脱出げーむ① 〜大事なことは頭を使うこと〜
今までと比べ物にはならないほど長いです。(個人差アリ)
とりあえず、辺りを見回す。できる限り見逃さないように。
こういうのは見逃すと後々大変な目に遭うと決まっているからね。
鉄格子も調べておこう。えーっと隙間は僕の親指の長さくらいで、本数は...
「え、えっと...マリア、ちゃん?は、何をやっている...のお?」
マナさんがそう聞いてくる。
「なにって、どうやったらここをでれるのかなあって」
「...脱出は無理だと思うよ」
よっ、と立ち上がったエリカさんは僕のそばまで来ると、鉄格子の向こう側を指さした。
指された先にはちっちゃな縦長の紙切れみたいなものが壁にくっついていた。しかも何か描かれているっぽい。
「あれ、<魔道具>の一つで<護符>っていうの。本当は守るためのものなんだけど、反転術式とかを使って...」
そういうとエリカさんはこっちを見る。おそらく、僕の頭の上にははてなマークがいっぱい浮かんでいることだろう。
事実、なんもわかってない。魔道具っていう言葉を聞いたことがあるなあくらいだ。
「あー、まだ知らないことだよね。ごめん」
「え?ああ、ダイジョーブだよ?」
うーん、知らないことを知れるのは楽しいので謝られても困るんだよなあ。
「えっと、つまりあの紙切れがあると私達は脱出できないの。わかった?」
「うん、わかった!」
「ええっ!そうだったの!?」
「...なんで本職の魔法使いがそんなに驚くのさ」
マナさんがめちゃ驚いたのをエリカさんが呆れた表情でツッコむ。まるで漫才みたいだあ。
ただ、あれがあると脱出できないとわかったのは大きい。言われなかったらそのまま突っ込んでいただろうし。
質問もしてみるか。
「エリカさん、あれって外せば出られるの?」
「え、あー、んーと、どうだろう。破壊すると確実だけど、外したらどうかは<護符>の強さによるんだよね...マナ、そこんところどうなの?」
「えーっと、私は<魔道具>は専門外だからわからないかなあ」
「魔法陣くらいは読み取れるでしょ、あなた」
「あ、そんなことでいいの!?」
「...なんで専門外の私が知っていることをあなたが知らないのさ」
「あははー、多分その授業の時は寝ていたんじゃないかなあ」
「あははー、じゃなくてさっさと読み取りなさい」
「はあーい」
たった一つの質問だけでこの問答、どうやらマナさんとエリカさんは相当に仲が良いらしい。
......よく考えてみると、僕は女の子だから間にいても...いや、ダメだな。
とか考えていると、マナさんが護符を観察し始めた
虹彩を魔法陣の形にしながら。
いや、待って。情報量が多すぎてパンクしそう。
「ごめんね、マナがこんなやつで」
「ひゃ、ひゃい!」
「...ひゃい?」
しまった、思わず噛んでしまった。
ええっとこういう時は話題を逸らして...
「ま、マナさんのあのめはなんですか?」
「ん?ああ、<魔眼>のこと?」
「そうそれ!」
わお、魔眼まであるんですか。なんでもありの世界だね。
「<魔眼>は...まあ簡単に言うなら、魔法とか一部スキルを簡単に発動できるもの、だね。例えば、マナのもってる<魔眼>は魔力の通り道が見えるようになる汎用的なもので...」
エリカさんが後ろを見る。僕も見ると、そこには寝ているリーシャちゃんがいた。
よく見ると腕や脚に複数のあざがある。何かあったのかな...
