始まりの物語
修正してたら時間が...
「着いた。ここがあの<ゴブリン>たちの住処よ」
山の頂上。広く開けているはずの場所に、それはあったのだろう。
穴、それも真っ暗でなにも見えないものが、山に深く入り込むようにできている。
「...<ゴブリン>が出てこねえぞ」
「いや出て来るわけないでしょ。だって...」
しかし、その穴の入り口はクレーターになっていた。
山の頂上ごと消し飛ばしながら生まれているクレーターの周りが死体で埋め尽くされているのを見れば、このクレーターの発生理由は自ずと思いつくけどね。
「それで?なんで入れないかわかる?」
「ここまで破壊されているから、というオチはありそうですけど...」
「シュブ=ニグラス様、今も入れないのでしょうか?」
僕がそう問うと、シュブ=ニグラス様は穴に手を入れようとした。
が、だめ。まるで弾かれるかのように腕がちぎれ飛んでいった。
「は!?」
「見たでしょ?私が入ろうとするとこうやって吹き飛ぶの。全く、腕だって無料じゃないのに勘弁してほしいわ」
(我もだな。体の先が消失したので歩を止めることができたが、シュブ=ニグラスはそのまま肉体の半分が)
「シュドちゃん?」
(失敬、聞かなかったことにしてくれ)
確かに、これは普通じゃない。
まず神話生物の肉体が吹っ飛ぶあるいは消滅するレベルの衝撃が触れると起こる<結界>と思われるものが
「あれ?私の腕は別に吹っ飛びませんよ?」
「...はあ?」
「え?」
え、どゆこと?結界があるんじゃないの?
なんでリーシャの腕は飛ばない?
「ああ、<召喚獣>だから召喚者が入っていない<ダンジョン>に入れないとかか?」
「いやだから<召喚獣>じゃなくてい<神話生物>だって」
「どっちでもいいだろそれ。とりあえず、そういう理由じゃねえのか?」
いやどっちでも良くないのよ。
「ふむ、ならマリア、入ってみて?」
「はいわかりました」
しかしそんな議論の時間はない。刻一刻とゴブリンの群れは僕たちに近づいてくる。
「リーシャとイジさんも。何かがあった時のため、同時に入りましょう。もし仮に出入り口が封鎖されても別行動にはなりません」
「わかりました」
「そうだな。それが俺たちができる最も生き延びる方法だ」
...こうやってみると、傾斜角がかなり鋭利だな。ゴブリン用っていうのもあってか、かなり狭い。
天井は低くしゃがまなければ通れそうにないし、横幅もないため3人同時は本当にギリギリだ。
「よーし、行くぞ!」
「おう!」
「はい!」
イジさんの掛け声に合わせて、一斉に入る。
...もちろん、しっかりと入れる。なんなら少し余裕が
ガコン!
「「「!?」」」
その瞬間、階段が一斉に坂になる。
傾斜角が急なのもあって、そのまま滑り落ちるがなんとか片手で壁の凹凸に...
...片手?
「わっ!?」
リーシャの声が途絶える。
「どうし、うわっ!?」
バシャアと液体が上から流れてきて、それに飲み込まれてしまう。
これは...油。それもかなり滑りやすいタイプの。
「なんだっ、わぷっ」
油の勢いと滑りやすさによって坂を一気に滑降していく僕とリーシャとイジさん。
だがしかし、ドシン!という急な衝撃で、坂滑りを終えたのだった。
「いたた...」
背中から着地したため身体中が痛い。ちょうど見ている上からは油が流れてきている穴が壁に張り付くように天井に開いているのが見て取れる。
「こっからきた、ってことだよね」
「っ、くそ、まさか入ったらすぐのトラップだとはな」
幸先が悪い。だがそれ以上に...
左腕を見る。
「...ない。ショゴス!」
返事がない。
「シュブ=ニグラス様!」
返事はない。
「シュド=メル!」
何もない。
「マリア、どうしたのですか?」
「<神話生物>がいない」
一体どこに...あ、もしかして<インベントリ>に。
-エラー。<<インベントリ>使用不可区域>です-
は?
「どうしたんですか?」
「いや...急に<<インベントリ>使用不可区域>だって出てきて」
「なんd」
一瞬、だった。
音もなく、イジさんの頭には矢が刺さっていた。
「あ...?」
ばたりと倒れるイジさん。おそらく矢を射った相手がいるのは...
「さっき僕の話に釣られてこっちを向いたから、この通路の先!」
リーシャが走る。別に復讐するわけではないが、それでも先に殺さなくてはならない。
なぜなら、このままだとこっちが先に死ぬからだ。
僕も走り、リーシャの後を追う。しかしリーシャはとても早く、僕の足じゃ追いつかない。
...<神話生物>がいれば。
「クソッ!」
少しの間は知っていると、目の前にはリーシャと<ゴブリン>が戦っている姿があっ!?。
「なっ!?」
「っ、マリア!?」
後ろを見れば、そこには<ゴブリン>。
一体どういうこと...ああ。
ここは暗い。だから、わかりにくいように枝分かれさせてある窪み、簡単に言えば、元々の通路に沿うような形で掘られたところがあったらしい。
まじかよ。
しかも、ずっと痛い。おそらくショゴスがいないため痛覚をシャットアウトできないのだ。それと同時に再生力も落ちているはず。
「ギギギャ!」
「今助、かあっ!?」
「リーシャ!?」
見ると、今度はリーシャが右足に棍棒の一撃を喰らっていた。
...もう選択肢は、ない。
「っ!」
すぐにリーシャを抱え上げ走る。
背中は痛むが全身やけどよりマシだ。これくらいの痛みなら全然我慢できる。
「...今は、逃げるしかない、か」
<神話生物>がいない...そのことを考えすぎて今僕がどこにいるのかを忘れてしまった。
ここは敵地で、しかも事前情報も何もない、薄暗くて視界が良くない、狭い洞窟。
相手にとって僕らは飛んで火に入る夏の虫、カモだ。
...なんて、か弱いんだ。僕は。




