深きものとの戦い⑥ 昨日までの
爪が吹っ飛び、その勢いに釣られて腕も持って行かれた深きもの。
顔が魚そのものなのであんまり表情とかは分からないけど、多分驚いているっていうのは伝わった。
だがそれで終わってはダメだ。ここからが一番重要なのだから。
すぐに深きものに飛び込み、裂傷のひどい右手に...流石にもう<魔力>を動かす力が残ってないな。酷使しすぎたかもしれない。
でも大丈夫、僕には左肩が残っている。
左腕を失った深きものは噛み付いて僕がしようとしている行動を阻止しようとしてくる。がそれを利用し、僕は左肩を思い切り深きものの口の中に突っ込んだ。
「うぐっ...これくらい!」
どうということはない。口の中は大量の歯がびっしりと詰まっているが故に突っ込んだだけでも痛いが、それはつまり左肩が怪我をした、血が流れたということ。
僕は<魔力>がそこまで得意ではないのだろうけど、血を媒介しての操作は何度もやってきた。
無論、得意だ。
「■■■!?」
左腕に<魔力>を溜めていく。怪我をしているが故に溜まり方が遅いけど、その血から漏れ出てくる<魔力>で気付いたのだろう。
噛みちぎってこようとする、がもちろんそこはガードしない。噛みちぎれた左肩にはすでに十分な<魔力>が溜め込まれている、そしてその溜め込まれた<魔力>は、それが溜まっている腕は僕が抑えていた
血のつながりも歯で閉じられたから、もう僕には絶対に操作することのない爆弾となった。しかもタイマーは0秒だから...
ボゴン!!!!
「■■■...」
爆発が起こる。深きものの肉体は頑丈(当者比)なので、その爆発が僕の体に影響を及ぼすことはなかった。
しかし深きものの体内には甚大な被害を生み出した。砕けた骨は内臓をぐちゃぐちゃにし、沸騰した血液が内側から蒸し焼きにした。
フシュー、と煙をあげながら崩れていく深きもの。倒れ込むその体を支え、横にしてあげる。
...いつ見ても美しい体だ。特に緑色の鱗を纏った半魚人の細長い足は、水の流れともいえるほど。
いつかなってみたいものだ。クトゥルーの狂気の夢を見ればすぐになれるから、次は頑張ってクトゥルフを召喚しよう。
ゴゴゴゴゴ...
すると、僕とリーシャたちを隔てていた壁が崩れていく。
土煙が舞い思わず目を瞑る。少し経って、音が聞こえなくなった。
顔についた砂を払い、目を開いてみれば、壁が出てくる前の状況...
そんなわけなかった。
壁に、埋まっている人間がいた。反対の壁際、水辺に沈んでいる人間がいた。
...二人とも、見覚えがある。
「...遅かったな。こちらはすでに終わっていたぞ」
血に染まった棍棒を振り上げ私に向かう。
「ああ、安心しろ。あいつらは生きている。しぶといからな、身体をボコボコにして動けなくしただけだ」
だけ。そうかだけか。
「そっか...ああ、これが...」
呼吸を整える。足元にいる敵を倒したはいいものの、そういえば私にはもう一体敵がいた。
「せめて殺そうとか思わなかったの?」
「殺したら母体にできない、というのもあるな」
やつは僕に恨ませたいのか。それとも...
「そう...あなた神話に興味は?」
「ある、がお前には興味ない。母体になるか?」
「こんなボロボロの体じゃ、なるものもならないよ」
いや、そんなことはどうでもいい。
「そうだな。裂けた右腕、抉られた脇腹、左腕右足の欠損。その状態で...俺と?」
「この世界は剣と魔法の世界だ。そんでもって...」
今は、目の前のことに集中しよう。
「私は、神話生物だ。神話のことを知っているんだからな、それくらいわかるだろう?」
「何?」
「僕はある神格に色々と加護をもらっているからね」
足から<魔力撃>。擬似的に走る。
「...だがその加護は意味のないものだ。神話生物は全て開けない<インベントリ>の中だろう」
「いいや?」
そう、加護はない。でも、僕の生来の生存力が、僕を活かしている。
それがあれば十分だ。私が生きているのだから、それだけでいいんだ。
「まあやればわかるよ。私がいかに強いかをね」
深きもの、終わり!
次回、○○○2コマ。