「あの子は[鑑定]のスキルを常時発動してしまう魔眼。確か、奴隷商の馬車が襲われた時に捕まった子だから...これ以上は酷か」
奴隷。この世界にもあるのか....ない世界の方が珍しいよね。
それにしても、エリカさんは色々なことを知っているな。
「エリカさんはものしりなんだね」
実際、僕が馬車で運ばれたことを知っているし。いや、僕にはその記憶はないんだけども。
「まあね、シーフ志望だから耳はよく聞こえるし、ここのやつらが何を言っていたかも結構覚えているよ」
少し先輩ヅラをしながらエリカさんはそう言った。
なるほど、シーフもいるのか。
「そういう君は、どうして脱出しようとか思ったの?君、多分5歳くらいだと思うんだけど」
えっ、そこを聞きますか。そういえばまだなんで脱出するかは考えてなかったな。
...いや、脱出する理由なんてひとつしかないか。
「おかあさんの、かたきをとるため」
思わず、握り拳を作ってしまう。
「...すごいね、君。私が5歳の時にこの状況なら絶対泣きまくってたのに」
まあ精神年齢が高いからね。しょうがないね。
あ、そうだ。
「エリカさんこそ、なんできょうりょくしてくれるの?」
「それはもう、脱出したいから。ね、マナ」
「そうだよう」
即答。考えるまでもなく、か。
なんでなのかは、どうでもいいか。脱出を手伝ってくれるなら、それでいい。
「...まだ時間かかりそう?」
「もおちょっと待っててねー」
...うーん、まだなのか。今できることを探しておくか。
とりあえず、ステータス見てみるか。
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[名前] マリア
[性別] 女性 [年齢] 5
[職業] 召喚師(クトゥルフ神話)
HP 10/10 MP 20/20
ーステータスーーーーーー
筋力 10
体力 10
敏捷 11
知性 40
精神 151
魔力 36
ースキルーーーーー
言語 Lv6
召喚 (クトゥルフ神話) LV1 (0)
魔法の才 Lv5
応急処置 Lv1
(<魔王>の因子 Lv100 (MAX))
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え、なんか精神値がめちゃくちゃ増えているのだが。いや、他の数値もか。
それに召喚スキルのかっこの中も0になってるし...一体どう言うことだ?
<インベントリ>も一応見ておくか。
ーインベントリーーーーー
本?
ーーーーーーーーーーーー
「へー、君はもう<メヌー・リング>を使えるんだね」
エリカさんが驚いている......が、今は関係ない。
この、本?ってやつ、多分あの図書館にいたときに手に入れたやつだよね。
<インベントリ>に入れた覚えがない。というか、入れる方法を知らない。
「エリカさん、<インベントリ>からものをとりだしてもダイジョーブ?」
「え、インベントリの中に何かあるの!?」
呆気に取られる。めっちゃ驚かれるとは予想外だった。
「ああ、奴らはスキルの[窃盗]を持っている奴が何人かいてね、私達はインベントリ内のもの全部盗られてるの。もしかして、まだ幼いから<インベントリ>を使えないと思った...?」
「あ、あのー」
「あ、そ、そうね。ちょっと部屋の隅に移動しましょうか」
そう言われて、僕はこの部屋の隅に移動した。エリカさんも一緒だ。
そして、エリカさんが隅から間を開けて座った。
「ここで取り出して。できる限り、急いでね」
そう言われたので、隙間を埋めるように座りつつも、<インベントリ>から本?を取り出してみた。
青白い、閃光。しかし、それがすぎるといつの間にか抱いている、それ。
「終わったみたいね。って、本?」
そう、それは本だ。だが...
「このほんね、ふしぎなところでみつけたの」
「不思議な所...?」
「としょかんの、ほんだなのおくの、どあのおく」
グールが徘徊していた場所。よく考えてみると、図書館にグールっているっけってなるけど、まあいいや。
今は、この本?が何なのかが重要なのだ。
「おわったよお。って、2人で何してるの?マナも混ぜてえ」
と、どうやら<護符>の解析が終わったらしい。
「<護符>は外して解除できそう?」
「うーんと、それは無理みたい。なかなか高い奴だよ、あれえ」
いやー無理か。なんとかして外すという作戦も無しか。
「あと、あの<護符>は、この部屋をぐるりと囲んでるみたい。エリカ、掘らなくてよかったねえ」
「うーん、掘るのもだめなのか」
そして古典的な脱出方法もダメ、と。どうしようか、これ。
「で、こっちでは何をしているのお?」
「どうもマリアちゃんの<インベントリ>に本があったみたいでね。それを取り出してみたところだよ」
「このほんだよー」
と言ってマナさんに見せてみる。すると、マナさんの目の虹彩がまた魔法陣に。近くで見ると、結構綺麗だなあ。
「ん?」
とマナさん。何かあったのかな。
「どうしたの、マナ」
「これ、魔法陣が掘られてるよお」
「...本当だ、しかも気づかれにくいようになっているみたい」
うん、理解はできるけどわからん。一体何が言いたいのだろうか。
「ということは、これは<魔道具>ということ?」
「いや、そうじゃないみたい。だって魔力が通ってないもん」
...これ、どうやって会話に入ればいいんだろう。
「魔力は通る?」
「通る...けど、途中で止まるみたい。何かに邪魔されてるみたいだよお」
「何に邪魔されているかわかる?」
「んー?多分これ、承認系なのかなあ」
「承認?ということは......マリアちゃん」
え、僕?
