脱出げーむ③ ~諦めるのも大事~
注意!また人が死にます。
『ショゴス、向こう側の壁にある紙切れを破れる?』
『ヤッテミマショウ』
と言ってくれるショゴス。うーん、使い勝手がいい。
『ヤブケマシタ』
『おお、ありがとう!』
そしてすぐ破ってくれるショゴス。有能すぎる。
ここまでくると、もはやショゴスが万能キャラに見えてくる。スライムのもとになった神話生物だけど、スライムのように最弱のレッテルが貼られているわけじゃないからね。でも神話生物の中では弱めなのが、まあ、うん。
とにかく、護符も突破したしもう出られはするのかな?
「エリカさん、とりあえずごふはやぶれたよ」
「えっ、嘘。破ったって...いったいどうやって...」
エリカさん疑心暗鬼モード突入。なかなか、勘は鋭くないみたい。
となると実物を見せた方が早いけど...うーん、ショゴスがいるからなあ。
『ショゴス、あの本に戻ることはできる?』
『モドレマスヨ』
おっと、ダメ元で聞いてみたけどできるのか。ショゴスってどうやって本の形態になるのだろうか。
『ホンのジョウタイダトメイレイガキケナイノデ、サッキミタイニオコシテクダサイネ』
『わかった、説明ありがとうねショゴス』
『イエイエ』
本の状態になると命令が聞けない、か。まあ半分封印されているようなものだし、仕方のないことだろう。
でもそう言うことは説明されないとわからないことだし、そうやって説明してくれるだけでとてもありがたい。
...ショゴスショゴスと言っているけど、もしかして上位種のショゴス・ロードだったりしないかな。流石に頭が良すぎるし、僕と初対面のはずなのに日本語を喋っているからね。
いや、もしかして普通のショゴスはこれくらいできることが当たり前なのか?ショゴス・ロードなら人型になれるはずだし、何より人を見下す可能性が高いから僕の命令を聞くとは思えない。
だめだ、考えがまとまらない。一度ショゴスの変身シーンでも見て頭を冷やそう。
と思って前を見ると、そこには一冊の本があった。
......見逃してしまったあああ。
「ねえ、マリアちゃん」
む、マナさんが僕を呼んでいる。
「なあに?」
「さっきからあの怪物に対して聞いたことのない言語で話しててえ、まるで主従関係のように見えたけどお、あの怪物はマリアちゃんの使い魔だったりするのお?」
怪物、怪物かあ。
あながち間違ってないけど、ちゃんとショゴスっていう種族名があるからね。間違えられるのは......じゃなくて。
使い魔、はちょっと違うか?使役している...とは思うけど、うーん。
召喚はしている(らしい)からなあ。
「しょうかん?はしたみたいだけど、よくわからない」
ただ、目の前にいるお姉さんたちは僕の知らないことを知っているから、もしかすると召喚したことさえ伝えれば何かわかるか...?
「召喚、って言ったのお?」
「うん、言ってた。私も召喚って聞こえた」
「ということはあ、あれは<召喚獣>ということなのかなあ」
ビンゴ。<召喚獣>でいいみたい。
そしたら、次は召喚獣について聞いてみるか。
「<召喚獣>ってなに?」
「え!?<召喚獣>についてなにもわかってない状態で」
「エリカ、どうどう」
「いや、私牛じゃないから」
「エリカ、もーもー」
「だから牛じゃないって!」
きた、漫才。仲睦まじくていいですねえ。
って、違う違う。<召喚獣>について教えてもらわなきゃ。
「ああ、もう!<召喚獣>っていうのは[召喚]のスキルを持つ生き物が出す奴らのこと!」
「あ!エリカ、モーって言って」
「ない!」
漫才を続けながら説明をするエリカさんすごい。僕だったらどっちかしかできないよ。
で、えーっと。エリカさんの説明だと、[召喚]スキルで出したやつらしいけど。
確か、ショゴスは召喚している(らしい)から<召喚獣>ということでいいんだよね?
