>キング・ゴブリン<戦⑤ エリアル
改めて思う。
建物の屋上で、自分の何倍もある棍棒を避け続ける。
そんなこと、誰ができるのだろうか。
「っ!しま」
長い思考に一旦の区切りをつけ、目の前に集中した瞬間。
まず、視界が埋まった。次に空を切る音。そして最後に、とんでもない衝撃。
叩かれた表と、壁にぶつかった裏。両方からとてつもない力が加わり、それが伝わったのが同時でないにも関わらず体が押し潰されていく。
「...」
五感のほとんど全てが機能しなくなる。光があること、それ以外にわからない。
...いつぞやの、死。それを思い出す。
あれも確かこんな感じだった。よくは覚えていないけど、一瞬で意識が刈り取られていく感触は似たようなものだ...
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「マリア!」
「っ!」
「何!?」
我に返り目の前の棍棒を避ける。紙一重で右足のあった場所を通過していく。
意外と身体欠損って利点がある、いやないわ。ありえない。
「ちっ...いい加減諦めたらどうだ」
「はは、人間は諦めるようなやつじゃないってあんたは知ってると思うけどね」
「はあああ!!」
横からリーシャが割って入り、棍棒と対峙する。
しかし大ぶりの攻撃は接近した者に対し弱い。振りは遅すぎて避けるのが簡単だからだ。だから振りの速い柄での攻撃をするが、今度は威力がない。
ならリーシャ優勢と見えるが、実は全然不利だ。
だってモーション同じだからね。予測で避けるのではなく認識で避けないと致命傷は必至だ。
...そんな光景を横目に、僕はアンジェリアの元へ向かっていた。
距離的にはすぐだが、<ゴブリン>はもう登ってきている。それを避けつつ進まなければならないのだから、普通に遠く感じることだろう。
「ふっ!」
「「「ギャギャ!!」」」
アンジェリアの支援がなければ、だけどね。
「アンジェリア!」
「どうした!今私は<ゴブリン>の対処で精一杯だぞ」
しかし彼女は今登ってくる<ゴブリン>を永遠にぶっ飛ばしている状況。まるでモグラ叩きのように効率よく叩いていくその姿には慣れが見える。
長く戦闘を続けているからなのか、はたまた経験なのかはわからないけど。
「この状況の打開策になる可能性のあることを見つけた!」
「何!?」
「<ゴブリン>達、どうも地下水がインフラを構成しているみたい!」
槍により<ゴブリン>が貫かれ、抉れ、叩き潰される。その戦いぶりには荒々しいと表現するのがふさわしいだろう。
だけどそんな戦闘にそろそろ耐えられなくなってきたのだろう。槍にはヒビが入っていた。
穂先の部分。ただの石であるそれが割れたらどうなるか。それは槍ではなくただの長い棒だろう。
最も、僕の記憶が正しければ槍は穂先が壊れても長い棒として棒術を駆使することまで考えられているけどね。
「い、インフラ!?それってなんだ!」
「あー、<魔力炉>の代わりに水源を使ってる!」
インフラ、通じないか。まあそりゃあ電気ガス水道は地球だけか。この世界、<魔力>あればどうにかなっちゃうもんね。
「そんなことが可能なのか!」
「多分可能!」
ガスはまあこんな地下で使ったら死にかねないので省くとして。
水は言わずもがな。主要な目的であろう電気は水車を使えばいける。
問題はこの空間内、一見するとそんなものはどこにも見えないことだけど。
しかし今重要なのは、おそらく近くに水源があるということだ。
「その水源の見当は!」
「ついていない!でも壁の向こうなことは確実!」
「あいわかった!」
その瞬間、僕は弾かれた。
何にだろうか。透明な何か...いや。
<魔力だ>。僕は、強い<魔力>に弾かれ、隣のビルの屋上に吹き飛ばされた。
「っ...」
しかし、少し見上げればその光景はあった。
光り輝く槍を携え、そしてその光をさらに強めていくアンジェリアの姿が...
...まさか。
「ギギャギャ」
吹っ飛ばされた僕を追ってきた<ゴブリン>。でもそれに対応している時間はない。
あの光、見たことがある。部屋で、武器庫で追い詰められた時の光とほとんど一緒なんだ。
違う点はただ一つで光量の違い。あの部屋の時の数十、いや数百倍の光に飲み込まれるような感覚すら覚える。
「おおお!!」
醜悪王は何をしようとしているのか気づいたのだろう。交戦中のリーシャを無視しアンジェリアに仕掛ける。
が間に合わず。
「...!」
光で声は遮られた。そして遮られた後の声は。
壁の崩れる、爆音で壊された。
反撃開始です