「な、なあに?」
「ここに、うっすらと魔法陣があるのわかる?これに魔力を流して欲しいんだけど」
???エリカさん、何を言っているの???
「エリカ、マリアちゃんがわかってないよお」
「え?ああ、ごめんねマリアちゃん。わかるはずないよね」
そう、わかるわけがない!英才教育もあまりわかってなかったんだから!
「えっとねえ、マリアちゃん」
マナさんがこっちに向き直る。
「こう、自分の体の内側に何かがあるってイメージしてみてえ」
急に言われる。そんなこと言われても。
と思いつつも、言われた通りにイメージしてみる。
だって、早く脱出したいしね。
目を瞑り、体の奥深くへ。しかし、何もない。
もっと深くへ、しかし何もない。
さらに深くへ、しかし何もない。
それはまるで底なしのようで。
でも何か違うような気がして
ふと、周りを見果たす、しかし何もない
それを確認したら、今度は浮上する。特に理由もなく。
しかしそれは正しかった。
いつの間にか、目の前に巨大な"眼"。いや、正しくは見られているように見えるだけ。
...深淵。そう呼ぶに相応しい。
「何かあるのがわかったみたいだねえ」
マナさんの声が聞こえる。
「そうしたら、今度は手からそれを出すようにしてみてえ」
そう言われる。体の内側から出ようとする。
が、出れない。永遠に見られているまま。
もがいてみるが、出られない。
足掻いてみても、出られない。
どうすればいいのだろうか。
考えてみる、何かにずっとみられたまま。
ずっとずっと考えて、しかし何も出なかった。
だけど、パッと思いついて。
何もかもから見られていて、手を伸ばす。
グッと押し出す、しかし何も出ていない。
自由にさせてみる、しかし何も出ていない。
じゃあどうすればいい。
ふわっと、考えがまとまる。
大きく、大きく手をイメージする。
そしたら、そこから出てみる。
バッと目を見開く。
手には、なんとも言えない何かがあった。
見ようとすれば僕が見られるような、そんなものが。
「おおー、一時間で魔力を使えるようになったねえ。すごいよお」
「...私、学校でこんなこと教わってないんだけど」
「それは、この方法が[魔法の才]スキルを持っている人用の練習方法だからだよお。ちなみに私は10分でできたよお」
「はあ、まあいいか。えっと、マリアちゃん。多分今も手から出ているんだと思うんだけど、そのまま本の......ここに手を当ててみて」
そう言われてよく見ると、確かにうっすらと何かが描かれているような気がする。
そこに触れてみる。すると。
グニャリと本の中に手が沈んだ。
「っ!」
急いで手を外す。そして離れる。
「おねえさんたちもはなれて!」
念の為言っておく。が、すでに離れていた。
本は、変形を始めていた。
色は徐々に濃くなり、本は次第に膨張していく。
僕達は壁にどんどん追いやられ、ついには背中にぶつかってしまった。
それは、僕達にくっつきそうになっていた。がなぜかくっつかない。
なぜならば、それそのものが後ろに下がっていったからだ。
隣にいるお姉さんたちを見る。
「あ...あ...」
「こ、これは...一体...」
どちらも、震えている。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
声にならない悲鳴が聞こえる。声は、リーシャちゃんから聞こえていた。
「だ、大丈夫!?」
その声で意識がはっきりしたのか、マナさんがすぐにリーシャちゃんの方へ行く。
その頃、それは。
膨張していた体はついに天井に届く。体の表面では、目やら口やらが出来ては消える。
その体は、まるでスライムやアメーバのようで。しかし、それとは違いある程度の固形を保っている。
グニュングニュンと体が動く。しかし、それによって体積が変化している。
だから、あれはスライムでもアメーバでもなく。
表面に、口ができる。そのサイズに見合わないほど小さいその口は、消えず。
『ア、a、亜』
そのまま、喋り始めた。
僕は、この生物を、知っている。
なぜならば、記憶がない状態で唯一覚えていたのはクトゥルフ神話。もちろん、神話生物だって履修済みだ。
『キコエテ、イマスカ、マスター。』
それは、奴隷。従属するために生み出された生物。
あらゆるものに形を変え、主の命令を絶対とし、しかし叛逆を為して1つの文明を滅ぼしたもの。
『うん、聞こえているよ...』
そいつの名は...
『...ショゴス』
ようやく出てきました。
しかし、ショゴスの表現ってこんなものでいいのでしょうか...