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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第五章 狂恋少女常守
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>キング・ゴブリン<戦⑧ セカンド・ラウンド

ほら、関わるからまた長くできてる

「この程度か!!」

「が、は...」



 僕の頭を地面に押し付けながら走る>キング・ゴブリン<。



「ただただ生きるだけでは俺は倒せんぞ!!」



 そう煽ってくるが、実際今の僕は何もできない。



 そもそもあんだけ大怪我を負っている状態で戦おうとするのが無茶なのだ。



「...まだ、だ!」



 でも戦う。生き残りたいから。



 <魔力撃>1回分の、体内に残っている最後の<魔力>を使用する。



 <魔力撃>で左足を高く上げ頭を蹴り上げ



「いっ!?!?■■■■■■■■!!」



 れなかった。蹴り上げた瞬間、左足を大きく開かされた。



 人間の股関節による開脚には限界がある。それは練習によって克服できたり、あるいは人外であれば問題ないのだが、残念なことに今の僕はそのどちらでもない。



 開脚の限界を大きく外れた股関節は外れ、味わったことのない痛みを声にならない声で表現するしかなかった。



「ぬぅん!!」



 引きずりながら走るその勢いを利用した投げによって、真っ直ぐ、鋭角を保って壁に向かっていく。



 ドゴン!



 鈍い音が空間中を駆け巡り、僕は壁に突き刺さった。壁の中にいる、というやつだろうか。



 いや、あれは完全に壁と自分の座標が一致しているんだったか。



「<雷矢(サンダーボルト)>」



 そう発する声が聞こえた。壁の中に埋まっていて見えないが、おそらくなんらかの魔法を行使したのだろう。



 バリバリという音も聞こえてくるしね。



 ザクザクザク



 大量に降ってくる雷の矢が、僕を貫いていく。



 電気によって痺れた体には、抵抗する力も喋る力もない。



 放たれる矢をもろに喰らうしかなかった。






 ザクザク...パキ



 そしてそのうちの1つの矢が首に当たった。



 すでにボロボロだった体を支えていたものにもついにヒビが入り。



 それはあっけなく折れた。枯れ木の枝の如く、易々と。



 落下。自由落下だが相応の高さから落下したその衝撃をよそに、僕の体は地面にぶつかると同時にまた上へと向かう。



 ゴム毬のように跳ねていく僕の体。最終的にゴロゴロと転がって...



 ...それは、奴の前で止まった。



「呆気ないな。神話生物を操る<魔王>だと聞いて楽しみにしていたんだが、まさかこうまで貧弱とはな」



 体を足蹴に語る醜悪王。



「マリア!!」

「...神話。クトゥルフ神話。俺があの本で見たその内容は、もっと恐怖に満ちていたぞ」



 リーシャの叫び声が聞こえる。



 どうやら、リーシャは無事のようだ。



「く...そ...」



 そしてアンジェリアも。あいつが言っていた「生きている」というのは本当だったらしい。



「お前のような軟弱者なんかではない、もっと知能に優れ、もっと肉体に優れ、より狂気に満ちた存在たちが闊歩しているのだと。俺は、そう思ったんだがな」



 グイグイと脇腹を踏みつけてくる。すでに痛覚も通らなくなっているから鈍い何かの衝撃みたいになってるけど、これはこれで気持ち悪い。



 痛くはない、でも何か感触がある。そんな感じ。麻酔を注射された後の手術と似ている。



 肉体の中を弄られてとても気持ち悪いんだけど、でも痛くない。痛いはずなのに。



「......あ、れ?」

「期待はずれだ。<魔王>もこの程度だと、<勇者>もそう強くはないな」



 でもまあ、その感覚で知覚できていることがある。



「やはり俺の研究の成果、<交雑種ゴブリン>によって世界をまとめ上げるのはそう時間のかかることではないらしい」



 僕はまだ生きて...ってええ?



<交雑種ゴブリン>なんだそりゃ。深きものの交雑種を任意で作れるようになったの?



 それ、ちょっと興味あるな。



「ねえ、それって何?」

「ふ、お前には関係のない...なんだと!?」



 蹴り飛ばされる。そのまま跳ねて、その勢いで直立。



「いやあ、忘れてた忘れてた」



 よく考えてみれば、僕はすでにイゴーロナクなんだよね。



 首くらい吹っ飛んだってわけない。



「い、生きて、いたのか...」

「アンジェリア、それ以上喋らないで。傷、深いでしょ?」

「...」



 目の前の、あいや僕に目はないのか。



 まあ僕の前にいる醜悪王はかなり驚いている様子だった。



「な、なぜ生きて...いや、そうか。お前すでにイゴローナクに」

「イゴーロナクだ。二度と間違えるな」



 結構初歩的なミス。発音がちょっと難しいのだよね、イゴーロナクって。



「...いや、違うな。お前は奴なんかではない」

「なぜ?」

「もしも本当に奴なら、なぜここまでボロボロになる。強靭な肉体を持った巨人だぞ?」



 あー確かに。もしそうなら棍棒の100回叩きつけくらいで足折れたりしないね。



「でもこの状態で僕は立っている。それは僕がイゴーロナクだからだよ」



 それ以外に説明がつかないし...それに。



「それに、僕はそのことについて説明できる」

「何?」

「僕の知性が...イゴーロナクが教えてくれる」



 そもそも少し考えればわかることなのだ。イゴーロナクは、なぜかイゴーロナクだけは本として現れた。



 納得はできる。やつは自分の信者を自分の肉体として行使できるから。



 でも、となるとおかしい点がある。



 僕は、確かに読んだ。あの本を。でもなぜか僕の意識は彼にならない。



 いや、もしかするとすでに彼なのかもだけど...



「結論から言えば、彼の正体はミームだ。知識そのものなんだ」



 ミーム汚染。それを引き起こすのがあの本であり、発生源。



 それを伝言していって広めてるに過ぎないんだ。



「だから、イゴーロナクは残ってる。<インベントリ>の借体を介してではなく、知識としてこの世界にいるから」



 今さっき、首を折られて気がついた。というか本当に僕は全ての神話生物が<インベントリ>にいってしまったと錯覚していた。



 イゴーロナクだけは。僕と一緒だったんだ。



「それが、どっちなのか。それはわからない」



 おそらく、どっちも。知性が割って入ってきたから2つになったのだろうけど、どちらかというと足して2で割った後が僕らなんだ。



「そしてそれは知識だから、普通の状態じゃ肉体に影響することはない。どこまでいっても神話生物、特に感染力の高いイゴーロナクにはきついペナルティが課されている。つまり...」



 もはやカスしか残っていない体内の<魔力>、MPをかき集めていく。



 1くらいにはなるかな。



「...<魔力解放>」



 もっとも神話生物の<魔力解放>がたったMP1で足りるはずがない。



 体力も同時に取られ、それは僕の体内へと吸収されていく。



 循環。まだ足りないためMPを吸い、それは体内へと流れる。流れたものはまた吸われ、流れる。



 そんな一見して無駄な行為が、僕の体の中で勝手に行われていく。



 ...これで、少しは動けるようになったでしょう?



「そうですね...第2ラウンドと参りましょうか」

今は準制限カードです

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