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冒涜的な魔王の種は今日も今日とて生き延びる  作者: はじめ おわり
第一章 未狂理解不能
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本棚のある部屋

皆さん、お待たせしました。

 そこは、特になにも変わったように見えない部屋だった。いや、厳密には「本がぎっしりと詰まった本棚が大量にある」と言うことが変わっていないように見えるだけだ。


 だけど、僕自身は違う。ドアを開けた直後、僕を内側から引っ張る力が強くなっていた。


 自然と足が前へ歩み始める。というか結構暗いな、ここ。明かりが微かにあるのか周りが見えないわけじゃないけど、それでもお化け屋敷並の暗さなのは間違いない。


 本棚に詰まっている本もおかしい。目が痛くなるほど色がバラバラ、しかも背表紙に題名は書かれていない。これだと本を探すのも一苦労だな。


 でも、僕には()()()()がある。この引っ張られる感覚は移動するたびに大きくなるけど、たまに小さくなる。そんな時は進んでいる方向を変えればまた強くなる。


 そういうことが大体10分進んでわかったけど、未だ収穫はない。実際、本棚によって壁になっているところも......


「クルルゥルルウゥゥゥ」


 何かの、声。すぐに呼吸をとめ、体を小さくしながら背を本棚に任せる。勘が言っている、「やばい奴がいる」と。


 ドシドシというおそらくそいつの歩行音は、そこまで時間をかけずに過ぎ去っていった。念の為耳を澄ませてみると遠くの方で歩行音が聞こえる。多分、さっきまで近くにいた奴の音だろう。


 あまりにも急すぎる展開だ。さっきまで、何もなかったのに。


 軽く股が湿る。しかしながら、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 10秒使って深呼吸する......うん、何とか落ち着いた。


 しかし、体の震えは止まっていない。声が聞こえてすぐにできた行動も、一種の生存本能だと考えた方がいいかもしれないな。


 ...しかし、なぜだろうか。今、ついさっき、確かに何かまずいことが起きたかもしれなかったのに、僕は今、()()()()()()()()()


 自然と、笑みがこぼれる。体の震えは、恐怖というよりも悦びに近くなっている。


 なるほど、僕という人間が少しわかってきたような気がする。僕は多分、危険を楽しむヤバいやつに違いあるまい。


 前世の記憶がほぼない状況の今、僕を形成している何かがわかるのはありがたいことだな。


 ...気持ちを切り替えよう。僕は今、やばい奴がいる図書館で何かに導かれながら探し物をしているんだ。こんなところで道草食ってる場合ではない。


 一歩踏み出す。足音をできるだけ立てず、かつ迅速に。


 もちろんうまくいってるわけないが、意識しているだけでやらないよりマシにはなる。


 ドシ、ドシ


 む、微かに足音。場所は....左後方か!


 早歩きで本棚に隠れる。僕は縦に並ぶ大量の本棚に沿って進んでいて、その途中にある横に一直線の通路に隠れているわけだ。


 少しだけ頭を出してみると、本棚の反対側に()()()はいた。


 人型で、小太りしてて、だけど普通の人じゃもち得ないでっかい手と爪。見るだけで嫌悪感を刺激してくる見た目を、何故か僕は見た瞬間にそいつの反対側へ早歩きしていた。


 しかしその理由は明白で、つまり僕は奴がなんなのか見ただけでわかってしまったからだ。


 奴の...奴らの総称は「グール」。クトゥルフ神話では「食屍鬼」、他のゲームとかだと「食人鬼」とも言われる奴らを僕は思い出した。


 そして奴らがグールだということはつまり、発見されたら今の僕じゃ逃げられないということでもある。まあそこら辺は流石に薄々勘づいていたけども。


 なんとかして離れつつも引っ張られる感覚を頼りにして奥に進む。しかし音には最新の注意を払わなければならない。なぜなら、グールは人間よりも聴覚が鋭いから。


 さっきからドシドシという歩行音も近い。バレないようにそおっと進む。


 ドックン!


「!!!」


 不意に、体の中央から周りにも聞こえたかと聞き間違えるほどの、心拍音。そして右上方向に引っ張られる感触。


 見上げてみると、そこには周りのカラフルな色と混ざり合わない、鼠色をした本があった。


 不思議と手が伸びて、その本を本棚から抜き出す。


 タイトルは無く、結構古い本のようだった。


 それを手に取ると引っ張られる感覚は消えて、


 逆に、背中から伝わる身の毛のよだつような感覚だけが残っていた。


 振り向いた時には、すでに遅く。


 目の前にはあまりにも大きな鉤爪が迫ってきて


 ============================================


「はあっはあっはあっはあっはあっはあ」


 あ、あ、い、、いまのは...


「はあっはあっはあっはあっはあ」


 荒い呼吸が止まらない。止めたくもない、


「はあっはあっはあ」


 でも意に反して呼吸は楽になっていく。


「はあ...はあ...」


 だんだんと冷静になっていく精神の中で、僕は周りを確認する。どうやら暗くはないらしい。


「はあ...あ、あはは、は」


 乾いた笑いが出てくる。自分はいつの間にかしゃがんでいて、足元がびしょびしょになっていて。


 そのままバタリと崩れ落ちる。異変を察知して駆け寄ってきた母さんが見える中、意識が消えていく。


 でも、なぜか、脱力する体でも抱えてる本だけは、離したくなかった。

なんとか出てきてくれましたね。今回は影が薄かったグールさんでしたが、これからもたまに登場する(予定)ですのでしばしお待ちを。




次のクトゥルフ神話生物は心情とか色々書けたらいいなあ...

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