするか」



<ゴブリン>の腕の位置を空間的に固定、その位置を動かさずに僕の体だけを半回転。



 すると、背中側から腕が入っている形から、胸の下あたりから腕が入っている形へと変わった。これで普通に扱うことができるだろう。



「これでよしと。さてさあて、今から君は...」



 と言った瞬間、<ゴブリン>は残っている左手の手刀を繰り出した。



 無論避けるのは簡単...いや、違うな。



<ゴブリン>の手刀はそのまま<ゴブリン>の喉元へと吸い込まれていき、



「!!!」



 そこにあった喉を破壊した。



「ほうほう。どうやら僕がやろうとしてることを完全に理解しているようだね」



 正直それは想定外だ。というかそんなことやってまで回避しようとするか?





 まあなんとでもなるけども。



「だけど君は勘違いしている。こんな形だが、私も旧支配者だ。その程度の状況、どうとでもなる」



 まずは繋がれた腕との融合。接合部をやつの腕を構成しているものと同じものにしていく。そして同時に神経を自分の体と接続していく。



「!?」

「んで、そのまま私の思考を流し込む」



 と同時に僕の意識も混入させていくと。



 正直な所、神話生物に完全に身体を掌握させるのはいかがなものか。



 まあいいか。とりあえず潜ってみよう。いや、そもそも潜るという言い方は正しいのか?



 ============================================



 俺は、最初これを読んだ時、「...嘘、だな」と思わず口ずさんだことを覚えている。



 誰だってそうだろう。本の作者を見ればそれが訳のわからない字で書かれていることもわかるのだ。



 しかし信じるしか無かった。それが目の前に現れたのだ。



「オウ、スイロ、コイツ、イタ」

「何?」



 一目見て衰弱していることはわかった。しかし同時に、なぜこいつが生きているのかはわからなかった。



 体のほとんどが鱗に覆われた、謎の生物。あの本を読み返せばすぐに、それが深きものという上位存在であることには気づけた。



 しかし、その時点で俺はすでに部下に命令を下していた。医療班に持って行け、と。



 それが無かったら、今こうして記憶を覗き見られることも、ここまで俺の集落が発展することは無かった。だからよかったのだと、俺は自分に言い聞かせたのを覚えている。



 ============================================



 これは...あいつの...



 何故自分が見ているのか、深層心理に到達してそこで記憶を見ているのかは不明だけど、これはこれで興味深い。



 どうやら、この世界には深きものがいたらしい。そして怪我をしていたそれを助けたことで奴の運命の歯車は狂うことになった、と。



 なるほどね。なんか普通にクトゥルフ神話の物語を読んでる気分になれるぞこれ。こういうの久しぶりだし、もっと続き見てみよう。



 ============================================



 あいつは俺に恩を返そうとした。絶対に助けることができないとわかっているのに、助けようとしたのだから。



 結果、俺たちは<魔術>や科学の技術を得た。深きものがこの世界で生き延びるために学んだ知識を得た。



 そして何よりあいつのクローンを得た。貯水庫で泳いでいたそれは、たまに現れるとても強い人間を殺すのに最適の存在だった。



 "意思のない人形を操り、人間を殺しまくっている集落がある。"という風の噂を聞きつけ、俺の集落、いや国は急速に拡大していき、また強くなっていった。



 苗床は簡単に用意できるのだから、数もどんどん増える。いつの間にか、人間の国1つよりも多くなり、街を人海戦術だけで落とせてしまえるようになった。



 ============================================



 深きものの身体構造は人間のそれではないし、ましてや<ゴブリン>のそれでもない。



 でもどうやらその深きものには情があったらしい。人間に対してはないに等しいが、<ゴブリン>は別だったのだろう。



 ...カミラの街には最強と言っても過言ではないアンジェリアがいた。そんな人がなぜあんなところにいたのかわからなかったけど、今ならわかる。



  <愛と名声と金のために(アイラブアイ)>を持っているアンジェリアは槍を振るうだけで広範囲を殲滅することができる。



 しかし真骨頂である自己強化は一対多だとほぼ無意味だ。あくまでも対象を殺してしまえば蓄積は消費されるのだから。



 そしてそんな状況で複数体の<ジェネラル・ゴブリン>などと相対したなら、負けは必須であることは明白だ。



 攻撃しなきゃ蓄積は起きないけど、攻撃すれば<ゴブリン>が肉壁として機能し快楽の解放が行われる。攻撃を耐え続ければいつかは倒せるだろうが、それをするということは体を許すということ。正直僕みたいに慣れていなければ一番最初の抵抗感は凄まじいものだろうし、それに耐えることができてもその間に組み伏せられれば意味がない。事実、アンジェリアは全く動けない状態にされたままMPを限界まで使用してしまい敗北しているのが見える。



