現実逃避
無論安全な道のりではありません。
木製のエレベーターに乗るのは初めてだ。なので、
「こんなにも揺れないものなんだな」
と考えてしまう。
僕が前世で乗っていたエレベーターは確か一切揺れていなかったと記憶しているけど、古いものは少なからず揺れていた。なのに、明らかに人力であるこのエレベーターに揺れはない。
どういう技術なんだろうか。
「...こんなエレベーターが地下まで繋がっているのなら、それでわかることがある」
「だな。あの大きな採掘場で俺たちが掘っていた鉱脈から出る金属、何に使うのかと考えていたが...」
長かった縦穴を抜ければ、そこに見えるのは広い場所。
人間が労働し、ゴブリンが命令する。今までの階層よりも人間が奴隷らしくなっているこの階層には、頭の中で既視感を感じてしまう。
「僕たちが、この<ダンジョン>に入った時に、最初に見つけた場所だ...」
「ですね...」
...あの時、僕たちはここに来なかったら。
いいや、考えるのはよそう。生まれるものは何もないのだから。
「それにしても昇降機が止まらないな。発着場はもう少し上か?」
「でももうすぐで天井」
考えている間に天井に到達、しかしそのまま進んでいくエレベーター。
...っていうか加速してね?
壁の動きがどんどん速くなっているような気がするんだけど、これ僕の気のせいかな?
ガタッ!!
「うわっ!?」
「なんだ!?」
エレベーターが大きく揺れる。さっきまでは全く揺れていなかったのに。
瞬間、エレベーターが急激に加速していく。壁の動きが目におえるもので無くなっていく。
どんどん上がっていく速度は、もう立っていられずに倒れ込まなければいけないほどに到達していく。
「くっ...この押し付けられる力は...!」
「き、聞いたことがある...とんでもない速度には人間んは耐えきれず、その勢いを体が受け止めることで大きい圧がかかるって」
「多分それだな!」
いわゆるGというやつだ。戦闘機などに乗っている操縦者が受けているやつだ。
っていやいや、なんでエレベーターでそんなものが。
ガコッ
「!?」
上がっていく速度の中、何かに引っかかったかのように一瞬大きく揺れる。
そしてそれと同時に大きく明るい世界が現れる。外か?いや...
しかし考えるよりも先にその揺れの障害が訪れる。揺れたせいでこの速度のエレベーターから落ちそうになる。
当たり前だけどこんなところから落ちたら死ぬ。
「ぐ、ううう!!」
木の板のちょっとした隙間に指を入れて...否、指が僕の体を支えられるわけもなくずり落ちていく。
その滑りは止まることなく、僕の体は中に放り出される...
...まだだ。揺れがおさまったエレベーターに手をかけてなんとか落ちずに生き延びる。
ずり落ちた他の一部の人もなんとか手をかけれららしい。
そして、そのまま下を見れば現れる光の世界。
なぜか、見たことg
「マリア!!」
リーシャの声で上を見れば、どんどん近づいていく天井。
そして、床を突き抜けて出てくる手。
「っ!!」
すぐに右脚を上げて手の方へ。
...ガシッ
ちょっと届かなかったものの、リーシャが僕の右脚を掴んだをの確認して手を離す
ともう天井がエレベーターを掠めていく。
もちろんそれまでに掴まっていた人は指が潰れた状態で落ちていく。
そしてその人たちを助けることは...僕の力ではできない。
「......!!」
声にならない嗚咽が上から聞こえる。その真意はもう、考えなくていいだろう。
エレベーターの速度はまだまだ上がっていく。リーシャの姿を見た他の生き残った人たちだろう、エレベーターに手を無理やり貫通させて自分達を固定していく。
手の本数的に、大体10人くらいかな。
っ、頭が痛い。多分頭が下になった状態で高速で動いているからだろう。普通なら確実に死んでる。
...そして、また開いた世界につながる。ここもまた明るく
いやもう速すぎて何も確認できない。すぐに暗くなって。
ゴン!!!!!
「ぐっ!!」
エレベーターは、唐突に止まった。
さて、来ましたよ...




