絵に描いた餅、そんなものは存在しない
あ、そういえば最近言ってませんでしたのでここらで。
今回の章は結構やばいので食事中などに見るのはお勧めしません。
ランタンで照らされた、明るい道。
よく見るとそのランタンは精巧な作りである。というのも、壁についているそのランタンの全てが同じなのだ。
大きさ、ガラスや枠の色、華美な意匠まで。
これ、人間が作ったものかな。でもそんなものなんで<ゴブリン>が...
「ギギャ!!」
自分についている首輪についたロープ、それを思いっきり引っ張ってくる。
やめてくれ。結構この首輪締まってて呼吸が辛いんだ。
それに今の僕はとても歩きづらいんだぞ。片足がないんだからね。
「ギャギャ!」
はいはい動くから。少し遅くしてくれ全く。まあ僕自身は僕の肉体を動かせないんだけどね。僕、精神担当だからさ。
...しかし、まずいな。肉体の僕が死んでからすでに30分。いや、厳密には死んでないか。
まるで生きているようには見えないというか、ただ動いているだけというか。
ああ、機械。そうだ機械っていうのがおそらく正しいだろう。
多分痛みによる一時的な気絶。あるいはショック死。でも、なぜか動いている。
僕には聴覚と視覚の情報が送られてきているというわけだ。
最低限生きるのに必要な情報ではあるけど、そもそも肉体の僕からの反応がないに等しいにも関わらずこうやって僕が生きているのがおかしい...
...やめよう、こんな思考。今やるべきことは引きずられて動かされているこの状況の終着点について考えることだ。
などと考えているといつの間にか道を脱していた。
繋がっていたのは広い空間。上の方は開放的で暗い空が見えるほど広く、縦横もまあまあ広い。
少なくともシュブ=ニグラスは寝転がれるような広さだ。
「ギギャギャ!ギャ、ギギャ!」
「ツトメ、ゴクロウ、ヤスメ、オマエラ」
そして、そんなにも広いこの空間にも、一定量の<ゴブリン>はいる。
2体ほどはなんか高価そうな鎧で武装したやつであり、なんか強そう。そいつらはまるで門番かのようにさっきの道の隣にいる。
次におよそ30体ほど。軽い武装ではあるもののとても動きやすそうな奴らが、それを守護するかのように警備していた。
「<ケイビ・ゴブリン>、コイツ、オサエトケ」
しかしその一言で僕の元へ群がり、僕が動けないように抑えてくる。
ちょ、おい僕の右脚を触るな。止血もされてないんだからさらに血が出てくるだろ。
「サテ、ニンゲン」
...まあいい。いやよくないんだけど、問題は目の前の、黄金の椅子に座ったやつについてだ。
肉体はとても巨大でおよそ4mはあるだろうその体には、あまりにも不釣り合いな黄金と宝石が飾られている。
醜悪な顔、肌、声。それらがなかったら一国の王に相応しいと言えるだろう。
「オマエ、ダレダ」
お前こそ誰だよ。まあさすがにわかるけど。
>キング・ゴブリン<。<ダンジョンボス>に相応しい存在である、というのはこの場に来て理解したぞ。
差し詰め醜悪王。と言ったところか。
「オイ、シツモン、コタエロ」
いやあごめんなさいね。今、喋れないんですわ。
「...?コイツ、シャベレナイ?」
そうそう。
「...ダナ」
玉座から降りて僕の方へ近づく醜悪王。
そして思いっきり顔を掴んで持ち上げられてしまう僕。
握力、すごいな。結構痛い。
「フーン。イガイ、ジョウモノ?」
無理やり口を開けようとしてくる。無論抵抗なく受け入れる。死ぬよかマシだからね。
すると喉に手を突っ込んできた。味覚や触覚が死んでいなかったら吐いていたことだろう。
「...サイズ、マアマア。コドモ、ソンナモノ」
頭を掴んでいた手で見えない速度で腰を掴み、今度は下半身の確認。
一通り匂いを嗅いだ後右足を注視している。
「アシ、ナイ。ロウドウ、デキナイ」
...言語能力はアレだけど、しっかりものを考える知能はあるな。
と、掴まれていたところから解放され、地面に投げ出される。
「トリアエズ、オンナ、チカ、2、デイイ」
一体そこはどこなのだろうか。全く知らない状態でまた引きずられていく。
...というか、また引きずられるのね。肩さえ貸してくれれば歩けるんだけどなあ...
