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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第五章 狂恋少女常守
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鎮魂歌は歌われない

「深きもの?それは一体...」

「あー、ミアさんは見たかもだけどリョオさんは見てないか。確か9階にいたあのキモい顔の人型のやつ、あいつの元になったやつのことだね」



 かの大いなるクトゥルーの洗脳によって現れてしまうインスマス顔の奴らは、なぜか地下9階にいた。



 その理由は、ここにあった。おそらくだが召喚された深きものに接触してしまった人間の成れの果てではないだろうか。



 あの場には生きているまま放り出されている人間もいた。可能性は大いにあり得るが...それだけであそこまでインスマス顔になるか?



 インスマス顔には時間をかけて変わっていくのが普通だ。そんなすぐに変わってもつまらないし、最低でも1ヶ月はかかるだろう。


 また、影響力が足りているのかという問題もある。クトゥルフの洗脳によってああなるのはわかるが、その眷属である深きものにそれほどの力があるかと問われると頷き難い。



 もちろんあり得なくはないだろう。僕の知識だって完璧じゃない。だが怪しい、実に怪しい。



「これ以外に...いや、もうここに書いてあるのは呪文だけか」



 本を最後まで見ても、あとはもう読めないものばかり。元英語の評価1の僕ではあるが、覚えていないものはしょうがない。



 が、これは確実にいつか使うだろう。念の為取っておくとしよう。



「あとはもう調べられることはなさそう」

「だね」

「...あれ、ここの本だけおかしい?」



 ガコッ



 音を立てて動いていく本棚。左の壁にスライドしながら消えていったのを見ていると、そこには扉。



 飾り気はないが隠すためなのだろう、ほぼ壁と同じ模様で...



 ...



「...どうかしたの?」

「あ、いや。なんでもない。とりあえず進んでみることにしよう」



 ドアを開いてみると、そこには通路。



 今いる部屋と変わらない壁が続いて、先の方に扉がある。



「罠は...なさそうかな」

「とりあえず進んでみましょうか」

「俺が先行しよう」



 リョオさんを先頭に、僕、ミアさんの順で進んでいく。



 進み方はかなり遅いが、それは仕方ない。警戒は必須だ



「...」

「...」

「...」



 無言なのも、周りの音をよく聞くため。



 幸いなことに、扉に着くまでに音は僕らの足音しかなかったが。



「...着いたぞ」

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

「何それ?」

「僕の転生前の世界の言葉。何が起こるかわからないって意味さ」



 扉は内開き、鍵はかかっていない。



 ゆっくりと開けていく。その間に先の空間を確認。



「...?」



 見えるのは土の部屋。今まで見てきた階層のほぼ全てにあった牢屋の中と似たような。



 違う点があるとするなら、牢の部分であろう鉄格子がないことだろうか。



「意外と中は綺麗か」

「これなら休憩するのにいいかも」

「それは名案だね。ここまで長い道のりだったし、見たところ安全そうだし、アンジェリアさんたちを呼ぶのはいいかもしれない」



 何もない、がだからこそ安全だ。



「なら俺が呼んでくるよ。ちょっと待っててくれ」

「わかった、待ってるよ」

「ああ」



 部屋から出ていくリョオさん。



「さてと...暇だなあ」



 部屋と通路が大きいわけじゃないが、みんながここにくるまでに時間がある。



「そうだな...ステータスでもかくに」

「そういえば、マリアは片足と片腕がないのに、結構アグレッシブに行動するよね」

「え?ああ、まあそうだね」

「痛かったりとかしないの?」

「いや?もしかすると痛いのかもしれないけど、少なくとも慣れたかな」



 時間はこういう苦しみを解決してくれる。前世で学んだことだ。



「そうなんだ...」

「それに、平常時は左腕があるんだ。もちろん右足も、強い<回復魔法>が使用されれば治るはず」

「ごめんね、あなたの希望に添えるほどの治癒者(ヒーラー)がいなくて」



 謝られても、こちらは返す言葉がない。当たり前だ、僕は皆に助けられてきたのだから。



「ただ気になるなあ。平常時は左腕があるってどういうこと?」

「<インベントリ>が封印されているおかげで、中にある義手が取り出せないんだ。あれがないと、僕は結構弱体化しちゃうんだけどね」

「義手って?」

「あ、そうか。この世界では義手はあまり一般的じゃないか」



 大体の傷は治るだろう。それでも僕の左腕が治らないのは、おそらく左腕とショゴスが合体しているからだ。



「代わりの腕、っていう意味でね。そのまま、人間本来のものと違って人工的に作られたものを指すんだ」



 僕のは人工的なものじゃないけど。



「へえ...」



 笑みを浮かべるミア。






「それってさ、今あなたがつけているやつ?」

「ん?ああそうだよ。<インベントリ>がここだけ開くから、多分それのおかげで出てこれたんだね」



 そこにあるのは左腕。の義手。



 触ってみれば、これは確実に僕の腕だとわかるだろう。



「出てこれた?」

「どうも僕の召喚した神話生物は<インベントリ>に紐づけられているらしくて、<インベントリ>が封印されている状況だと出てこれないんだ」

「そうなん」

「ところで」

「ん?」



 立ち上がり、()()()()()()()



 ...痛い、血も出てる。だけどこの痛みは過去のものと比べたらマシだ。



「な、え、ちょ、ちょっと何してるの!?」

「何かしてくると思ってた。だからきっかけが欲しかった」



 扉に向かいノブを回す...いや、回らない。



「精神操作系の何かだった場合、僕からは絶対に戻れない。だからきっかけを作らせるよう仕向けた」

「何を言って...」



 ステータスを開こうとする、が無理。そもそも<メヌー・リング>がない。



「あんたは義手を知らなかった。だから僕の腕を再現した。おかげで、全く性質の違うものであることをわかっている僕は連鎖から抜け出すことができた」

「......」



 無言とは肯定。つまりは認めたことになる。



 大体一番最初の入りがおかしかった。なんで脈絡もなく扉のギミックを見つけるんですかね。



 下手な小説ならもうちょっと滑らかに導入すると思うけど、まあそれはミアもちょっと焦っていたところがあったからなのかもしれない。



 事実、さっきまでとは顔が違う。なんとか場を持たせようとしていた顔から、余裕たっぷり自信満々の顔だ。



「...それで?あなたはわかったところでどうすることもできない。ここは幻覚の世界、あなたはなんの行動も起こせないんだから」

ようやく回収です

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