...正しいかわからないし、一回スキル説明みるか。もうだいぶ前だからね、スキル説明みたの。
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[名前] マリア
[性別] 女性 [年齢] 5
[職業] 召喚師(クトゥルフ神話)
HP 10/10 MP 20/20
ーステータスーーーーーー
筋力 10
体力 10
敏捷 11
知性 40
精神 163
魔力 36
ースキルーーーーー
言語 Lv7
召喚 (クトゥルフ神話) LV3 (0)
魔術 Lv7
応急処置 Lv1
(<魔王>の種[発芽前] Lv100 (MAX))
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はい???なんでスキルが変化してるの?
精神が増えているのはツッコまないとして、スキルが変化しているのはわけわからんぞ。
「おーい、ガーノ。何かあったのかー」
どこからか、男性の声が聞こえる。思考を止めて、一旦牢屋の外の音を聞く。
「ん?どうした、ガーノ。返事はないのかー?」
ガーノって誰だ?あ、ショゴスが食ったやつか。
「あ、やばい、そろそろ脱出しないと」
エリカさんが動き出す。そうだね、今の目的は脱出だからね。
「マナ、リーシャちゃんの具合はどう?」
「大丈夫そお。容体は安定しているよお」
と言いながらマナさんが抱いているリーシャちゃんはクークーと寝息を立てていた。かわいい。
「マリアちゃんは、大丈夫だよね」
「うん!」
そりゃもちろん、元気いっぱいです。
あ、本を拾って...と。
「よし、さっさと出よう!マリアちゃんへのお話はそれから!」
おお、切り替えが早いなあ。それはそれとして僕へのお話はまだあるのね。
「おーい、まさか捕虜を抱いていたりしねえよなあ」
バン!とドアが乱雑に開かれる。
「あー、マリアちゃん。あなたの...」
「ショゴス?」
「し、ショゴスっていうのね。うん、それであいつをなんとかできる?」
そして早くも仕事が回ってきましたよ。
「できるよ」
と言いながら本に魔力を流す僕。すると、本がどろっとしてくる。
膨張してくる前に命令しといたほうがいいな。
『ショゴス、もうすぐ男がくるからそいつを食べちゃって』
と言うと、半分本になっている物体から口が出てくる。なんて器用な。
『ヨロシイノデスカ!?』
コクリ、と頷く。すると半分本になっている物体は勝手に跳ねて牢屋の外に飛び出し、そのまま男の声がした方へ向かった。
「うわっ!なんだこい」
途中まで聞こえてきた声が、急に聞こえなくなる。
なにが起きているかなんて、考える意味すらない。
「ああ。本当に殺しているんだね、うん」
あ、エリカさんがなんか諦めている。どうやら声が聞こえなくなって察したらしい。
まあ殺すといっても、実際は自然の摂理に沿った食事だからね。この世は弱肉強食なのだ。
「私たちもいつか人を殺してしまうのでしょうかあ?」
「なんか、マナは精神力が強いよね」
「いえいえ、それほどでもお」
「...まあ、いつかは覚悟しなきゃいけない日があるのかもね」
なんか、すっごく深い話をしていますね。僕、全くわかんない。
というか、優しいお姉さん達ですらいつか殺人を覚悟しなきゃいけない世界なのか。
...そういえば、人を殺すにあたって全く覚悟とかしていないな、僕。
ま、いっか。
『オワリマシタヨ』
お、終わったか。なかなかに早かったな。
「おわったって」
「ん、わかった」
エリカさんはそう言うと、牢屋の鉄格子のうち一本を持って、
「はあっ!」
無理矢理...引っこ抜いてしまった...だと。
な、なるほど。あれがいわゆる筋肉の力なのか。
え?さっき抜いた鉄格子の両隣の鉄の棒を持って、
「ふんっ!」
......グニャリと曲がった鉄格子は、ギリギリ通れるサイズの穴を形成していた。
ファンタジーとかでしか見たことないやつを平気でやってのけるとは。いや流石に痺れないし憧れないんだけど。
「ふう、1ヶ月ぶりに[身体強化]を使ったけれどなんとかなった?」
「なんとかなったよお」
そしてそんなことに全く動じないマナさん。
もうわけわかんなくなってきた。なんだこの世界。
二話連続で人が死ぬ...
クトゥルフ神話だし仕方ないですよね?
あ、今更ですが
スキルは[]
魔法やそれに関するものは<>
人の言葉は「」
日本語は『』
で表しています。わかりにくかったらごめんなさい。




