発動時効果
書きたい欲求が収まらないほどまた短いです。
しかし2話の合計ならいつもと変わらないと思うので...
目が、覚める。
「ギャギャギャ!」
...いつ聴いても、不快な声だ。
「ギ...ギャ!」
...はあ。肉体の僕はとうの昔に意識を捨て、今は僕がここにいるのみ。
「ギャッギャ!」
当たり前だろう。僕に五感はない。だからこれは肉体の僕が間接的に伝えるべき情報を伝えてくれているだけだ。
機械のように、パターン化されたプログラムを使ってね。
「ギギ、ギ、ギャ!!」
...じゃなかったら、僕はもう死んでいる。精神的にね。
こんな状況、普通なら耐えられるはずがない。僕は普通の人間、拷問対策なんてしていないのだから。
薄汚れた洞窟、その奥にある巨大な地下空間。
そこから枝のように伸びた道のうちの1本のさらにそこから枝分かれした場所にあるこの部屋。
そんな、視界が赤と白に染まり続ける部屋の中では...
...いや、こんな思考していても意味はないだろう。
しかしやることがないのも事実。さてどうしたものか...
...ふむ。なら生きる理由を思い出すか。
今の僕ははっきりいって奴隷と同じ、というか奴隷だ。
慰み者になっているだけマシ、生きているだけマシ、そんな生物。僕の過去と比べたら圧倒的マシだ。
そんな絶望的な状況で狂気に陥らず、なぜ生きようとするのか。
...この思考ももう何回も繰り返したはずだが、悲しいことに今の僕に時間感覚はない。
記憶の欠如もだいぶ早く、だからこそ、そろそろ狼煙を上げないといけない。
で、あるなら。思い出したくもない過ちを思い出し、おそらく失敗したらもう終わりであろうそれを成さなくてはならない。
肉体の僕を生き返らせ、この状況を脱出する。
僕は、何をどうしたって生きるのだから。
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罠だ、とは思っていなかった。というか普通に僕が一緒じゃないと入れないと思っていた。
いやまあ、これ自体は罠ではないのだろう。なぜだかはよくわからないけど僕に対しては特攻とも言えるほど刺さっているだけである。
「はあ...はあ...」
「っ!後方から<ゴブリン>!」
...本来なら、勝ち確であろう存在。弱小生物。
一体のスペックは低く、集まったとしても神話生物やリーシャのおかげで余裕。
その、はずだ。ああ、もしもそうであるのならね。
「...ぐっ!?」
「いぎっ!?」
転んだ。石に躓いた?いや違う。
貼られていた縄に躓いたのだ。さすがに狡猾すぎるだろおい。
「ギギャ!ギギャ!」
「クソッ!」
走る。疾る。奔る。たとえ絶望の中にあったとしても、僕は「死ぬ」という選択肢を取らない。
たとえどれだけその方が楽だったとしても、僕は苦難の道を、茨の道を選ぶ。
「リーシャ、傷の方は?」
「だ、だいぶ癒えてきましたが...」
「...いや、いい」
「...すみません。私がマリアと一緒に冒険してみたかったばかりに...」
「っ!い、いや、大丈夫。僕の方こそ、こっちの方に行こうと言わなければこんなことにはならなかった」
運命、それがイタズラしていなければ。僕が思うに、この状況は僕がどんな人生を生きていたであろうと関係ないのだろう。
いわば試練。僕に、神話生物がいない状況を作らせて、死ぬかどうかの瀬戸際を見て楽しんでいる。
さすが胡散臭いおっさん。やることが卑怯だ。
というかこれやばいな、ほんと。<インベントリ>に全部しまってたから何も持っていないこの状況、本当に詰みといっても過言じゃないだろう。
「<<インベントリ>使用不可区域>。ボス部屋などの一部の<ダンジョン>で実際にあるのは知っていましたけど、まさか全域がそうなっている<ダンジョン>があるなんて...」
「僕も知らなかったよ。そもそも<インベントリ>が封印されただけで<神話生物>が出て来れなくなるなんてね」
今、僕は暗い洞窟を走っている。
左腕がなく、怪我人を背負って、猛進中。
「...やっぱり、私足手纏いなんじゃ...」
「そんな、わけ、ないでしょ...はあ...はあ...」
僕だって疲れてる。しかし走らなければならない。
走らなきゃ、生きて帰れない。
「...!?」
「どうしました?」
「ひ、光が...!」
無我夢中で走り、その光を見る。
しかし、自分でもよくわかっていた。
ここは巣穴。奥に進めば進むほど、そこは奴らのテリトリー。
であるなら。
「...あ」
「ま、マリア?どうし...」
その光とは。
「...はは」
「あ...ああ!」
絶望の入り口なのだ。
お膳立ては整った。
次回からはまともな長さに戻ります。