 またそれらを理解した上で行動しているこいつは、やはり強いと言っていい。さすが、イゴーロナク様が欲しがるだけはある。




 ============================================



 勝てないと、その報告を聞いたのは自室で目を覚ました直後だった。



 すでに7階まで突破されているその状況を理解するまでには時間は要らなかった。



 今回ばかりは突破してくれるかもと。期待をしていたら突破され、ある意味嬉しかった。



<ダンジョン>を改造している影響なのか、誰かに<ダンジョン>を攻略してほしい、そう考えることがよくあったからだ。



 だから定期的にあえて国に入れていた。もっともそのほとんどが苗床か奴隷として生涯を終えたが。



 この<ダンジョン>の<制限>である<<インベントリ>使用不可区域>とMP自動回復不可はほぼ全ての人間を苦悩させたのだ。ゲリラ戦ができるようあえて武器庫をほぼ全ての階層に設置はしたが、そもそもそれが扱えても<ゴブリン>の人海戦術に対応できる奴らは現れなかった。今日までは。



 ============================================



 発展し、もはや国と呼べるまでに成長したのにも関わらず、運悪く僕たちがやってきた。



 もちろん外に出していた<ゴブリン>は神話生物が殲滅していた。数を一気に減らしたからこそ、あの状況を突破できたのかもしれない。



 数年単位で増えていた数が1日でほぼ消える、なんてことはそうそう起こらないからね。本当に神話生物様様です。



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 何度も読み返し、それの情報を得ていた俺は。



 見た瞬間負けを悟った。



 勝てない。こいつにはどう足掻いても無理なのだ、と。



 しかしやつの使っていた空間から<魔力>を得る方法を使ってでも生き残る理由はあった。



 家族は、俺の家族()は完全に崩壊した。クローンも殺され、最後の手段として優秀な<ゴブリン>に渡していた薬を使わせ、それすらも意味がなく、そして俺だけが残った。



 すぐに死ねば、それでよかったのかもしれない。でもそれじゃああいつらの未練が晴れない。



 攻略されること、ということを理解していなかった。<ダンジョン>は、俺たちに改造されることが嫌だったのだ。それを理解していなかったからこそ、みんな死んでしまった。



 責任は俺にある。ならば絶対に崩れない決意で、目の前の敵を殺す。



 たとえ殺せなくても再起不能にする。



 それが、俺の願いだった。



「...なるほどねえ」

「お前には、理解できない話だろう」

「そうだね。家族を殺されても泣くくらいしかできないほど弱い僕には理解できない」



 目の前の、俺の意識を飲み込まんとするそれは言う。



「でもね、それは理解できなくて当たり前なんだよ。<ゴブリン>の考えていることなんて、人間には理解できないのだからね」

「だからこs」

「だからこそだ。お前は私に従う権利がある」



 従う、というのは違う。乗っ取られる、が正しい。



「残念なことにこの世界での私は<魔力解放>がないと出てこれないのでな。私の考え方や知識を得るだけで、性格は何も変わらない」

「ではなぜ俺を」

「単純に、気に入った」



 何を、言っているんだ?



 俺は<ゴブリン>であり人間ではない。



「関係ないな。知は知以外の何者でもない。たとえお前が<ゴブリン>であろうと、人間であろうと、確実にお前に迫っていただろうさ」



 あり得ない。



「アリエルさ。ほら...その証拠に、君の思考は徐々に私になりつつある」



 そうなのか...ソウカモしれない。



「その復讐、その器、その強さ。全て気に入った。だから私を分けてやる。そしてそれを成せばいい」



 誰に?



「相手はいる。目の前ではないが、それをなさねばならない奴がいる」



 奴?



「お前の同族をなんお躊躇もなく殺し尽くさんとする化け物...<勇者>がいる」



 それは...



「僕はそれがほしい。大量の<ゴブリン>で国を作ったその力が」



 なぜ?



「欲しい、すなわちそれは欲。欲に理由なんているか?」



 できるのか、俺は。



 敵を、<勇者>を倒せるのか?



「倒せる倒せないなんて考えなくていい。その復讐を成し遂げるのなら、今。()に」



 協力するしかない。そうだろう?



 ============================================



「っ!?」



 ほい精神制圧っと。あとは肉体だけだ。



「〜〜!?」



 はいはい暴れない暴れない。



 そしたらまず喉を修復して...



「ん〜〜!!!!」



 どうどう。そしてそのまま右手を喉に左手を肺に。



「!?」

「どうやら喋れないということらしいからね。強制的にしゃべってもらうことにしたよ」



 肺を程よく握り空気を送り出し、手を開いて空気を吸い込む。



 んで喉に突っ込んだ手で顎を開いて。



「んがっ!?」

「さて、それじゃあ終わりだ」



 呼吸をさせ声帯を適度に振るわせ、発音。



『Y』



『G』



『O』



『L』



『O』



『N』



『A』



『C』



 そしてその瞬間、喉に入れていた手で首を刎ねた。

お、終わった...

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