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「あ、う。はっ!」
「ギギャ!」
「がはっ!わ、わかった。起きるから」
「片脚ないの、本当に大変だなあ。起き上がるだけでも磔台を使わないといけないからね」
「ギャギャギャ!」
「ん?外?ああ、仕事はもう終わったんだね。わかった」
「ギギ!」
「いやいやそんな引っ張らないで。僕、今片脚ないんだよ?歩くだけ一苦労なんだから」
「全く、それにしても今回は仕事終わりに僕は死んだか。まあきついもんね、途中からでも相当きつい」
「何がやばいって、ただの性的欲求を満たすためのものとして扱うだけでなく、しっかり情報を引き出そうと拷問もしてくるところなんだよね」
「おかげで綺麗な爪は全部剥がれ、体のあちこちに火傷痕や打撲痕がある状態だ」
「まあ拷問は慣れてるしいいんだけどね。そもそも痛みには<ドラゴン」
「いや?おかしいな?確かに僕はここに来て2週間経つけど、その程度で拷問になれるか?」
「僕はまだ6歳。肉体的には全然成長中だけど、2週間拷問漬けと言っても過言ではない状況であればまず死ぬだろう」
「なのに...慣れている?おかしい。慣れたからと言って我慢できるそれじゃないし、今の状況は死んだ方がマシな状況だ」
「でも生きようとしてる。拷問には慣れているとか言う。それって」
「ギャギギャ」
「ああ、ついたか。この状態でこの牢に来るのも3日ぶりか」
「...!?マリア!」
「リーシャ!この姿で会うのは」
「よかった、まだ生きてたんですね!」
ガバッ
「うーん、いつも死んでいるってわけじゃないのだけど。リーシャも生きててよかったよ」
「はい。マリアのおかげです。そのせいで、マリアは通常の2倍、いや3倍くらい仕事量が多いですが...」
「まあ慣れてるから...って、これにも僕は慣れてるのか。ほんとなんでだ?」
「ま、マリア?」
「あ、ごめん。ちょっと考え事してて。すぐ奥に行くよ」
「それにしても大変ですね」
「何が?」
「今のマリアは、その、精神が死んでいる状態、なんですよね」
「そうだね。だから心の中で思考ができなくて、思考内容が全部声という形になって出てくる。おかげで精神攻撃は効かないんだけどね」
「...なんか、かわいそうです」
「何回も聞くけど、何が?」
「だって...だって、いつもは2つなんですよね」
「まあそうだね」
「それが片方だけになって...できないことが増えて...なのに、私のことを守ろうとしています」
「だってそれが僕の<クエスト>だからね。それもこんなところに来た時点で意味はないかもだけど、でもできるだけ君のことは守らないとだし」
「それがかわいそうなんです」
「はい?」
「仕事のために全てを投げ出す...たとえ命に変えてでも。そういうことですよね?」
「うん」
「なんでなんですか!?私あなたと関係ない一般人ですよ!?」
「いや、その言葉には語弊が」
「おいリーシャ!マリアが久しぶりにその状態で帰ってきて嬉しいのはわかっているが、落ち着け!」
「だってさ。リーシャ」
「あうう...」
「あ、ところでどう思います?アンジェリア。僕、拷問にも性行為にも慣れているらしいですよ?」
「知らん」
「うわあ一言で終わらせちゃったよこの人。まあいいか、悩んでることでもないし。今は別のことだ別のこと」
「そうだ...この<E>作戦を考えたのはお前だからな。マリア」
「わかってます。最も考えたのは精神の僕らしいですけど、まあ記憶は統合されているので全然わかります」
「その言葉、もう何回も聞いたぞ」
「何回も言わないと忘れてしまうので」
「さて。それでは会議を始めましょうか」
そろそろわかる人はいるかも。まあまだ2話なんだけど。