唐突
さて...今回は結構悩みました。
「<魔法陣>っていうのはそもそも空間に描くものではないわ」
「そうなの!?」
そしてまず前提条件を崩された。クタニド様に書き方を教わった時は空間だったけど...
「はあ...いい?他の<魔法母体>と比べて<魔法陣>が優れている点は2つ。まず一つが、音があまり出ないこと」
確かに音が出ない。<詠唱>は特に喋って発動させるものだからその時の声として音が出る。がしかし<魔法陣>にそれはない。<魔法陣>自体の発光はあるけどそれくらいだな。
「そしてもう一つが...これは教科書832ページに書かれているのだけど、この世界には<魔力>がありふれたものとして存在しているの。人間の体にも、石や植物にも、空間や地面にも。そしてそこに蓄積された<魔力>を<魔法陣>は使えるのよ」
「ふむふむ...どういうこと?」
まるで意味がわからない。前世では世界が元素で構成されていることはわかったけど<魔力>なんていうものは知り得なかった。
転生者である以上前世の知識に引っ張られてしまう。クトゥルフ神話には魔力という要素があったけど、あれって精神そのものみたいなものだったしね。
「あんまり時間がないから手短に説明するけど、<魔法陣>は描いた媒体、例えば石に書いたとしたら、その石の中にある<魔力>を使って魔法を使えるの。理解できた?」
「あー、バッテリーみたいなものか」
「言ってることはよく分からないけど、多分それであってる」
<魔道具>と似たようなところがあるけど、もしかすると相違点がしっかりとあるのかもしれない。
これはまだまだ僕が勉強不足な証だな。あとでしっかり調べよう。
「で、召喚...<召喚魔法>に移るけど、この召喚というものは<魔法部類>に属するもの。<魔法属性>とかは自由ってわけなんだけど...試しに描いてもらっていい?確認したいことがあるから」
「え?ああ...」
とりあえず<ネクロノミコン>を開いて探してみる。いつの間にか手に持っていることに驚いている<勇者>だけど、気にしない。
えっと、この状況なら...お、この方々かな?
今回は旧支配者がすごく多いし、この召喚も旧支配者をターゲットにするとしよう。
「...決まったみたいね。そうしたら次は魔法陣を描いてみて。ただし地面に」
「地面に。わかった」
とりあえず描く。いつも通りに。
今回は...少し靄がかかりつつ、それでいてしっかりと実体が主張をしてくる、そんなもの。
...こんな感じかな。
「...そういうこと。えっとね、とりあえず...ここと、ここ、それとここ」
「そこがどうしたの?」
「ここは<魔力>をどこから消費するかを選ぶために描くところなの。今はあなた自身から<魔力>を吸い取るように描かれているわね」
「はいはい」
「だからこれを...こうする。するとこの<魔法陣>はここの地面から<魔力>を吸い上げるようになるはずだから、他のところも同じように描いてみて」
「おっけい」
一部を描き直す。この間、確かに何かの糸がプチプチと切れていく感じがした。
不思議な感触だけど、いやなものではない。ただ...
「よし、それなら...って、一つ描き直し忘れているわよ。ここも...」
「いや、これは直しちゃいけないような気がする」
これを切った場合、何かまずいことが起こる気がした。
ただの勘だけどね。
そうすると、メーノは不敵に笑い、
「そう...ならそのまま続けて。召喚できるならもう召喚した方がいいわね」
ちらりと戦闘中のメェーちゃんを見る。
...ボロボロ、というわけではないけどいいこぶしはもらってるし、バーストには一切怪我がない。
タオルを投げるわけにはいかないけど、助っ人は用意できるからね。それでなんとかしてもらおう。
「ではやろうか。すう...」
深呼吸。召喚自体は何度もやったけど、今回は教えられたやつを少しだけ改造したもの。
ちょっと緊張するが...よし。
「さあ神々よ、我の声に応えよ。
。それは、今もなお支配しようと画策する旧支配者が1柱」
瞬間、バーストがとてつもない勢いで投げてきたのは、剣。
黄金の剣。異常な強さのそれだ。
「。片や霧、片や死肉の双子はまさに異形にして悍ましく」
しかし、こっちには天下のショゴス。頭を2つに裂くことで避ける。
もうね、強いどころの騒ぎじゃないですよ。防御面は最強と言って問題ないだろうね。
「。地母神と、空の神あるいは彼方の地の神を親とする災厄の子なり」
それをみてこっちに走ってくるバースト。流石に援軍は辛いと考えたのだろう。
だが...もう遅い。
「来い、ナグ!そしてイェブよ!」
<魔法陣>が怪しく光り始める。漆黒とも、深淵とも言える色で。
まず、感じたのは頭痛。だいぶ軽いものであり、今までのガクン!とした感触は一切なかった。
これはなかなかいいな。次からはそうするとしよう。
「なるほどこれは」「なかなか面白い」
声が聞こえる。男とも女とも取れない、言い表すなら機械の声が。
しかしてそこにいるのは人型...いや、いやいやいや。
確かに人型だ。だが違う、それは異常だ。いや、なんで結合双生児なんだ。
体の大部分は共有している。腕は片方に1本ずつ。だが脚が2本と太い脚が1本で、頭と首は1つだけ。いや本当に1つだけか?
「そんなわけないだろ」「こっちこっち」
くるりと回転するとそこにはもう一つ顔があった。
というか裏と表...でいいのかな。それで全く違う様子だ。
表...一番最初に見た方は、まるで蜃気楼のようにあやふやだ。触ったらそこにいないのかもしれないほどに存在が希薄。
「そっちがイェブ」「なかなかすごいだろう?」
だが裏。こっちはさらにやばい。ドロドロと溶けた肉体が、まるで血液のように循環し、形をなしている。
「面白い肉体でしょ?」「名はナグだ」
それでいて人型。3本の脚はよく見ると踵が繋がっているのを考えて足が計6もあり、また手も手の甲がないというマジで不思議な状態。
裏と表の境目なんて見たくもある。いったいどんな状態なのだろうか。
「チッ、面倒な奴が現れましたね!」
攻撃するバースト、しかし当たらない。
まるでそこに存在しないかのように、それは空を切った。
「面倒でしょ」「俺たち強いからな」
「「覚悟しろよ、旧神」」
そして、
「よそ見はいけないよ!」
「しまっ...」
音が遅れるほどの速度で吹き飛ばされるバースト。
壁に激突、大きな砂煙が上がる。
「おおー、よくきたねえ。ナグ、イェブ」
「母さん久しぶり」「なかなか会う機会ないからね」
「同時に喋るっているから本当に聞き取りづらいねえ。うんうん、いつも通りで安心したよ」
わーお、メェーちゃんが母親の顔をしている。
あのメェーちゃんがだ。あの可愛い可愛いメェーちゃんがだ。
...それもまたいい。
「さて、じゃあまあきて早々悪いけど協力してね。バーストをチャチャっとやるからさ」
「りょーかい」「頑張るぞ、俺たち」
「「あんたも見とけよ」」
「は、はい」
ナグとイェブは、旧支配者に属する神話生物です。
ナグは食屍鬼、つまりグールの祖父とも呼ばれている存在で、
イェブは蠢く霧のイェブと言われたりもします。
外見?これでも優しくしたはず...はず?