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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第五章 狂恋少女常守
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認識の差

誰か時間を僕にください。

 幻覚。その言葉を聞いたからなのか、部屋の様子が瞬き一つで変わっていく。



 そこにあるのは土の部屋ではなく、真っ白な空間。そしてそこにある十字架に、僕は磔になっていた。



 この十字架は...僕が拷問を受けていた時のやつか。



「どう?まるで体の自由が一切きかない状況は。惨めな気分でしょう?」

「...」



 ミアの言う通り、今の僕は全く動けなかった。しゃべることすらできないほどに、体が動くことを拒否し始めていた。



 でも喋ろうとしているのをみるあたり、肉体の僕はしっかりといて、あと一緒に来ているというのはわかる。



「ああ、そういえばあなたは肉体と精神が別れているって言う意味わかんない人間だったわね。こんな状況になってるのに冷静だなんて、ずいぶん余裕があるのね」



 全然ないけどね。まあ似たような状況になったことはあるから、こうして冷静でいられるのはそのおかげだろう。



 あまり誇れる過去じゃないが、なかったら今こうしてここにはいないだろうし。何事も経験ってわけか。



「ふふふ、経験ね。でもその積み重ねだってもうおしまいよ?ここであなたは死んでしまうんですから」



 どこからか剣を取り出すミア。いや、取り出しているのではなく作ったの方が正しいか。



 ここが幻覚の世界というのであれば、僕はそれに飲み込まれた形になる。そして幻覚はミアの力らしいので、ここではなんでもできるということなのだろう。



 おそらく僕を磔にしている十字架も彼女の作ったものだ。なんでもありだな。



「ああ、肉体は殺さないであげるわ。ありがた〜く、私が使ってあげる」



 へえ、僕が強いから?



「<魔王>の体よ?強くないわけないじゃない。それに、この肉体を持ってこれば我が王もとても喜んでくださるのよ!」



 ふむふむ、それはおそらく僕が神話に関わっているからかな?



「そこまで教える義理はないけど...特別に教えてあげる。我が王はあなたの知識に興味を示しているのよ。拷問して、知っていることを吐き出させようとしたのもそれが理由ね」



 知識?そんなもの、僕はほとんど持っていないが。



 この世界で長く生きたわけじゃないし。



「持っている、と我が王は断言したわ。つまりそれはあなたの奥の奥に知られざるものがあるということ。だからこそ我が王に献上するに相応しい体なの!」



 そうなってくると、多分神話についての知識かな。



 もしもクトゥルフ神話を知ってしまって、それについて深く調べているというのであれば、まあ明らかに言動がおかしい僕が何か知っている可能性があると踏んでもおかしくは...



 ...あ、そういえば。ナグとイェブ、クトゥグア、アイホートを戦場に出して、シュド=メルとメェーちゃんに本拠地(ここ)を探してもらってたね。



 その時かな、僕が神話に関わっていることを知ったのは。



「我が王は言ったわ。記憶とは肉体そのものに宿るものであり、魂に意味はないと。そしてこの幻覚世界に連れてきたのは魂のあなただけ」



 だから肉体自体は来ていないのに肉体の僕がいるのか。



 納得。






 だが、納得できていないことがある。



「ふふ、さて。そろそろ時間も時間だしあなたともおさらば...え?」



 いやね、ちょっとよく考えたんだけどさ。どうしても腑に落ちないことがあるんだよね。



 そう、あの時。僕があの見慣れた部屋にいた時、あんたは焦っていた。もちろんそれは少ししか見えないものだったけど、なんで焦るのかなって。



「...それを私が答えるとでも?」



 いや?だってこれ以上僕に思考されたら困るでしょ。



 んで、じゃあなんで焦るのかなって考えるのよ。そしたらね、そういえば本棚をずらしたところから色々変わったなあと思ったのよ。



 さっきも考えたけど、あの本棚ずらしって結構おかしかったからね。



「...で?」



 それともう一つ。僕って貧弱なのよ。



 自他が認めるほどに。



 そんな体をね?しかも左腕右足がなくなっているのよ?



 例え君がどれだけその我が王を狂信していてもね、僕の体を乗っ取ろうとは思わない。



 てなると、僕を無力化して捕獲するのが手っ取り早いと思うんだけど...というかあの時の謁見って



「...ああもういいわ。さっさと死んでくれない?」



 無慈悲に剣が振られ、首が飛ぶ。



 ...まあそれはそれとしてだ。とにかく、今君は捕獲ではなく乗っ取りを仕掛けに来ている。捕獲の方が簡単なのに。



 つまり



「え?え?え?な、なんで死なないのこいつ」

不思議なこともあるもんですね。



手品なら、「タネも仕掛けもございません」ってところでしょうか。

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