>キング・ゴブリン<戦⑩ 暗転返し
危うく飲み込まれた
「くそっ、俺自身に使う日がいつか来るとは思っていたが、まさかこんなに早いとはな...」
<ゴブリン>としての顔を歪め、それと人間の間、いやさらに魚を混ぜて酸で割ったような顔を見せていく。
緑色にところどころ光る鱗は、それが完璧でないもの、交雑種であることを教えてくれる。
そもそも奴らの鱗はあんな鈍い光を放ちません。光を反射したなら水面と言うべき煌めきを見せてくれますよ。
「お、それは気になるな...まあ、私ならいつでも見れることになるでしょうが」
小柄だった体は大柄なものへと成長し、ギロギロとした目玉をこちらに覗かせる。
ここまで変身することができるとは。どうやらその技術は本物のようで。
「それに比べて、私の体は本当に貧相です。<魔力>不足や全身の大怪我が原因なのはわかっていますが」
...ああ、知りたい。
「教えてください。どうやってその技術を?」
「...!!」
問答無用で殴りかかってくる醜悪王、いや。
ーーーーーーーーーーーー
>キング・ゴブリン・ディセンド<
666666/666666
ーーーーーーーーーーーー
「...変わらず醜悪王でいいでしょうね。そのキモい顔は絶対に変わることはないでしょうから」
「ほざけ」
棍棒を捨てたパンチは当たり前ながら相当重い。
軽い僕の体は紙切れのように吹っ飛んでいく...が。
おかげでいくつか知れたぞ。これもイゴーロナクの、知の欲望の権化が持つ権能か。
「そう、あなたは変わっていない。深きものの血を取り込んだことで変態しただけに過ぎないのです」
触れただけでやつの情報を解析した。それも同時に、自動的に。
とても単純なものであって、科学的な設備あるいは解析のための<魔道具>には劣るものではありますが、それで十分なほどの情報を、知を得られた。
「変身前と変身後のDNA一致率は平均60%。自我が保てるのはそこまでということですか」
僕も走り、やつに接近する。そして奴も、醜悪そのものも僕に向かってきていた。
「ふん!!」
全力の拳が僕に向かってくる。それを逸らすことによって当たらないよう調整、その動きのまま反撃。
ビンタ。でも私のビンタは一味違う。
手のひらが当たったところからえぐれていくの様は、神話生物のオーバーパワーを扱っているようでとても気持ちがいい。
そしてこれ以上の力を他の存在は持っていると考えると、それはそれで夜が寝れなくなりそうだ。
「ああ、楽しみです!私は基本戦闘が得意な神でありませんのに、なのにこれほどの力!他の神話生物の本気は一体どんなものなのか!」
でも今は、もっと知りたいものがある。
目の前に。
「私は、私達は」
肉片を握りつぶす。
やはり鱗は全身に及んでいないのか、身体にとって重要な部分を隠すように生えてきている。
鱗のサンプルを入手するには、やはり致命傷を狙うしかないみたい。
「知識欲の怪物」
やつの頬は僕の手によって抉られた。顎の筋肉も一緒に持ってったために顎は外れ、喋れなくなっている醜悪。
「知りたいがために。あらゆる生命の記憶を食らい尽くしたいと願うもの」
さっき地面に置いていた棍棒を片手に、突っ込んでくる。
話すだけ無駄だ、とでも思ったか。その顎はいつでも再生できるはずだが。
「そのために、そのためだけに。私は文字と成った。知識となった」
大きく振り下ろされた棍棒を避け、そのまま片足を首に掛ける。
「今は仮の姿を見せているが、いつか私が文字の状態からでもこの姿になるようになるのだろう」
地面を掴んでそのまま足で投げ飛ばし、また距離的には仕切り直しになる。
しかし構わず突っ込んでくる。そして突っ込みに行く。
ガン!ガン!
互いに手を合わせ力の競り合い。しかし勝者は...
...僕。手の肉を削ぎながら相手の目の前で食ってやる。
「そしてそれに近づくために、私はお前に近づく。さあ教えてくれ、君の全てを、君の存在理由を」
互いに互いへ走って行けば、ものの数秒でまたあの時と同じ状況。
スタミナが尽きれば、走りも鈍くなる。でも関係ない。
醜悪をもっと知れるのであれば。
「教えてくれ。君の骨までしゃぶって、僕はお前を殺してあげよう。」




